第35話 幸せを分かち合える友
シャワーを浴び終えて、ベッドに横になった。
湯の温もりに包まれて、心だけでなく体もふわふわした感覚に包まれる。
「ふわぁ~しあわせ」
まだ興奮が治まらなくて、ドキドキしている。今日は本当に色々なことがあった。
初めてのことばかりで、何をどう思い出せばいいのか分からないくらい驚いたこととや嬉しいことがいっぱいで、頭で花火が打ちあがっている感じだけれど……
その時ふと、さーやの事を思い出した。
きっと心配しているはず。Lineだけでも入れておこう。
入力する文字、なんて書いたらいいんだろう。書きたいことは山のようにあるけれど、そんなに書いても迷惑だよね。シンプルにいこう。
『こんばんは。遅くにごめんね。とりあえず進捗報告だけ。柿崎さんとおつきあいすることになりました。背中を押してくれてありがとう。ちゃんと気持ち伝えられたよ。さーやのおかげです。本当にありがとうございました』
これでいいかしら。震える手で送信ボタンを押す。
ふう~
と同時に、Line電話の着信音が鳴った。思わず飛び上がる。
名前を確認して直ぐに会話ボタンをスワイプ。
「おめでとう!」
満面の笑みのさーやと目が合った瞬間、私はグッと込み上げる喜びを感じて、涙がポロリと零れた。柿崎さんと両想いになれたと言う実感が、初めて沸き上がってきた。
「ありがとう」
「良かったね。本当に良かった」
一緒に喜んでくれるさーやの優しさに、嬉しさが何倍にも膨れ上がる。
「さーやのお陰だよ。さーやが私の気持ちを気づかせてくれて、背中を押してくれたから、私、今日ちゃんと柿崎さんに気持ちを伝えることができたの。さーやがいなかったら、こんな奇跡起こらなかったよ」
「もう、里桜ったら、大げさ。でもそう言ってくれて嬉しいな」
さーやの目も赤くなっている。
本当にさーやと出会えて、私は幸せ者だな。
「柿崎さんとお幸せに~」
「うん」
「今日は疲れたでしょ。これで電話終わりにするから、幸せ気分を満喫してね~。おやすみ」
「ありがとう。おやすみ。さーや」
さーやはそう言ってバイバイと手を振った。
画面の暗くなった携帯を握ったまま、気持ちが溢れてしばらく泣いてしまった。
でも嬉し涙って、なんでこんなに温かいんだろう。
心地よい疲労感の中、静かに枕に顔を埋めた。目をつむって柿崎さんの顔を思い浮かべる。幸せな気持ちになって、そのまま眠ってしまった。
アラーム音で目を覚ました。昨日の朝用に、いつもよりも早い時間にセットしてあって良かったと思う。だって、宿題! 考えてなかったから。
週末、どこに行きたいか。考えていかなくちゃ。
海の青って、なんだか落ち着く色。近づけば青では無くて透明なんだけどね。
でもだからこそ、近くじゃ無くて遠くから眺めて、その青い水を両手で掬い取りたいと思ってしまう。
海も島も船も、すっぽりと私の手の中。宝物みたいに。
真っ直ぐな水平線には、どこどこまでも行かれそうな自由を感じる。遮るもののない視界には何もかも見通せるような安心感を得る。
両手を広げて『待っているよ』って声が聞こえてきそうな風景。大好き。
でも、一人で行くのは寂しいから、実際に行ったことは少ないんだ。家族で行ったのと学校行事で海近くの水族館に行ったのと……数えるくらいだわ。
突然、目の前にテレビで見た光景がピカって光った。
そうだ! 決めた!
私は嬉しくなって笑った。柿崎さんにお願いしたい場所。決めた。
ささっと起き上がると支度を始めた。今日からは洋服もよく考えて着て行こう。今までは自分に言い訳して、単に楽していただけだわ。恥ずかしいな。
朝食をとりながらニュースを見る。世の中のこと、ちゃんと追っかけておかないと。私はただでさえ世間知らずだからね。お勉強しないと。
髪型、化粧、身だしなみOK。
靴も汚れていない。鞄も膨れていない。眼鏡も綺麗。
よし! 今日もがんばるぞ。
家を出て駅へ向かって歩く。昨日は暗かったけれど、柿崎さんと一緒に歩いた道。
帰りが遅くなると、時々怖く感じることもあったけれど、柿崎さんが一緒だと全然怖くなかった。色々お話もできて楽しかったし。
これからも一緒に歩けたらいいなと思って、こらこら甘えすぎだぞっと思う。
急に顔が火照ってきて、焦って周りを見回した。周りを歩く人はみんな前を向いて速足。良かった。みんな気づいていないよね。
恥ずかしいけれど、幸せな気持ちを隠すことなんてできないから、私は自然と笑顔になって歩く。
幸せ!
でもその時、ふっと酒井さんの顔が思い浮かんだ。
酒井さん、悲しそうだったな……それなのに、私酷いこと言っちゃった。
色々教えてくださった優しい先輩なのに。柿崎さんに嘘を言ってでても、聞いて欲しいことがあったに違いないわ。
謝らないといけないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます