第11話 親友の恋路を応援する

「あの、重原さん! 今現在彼女さんがいらっしゃらないと言うのは本当のことでしょうか?」

「へ? か、?」


 物凄く戸惑った顔をした重原さん、慌ててブンブンと顔を左右に振った。


「い、いないよ。いないけど……なんで?」


 わ、私ったらなんて失礼なことを!

 それにいくらなんでも直球過ぎだわ!


 言葉を口にしてしまった後物凄く後悔した。

 なんでもっとやんわり聞き出せないんだろう。ああ……もっと話術が欲しい。


 でも重原さん、良い方だった。だってちゃんと答えてくれたから。


「す、すみません。いきなり。あの、ちょっと重原さんのこと素敵だなって思っている女性がいて、だからその、重原さんに彼女さ……がいなかったらその人にもチャンスがあるかもしれないと思って」

「それって……」

「あの、私の知り合いです! それ以上は今はまだごめんなさい」


 重原さん、かなり動揺した顔をして、ふぅーっと一呼吸してから尋ねてきた。


「それって、朝比奈さんの身近な人?」

「はい! とても大切な人です」

「そ、そうなんだ。俺も知っている人かな?」

「多分ご存じのはずです」

「そっか」


 そこまで聞いた重原さん、ちょっと嬉しそうな顔になる。

 あれ? もしかしてさーやの気持ち知っていたりするのかな?


 私も嬉しくなって、ちょっと大胆な気持ちになった。もう一歩踏み込んで聞いてみてもいいかしら。


「あの……差支えない範囲で……よろしければ重原さんの好きなタイプの女性をお教えいただけないでしょうか?」

「え? 俺の好きなタイプ? それは……気配りができる優しい人がいいね。仕事をきっちりこなしているのに、笑顔を絶やさなくて柔らかくて、おしゃれで、お化粧は濃く無くて上品で……」


 重原さんの表情が、物凄く優しくなる。

 なんとなく、誰かを思い描きながら言っているみたいな気がする。


 それって、重原さんの好きな女性ひとなんじゃないかしら。

 

 重原さんの表現する女性を思い浮かべて、私はそれがそのままさーやに当てはまることを確信する。 

 もしかして! 重原さんもさーやの事好きなのかもしれない!


 ちょっとドキドキしながら聞いていたら、重原さん、急に恥ずかしそうに口を噤んだ。そして「ごめん。お昼遅くなちゃったね。失礼するよ」と言って、慌てて去って行ってしまった。


 リサーチ……成功なのかな?

 直接本人に聞けたんだから、収穫あったよね。


 私は急に力が抜けて、椅子にまた座り込んでしまった。

 やっぱり、恋愛に関することは難しいな。


 でも、さーやに教えてあげよう。少なくとも彼女がいないのは事実みたいだからね。良かった。

 あれ? 重原さん何を言いかけていたんだろう?

 もしかしてさーやの事聞きたかったのかな?

 だったらいいんだけれど……


 しばらくぼーっと席で脱力。

 お昼どうしよう……社食カフェテリア行くの面倒くさい。でも食べないとお腹すいちゃうな。


 社食カフェテリア横の売店でパンでも買ってこようと思いつく。

 のろのろとエレベーターへ向かった。

 軽快なベルの音と共に到着した扉の中。そこには秘書仲間とおしゃべりしているさーやの姿が。外食帰りらしい。

 さーや以外の見知った顔は無かったので、声をかけるか迷っていると、

「あ、りお」 

 さーやが鮮やかな笑みを湛えて手を振ってくれた。


「これからお昼? 遅いじゃん」

「うん、ちょっと仕事していて遅くなっちゃったの」

「私飲み物買いに売店寄って来ます」


 さーやは秘書仲間にそう言うと、私と一緒に社食カフェテリアの階で降りた。


「大丈夫? ちゃんと食べないと痩せちゃうぞ」

「さーやったら、心配し過ぎ。大丈夫。それより……」


 私は夜まで待ちきれなくなってさーやの耳に囁いた。


「重原さん、本当に彼女いないんだって」


 さーやの目がまん丸になった。

「え、ちょっ、りお! 無理しないで良いって言ったでしょ」


 慌てたように私を壁際へ引っ張っていく。

「そんなこと誰に聞いたのよ」

「……本人に」

「!」

「あ、でもたまたま用事でいらしたところにさり気なく……」


 全然さり気なくではなくて、そのものズバリだったけれど、それは私の話術が足りないからしかたがない。


「もう~りおは、やっぱり無理する」

「別に無理してないよ」

「でもありがとう」


 さーやの嬉しそうな顔を見て、私もスッゴく嬉しくなる。

 だからもっと喜ばせてあげたい気持ちになってしまう。


「うん、それにね……」


 嬉しい気持ちのまま次の言葉を言おうとして、はっとした。


『もしかしたら、重原さんもさーやのこと好きかもしれないよ』

 そんな一言を言いそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。


 これは事実? 違う。私の勝手な推測だわ。

 根拠も無く推測を言うのは、正しい事?

 違うわ。いくら嬉しい言葉であってもそれは違う。

 

 それに……誰かを好きって言葉は、本人がちゃんと言わないと意味がないもんね。


 突然言葉を止めた私を見て、さーやが心配そうな顔になる。慌てて重原さんの好きなタイプの女性像を伝えた。

 なるべく正確に。重原さんの言葉通りに。


「さーやの気持ち、伝わるといいね」

「うん。りお、本当にありがとうね」


 さーやははにかんだ様な笑顔で抱きついてきた。

 なんて可愛いんだろう。きっとこんな笑顔を見たら、重原さんだってドキドキするはず。二人が上手くいくといいなと思いながら、一緒に売店で買い物をして別れた。

 





 

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