第9話 夜の恋バナは楽しい
『やっほーまだ起きてる?』
同期のさーやからのLineメッセージ。
『起きているよ』
『やった。ちょっと話そう』
『うん、いいよ』
『今日さ、片山と帰りがけに飲んだの』
『人事の片山君?』
『そう』
『二人で?』
『そう。でさ、あいつのゲーム考察めっちゃ面白いの!』
『ゲーム好きって言ってたもんね』
『なんかいきなりゲームの登場人物の心理考察語り出したかと思ったらさ、それがもう心理学者かってくらい細かいの。なんか片山が人事なのって納得したわ』
『そうなんだ。凄いね』
『でも飲みながらゲーム考察語り続けてたら彼女出来そうにないね』
『き、厳しい。でもさーやよく片山君と一緒に飲みに行っているよね』
『そうだっけ? まああいつお酒強いから一緒に飲んでて楽なんだよね。話も楽しいし』
『さーやお酒強いもんね』
『本当はざる~でもみんなの前では猫かぶってるけどね』
『話してて楽しい人って、好きな人になったりするのかな』
『そうとは限らないよ。まあ飲み友達としては最高だけど』
『そうなんだ』
『好きな人って言えば、りおのフロアの重原さんちょっと気になる。よく合コン参加してるけど、彼女を作る気は全然無いんだって。それなのにイイ感じに場を盛り上げて、カップル誕生を手助けしてくれる凄くいい人なんだよ』
『そうだったんだ!』
『そう、重原さん包容力高そうでいい感じ』
その言葉と同時に、キャラクターが投げキッスしているスタンプが送られてくる。
私に送っても意味無いのにと面白くなってしまった。
私は必要最低限の飲み会しか参加しない。みんなで和気あいあいと話すのは好きなんだけど、会社の人とはどこまで打ち解けて良いのか、実は加減がわからない。
さーやみたいにお酒も強く無いし、カラオケも得意で無いからニコニコしているしかできないのよね。
そんな飲み会が苦手な私にも積極的に声を掛けてくれる貴重な友人。
それがさーやこと
美人で明るい彼女は、秘書室に配属されている。
気配りもできるから、私みたいに大勢の輪の中に入れない子にも気軽に声を掛けてくれるんだよね。
でも彼女、実はサバサバした性格。食べることと飲むことが好きで、おしゃれは二の次らしい。確かに、休日に一緒に買い物に行ったら結構ラフな格好だったな。
会社とオフは違ってていいの。いつもそう言っている。
会社は戦闘服。自分をいかに魅力的に見せるかに拘っているんだからと。
でもオフはダルダル服だって。
そんな年中無休で肩ひじ張っていられませんからねって笑っている。
この考え方、実は私と同じなのかもしれない。
考えていることは正反対だけれど。
私の場合は会社は無個性服。なるべく目立たず無難に日々を過ごすための服。
オフは思いっきり自分の好きな服を着て、好きな時間を過ごす。
そっか、やっている方向性は真逆だけど、オンオフの考え方は同じなんだ。
なんとなく馬が合うのはそのせいかもしれない。
さーやは人気者だし本人も飲むのが好きだから、よく飲み会に参加しているみたいなんだけど、オフが無くなるのが嫌だから、今は彼氏を作らないって宣言していたんだよね。
だからさーやが恋バナするのはとても珍しい。
よっぽど重原さんの事が気になっているのだと思った。
同じフロアの重原さん、席は離れているから良く分からないけれど、確かに面倒見が良くていつもニコニコしているイメージだわ。
今朝も爽やかに柿崎さんに話しかけていたし。
そう言えばお昼休みも一緒に話していたな……あの時は柿崎さんと目が合ってびっくりしちゃったけど。
なんだろう······柿崎さんの笑顔を思い出したら、胸の奥がキュンってしちゃった。
『ねえ、さーや』
『何?』
『重原さんの同期の柿崎さんとお話したことある?』
『柿崎さん? どうしたの~初だわね。りおから男性の名前が出るなんて』
『ごめん。重原さんのことだったよね』
『いやいや、続きをプリーズ』
……『たまたま今日駅で会ったから』
『で、どうしたの?』
『別に、同じ方向だから一緒にあの大雨の中歩いただけ』
『で、何話したの?』
『雨凄いねって』
『へ? それだけ?』
『たまたま駅で会っただけだし、何話していいかわからないし』
『ふーん。でも気になっているんだ』
『そんなんじゃ無いんだけど』
いきなりLine電話の呼び出し音が鳴った。
ドキリとして慌ててオンにする。画面越しにさーやがパジャマのまま手を振っていた。
「やっほー! りおの初めての恋バナ~気になるから電話しちゃった」
「あ、ありがとう。って全然恋バナじゃないし。ただどんな人なのかなって。あんまり知らないから」
「実は私も良く知らないんだけど、重原さんと同じ大学出身で仲がいい事は知っている。あんまり合コン参加しないけど、でも合コン設定とか頼まれるとしているし、穏やかな話口調で大人っぽいイメージかな。重原さんが早く彼女作れよみたいなこと言っていたの聞いたことあるから、多分今彼女いないと思うよ」
「そうなんだ」
「やっぱり~ほっとした顔してる」
「そ、そんなこと無いよ」
「なんか情報ゲットしたら教えてあげるから、任せなさい!」
「ありがとう」
一瞬、明るくて話上手なさーやが羨ましくなった。
誰かを羨ましいなんて気持ち、とっくに捨てていたと思っていたんだけれど……
さーやみたいだったら、柿崎さんともっと自然に話せるんだろうな。
今朝の自分を思い返して、一人で真っ赤になった。
正直、テンパっていて何を言ったかあまり覚えていないんだ。恥ずかしい。
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