第48話 タコライスを食べるタコ
その夜、里桜と互いの情報を交換し合った。
佑が自分の姉を好きだった事実は、里桜にとって喜びと憂いの両面をもっている。
親友のさーやさんの恋が、どうなるかわからないからな。かなり落ち込んでいた。
でも美鈴さんが佐々木さんとのお付き合いを断ると言う事は、佑にも希望が残されていることを意味していた。
焚きつけてしまったからな。俺はちょっとほっとしている。とは言っても、美鈴さんも新たな自分の道へ進もうとしている大事な時となりそうだから、恋愛どころじゃないかもしれないけれどな。
それから一週間、俺たちができることは何もなかったので、みんなの様子を静観するしかなかった。今までだったら、色々考えすぎてろくでもない発想で頭がいっぱいになっていただろう。
でも今は……里桜と分かち合える。互いに知恵を出し合える。それによってクールダウンすることができる。
この関係がものすごくありがたく、心地良かった。
そんな状態だったので、週末のデートは、ぱあーっと盛り上がれるところがいいなと思った。
思い切って俺の趣味に付き合ってもらおうかな。
というわけでやってきた『味の素スタジアム』。F◇東京と鹿〇アントラーズの昼間の対戦だ。
お弁当を作ろうという里桜に、俺は『タコ☆リオ』のタコライスを食べたいからと提案した。
里桜の手作り弁当はものすごく嬉しいけれど、里桜も毎日仕事で忙しいからな。デートの時に弁当を作らなくても大丈夫だって雰囲気を今から作っておかないと、変に習慣化して辛くなっても困るしな。
初めての『味☆タコライス』に目を丸くする里桜。
「ボリュームありますね。でも玄米なのが嬉しい!」
ニコニコと美味しそうに食べる顔を見ていると、俺も自然と口元が緩んでしまう。
F◇東京のタオルマフラーを、おしゃれに結べたとご満悦なのも可愛い。
「じんさん、実は昨夜姉から電話がありまして」
「何かあったの?」
「悩んでいるみたいでした」
「何を?」
「……あの、笑わないで聞いてくださいね」
「?」
そう言って美鈴さんとの会話内容を教えてくれたのだが、話している間、顔がタコのように真っ赤で……可愛い過ぎる。
なぜ美鈴さんの話なのに里桜が真っ赤になっているのかって? それはな……まあ、こんな内容だったんだよな。
『ねえりお、じんさんが好きって、どうしてわかったの?』
『え? そんなこと聞かれても、さーやにそれは恋よって言われて気づいたから。でも、そうだな。えーっと、もっともっと知りたくなったの。もっともっと一緒にいたくなったし。それは理由が無くって、単にどうしようもなくそう思ってしまって』
『そっか……私、恋のできない女なのかな』
『え! そんなはず無いよ、すずねえちゃん!』
『りおみたいに、純粋な気持ちでもっともっとなんて思えない』
『それはまだ、あまり相手の方のこと知らないからかもしれないよ。だって、私も最初はじんさんのことそんな風に思っていなかったし……でもじんさんが笑ってくれたら嬉しくなったり、反対に一緒にいられないかもって思ったらチクリと胸が痛んだり、そんな小さなことの積み重ねだったの。だから、自分の気持ちに気づくまでにも時間がかかってしまって……』
『そっか。焦ってもしょうがないね』
『うん』
『ありがとう』
一気に話終えて、ふーっと息を吐いた里桜。タコライス食うタコって、ダジャレを体現している。
俺のことこんなに思っていてくれたなんて嬉し過ぎるぜ!
聞いていた俺も、実は照れくさくて顔が赤いと思うけどな。
「それは、誰を思いながら言っているんだろうね」
「あ、聞けばよかった」
「いや、お姉さんもまだ良くわからないのかもしれないし、無理に聞き出さなくてよかったと思うよ」
俺の言葉に、里桜は安心したように頷いた。
続けて俺も、昨夜の佑とのやりとりを伝えた。
『告った』
『おお、がんばったな』
『ああ』
『……で、どんな感じだったんだ』
『別に。まあ、美鈴さんは優しいからさ、いきなり断ったりはしなかった。ものすごくびっくりしていたし。だから一応保留。でもま、無理だな』
『なんで』
『佐々木さんが追ってきた』
『げ!』
『俺と美鈴さんが歩いているの見かけたらしくて、必死な様子で。あの目は本物だった。佐々木さん、本気で美鈴さんに惚れているよ。だからあの二人なら大丈夫だと思う』
『佑、そんな……』
『ま、俺は告白できたからもう満足だよ。臣、背中を押してくれてありがとな。やっぱり俺、告白しないで終わっていたら、後悔してもしきれ無かったと思う。だからこれで大満足だ。ありがとな』
『……今から行く。飲もう』
『おお』
というわけで、昨夜は一緒に飲んで今朝急いで家に帰ってからここに来たので、本当はちょっとしんどかった。
でも、里桜にはそんな素振り見せてないぜ。
「そうですか……そうすると、姉の言葉が佐々木さんのことなのか、重原さんのことなのかわからないですね」
「まあな、佑のことを思うと、二人の間で迷っていて欲しいけどな」
二人して同時に軽くため息をつく。
「俺たちが悩んでも、なるようにしかならねえな。よし! 今日は発散しようぜ」
「はい!」
そう言って里桜が必殺道具のように取り出したのはオペラグラス。
そしてコンタクトのケース。
「やっぱり、スッゴク遠いんですね。グラウンドが。私コンタクトにしてもいいですか? その方が矯正視力が出るんです」
「お、おお」
いきなりきた眼鏡無イベント。こんなところで取り付けられるんだと鮮やかな手際をぼーっと眺めていると、準備が整って顔を上げた里桜とばっちりと視線が合ってしまった。
慌てたように、里桜が下を向く。
「ああぁぁ、すみません。良く見えます」
「え?」
「じんさんが……とっても良く見えます。まぶしいです」
今日も里桜は通常運転だ。と思っていたのだけれど……
その後の試合は、互いに一点を取り合うなかなかの好ゲーム。両チームの熱い戦いにサポーターも大盛り上がりだった。
そして、初めてのサッカー観戦に緊張していた里桜だったが、周りの盛り上がりに感化されるがごとく、だんだんリアクションが大きくなっていく。
最初はオペラグラスで静かに選手を確認しながら試合を追っていた。
そして小さな声で、「がんばれ」とか、「おしい」とか言いながら、指をぎゅっと握りしめていただけだったのだけれど、そのうち感情移入し始めて。
「いっけー! そこよ、そこでキーックー!」
そこ普通、シュートって言うよな。
なんか子どもに言うようなセリフで面白いんだけどね。
「キーパー! 止めて~!」
タオマフ振り回している様はまるで熱血教官のような感じで。
試合が終わる頃には、もうすっかり筋金入りのサポーターのような顔になっていた。たった一時間半の間に。変わり身はや!
「じんさん、気持ちいいです! スッキリしました! 大声出すって楽しいです!」
「おお、良かったよ。また来ような」
「はい! ありがとうございました!」
俺はそんなキラキラした瞳の里桜の笑顔が見れて、すげー嬉しかったよ。
でもさ、帰ろうとして席から立ち上がって振り向くと、里桜の顔には眼鏡が装着し直されていた。
え! なんで! いつの間に?
「里桜、眼鏡にしちゃったんだ」
「え、あ、はい。試合終わりましたので」
聞いてねえよ、そんなの。
試合の間、里桜の顔をもっとよく見とけば良かった……
ぶれねえ奴だ。
☆感謝 読者様から教えていただいたデートコース☆
提供 きひら◇もとむ様より
『さて、リクエストコーナーですが、サッカー観戦かな。代表戦でもJリーグでもいいんですが、タオマフぶんぶんでゴール決まって大声で叫ぶとか。サッカーじゃなくても、朝比奈ちゃんらしからぬ姿が見たいですね。』コメントより抜粋。
きひら様 ありがとうございました!
ただ……作者がサッカー観戦未経験なので、なんとなくの雰囲気で書いてしまいましてすみませんm(__)m
でも、二人の心配事を、一時的に吹き払ってくれました(*´▽`*)
きひら◇もとむ様の作品を紹介させていただきます♬
『 僕の世界に降る無色透明な雨は キミ色に彩られてゆく』
雨の音とともに紡がれる優しい年の差ラブコメ。お勧めです!
↓
https://kakuyomu.jp/works/16816452220797506161
☆早くコロナ禍が落ち着いて、こんな風に心置きなく大声で応援できる日が来ますように!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます