チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【8】『夜中の騒音』【なずみのホラー便 第95弾】

なずみ智子

チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【8】『夜中の騒音』

【問題】


 L美さんは、壁の薄いアパートに住んでいました。

 L美さんの右隣の部屋に住んでいる男性・M藤さんは常識的な人でした。

 ですが、左隣の部屋に住んでいる女性・N田さんは、同性には不愛想で挨拶も返さず、ゴミの出し方も滅茶苦茶で、他人の迷惑を一切考えない傍若無人な人でした。

 特に毎夜、N田さんの部屋から聞こえてくる異様な騒音は、L美さんの貴重な睡眠時間を奪い、L美さんの目の下に黒々とした隈を刻印するまでとなりました。

 今夜も、N田さんの声が聞こえてきました。

 もう我慢ができなくなったL美さんは、台所の包丁を手に取り、”右隣の部屋”のチャイムを鳴らします。

 寝ぼけまなこをこすりながら出てきたM藤さんの喉元を、L美さんは包丁で掻き切りました。

 さて、なぜL美さんはM藤さんを殺害したのでしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : またサイコが来ましたか? ……えーと、チエコ先生、L美さんは騒音元のN田さんではなく、無関係のM藤さんを殺害したんですよね。これは、連日の睡眠不足が原因でL美さんは意識が朦朧としたため、訪ねる部屋を間違えてM藤さんを殺害してしまったんですか?


チエコ先生 : NO。犯行時のL美さんの意識は朦朧となどはしていなかったわ。


キクちゃん : 最初からM藤さんを殺害するつもりだったと……あ! まさか、M藤さんもM藤さんで夜中、うるさかったのではないでしょうか。例えばイビキなどで……イビキは故意のものではないことは分かっているも、どちらにも我慢できなくなったL美さんは、とりあえず先にM藤さんを殺害することにしたんですか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : 違いましたか……となると、左隣の部屋からの騒音の黒幕は実はM藤さんで……M藤さんはL美さんに何らかの恨みを持っていて、夜中にN田さんを騒がせることでL美さんの安眠を妨害していたんでしょうか?


チエコ先生 : NO。キクちゃん、もう一度、問題文をよく読んでみて。特に、N田さんについての記述をね。


キクちゃん : えーと……「左隣の部屋に住んでいる女性・N田さんは、同性には不愛想で挨拶も返さず、ゴミの出し方も滅茶苦茶で、他人の迷惑を一切考えない傍若無人な人でした。」とありますね。この「同性には不愛想で」というところがひっかかります。N田さんは、男性相手にはコロッと態度を変える人だったんですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : それはM藤さんにも例外ではなかったのですか?


チエコ先生 : YES。


キクちゃん : ……あ! 「今夜も、N田さんの声が聞こえてきました。」とありますね。”N田さんの部屋からN田さんの声が聞こえてきました”とは書かれていません。もしかして、2人は男女の関係で、N田さんは自分の部屋ではなくM藤さんの部屋でイチャイチャしていた……だから、L美さんは2人がいる右隣のM藤さんの部屋を訪ねたんですね?


チエコ先生 : NO。N田さんがいたのは自分の部屋だし、2人は男女の関係にはなかったわ。それに事件直前までイチャイチャしていたなら、M藤さんが「寝ぼけまなこをこすりながら」出てくるはずないわ。


キクちゃん : うーん……実は2人が男女の関係だったというわけではなかったんですね。なんだか、M藤さんは単なる八つ当たりで殺害されただけのような気がしてきました。


チエコ先生 : キクちゃん、その”八つ当たり”というのは、いい線いっているわ。今回のはちょっと難しいうえに、大人な要素を含むから先生が解説するわね。男性相手にはコロッと態度を変えるN田さんの部屋から、毎夜、「異様な騒音」が聞こえてくるとあるわね。騒音の種類が、足音や水道、洗濯機の音などといった生活音だったら「異様な」とは表現しないわ。それに「今夜も、N田さんの声が聞こえてきました。」とあるでしょ。騒音は「N田さんの声」であり、事件当夜もN田さんは”部屋に1人でいるにもかかわらず隣室に聞こえるほどの声を出していた。その声というのは………………


キクちゃん : あ、まさか……N田さんは俗に言う”自家発電”を行っていたんでしょうか? でも、女性の場合は何て言うんでしょう? ……自家培養?


チエコ先生 : 駄目よ、女の子がそんなこと言っちゃ。とにかく、L美さんはN田さんが1人でしている声に、毎夜悩まされ、迷惑していた。そして、N田さんの声から、彼女が”誰を対象に”自分を慰めているのかもL美さんには分かったの。N田さんはM藤さんのことを好きだったのかもしれないわ。まあ、N田さんの心の中はともかく、”L美さんはN田さんの自家培養の対象となっているM藤さんがいなくなってしまえば、少なくとも数日間はゆっくり眠れる”と思って、犯行に及んだ次第よ。


キクちゃん : 先生も自家培養って言っちゃってるじゃないですか……そんなことはさておき、M藤さんが気の毒過ぎます。


チエコ先生 : そうね。真っ当で何の罪もない人のところに”夜中の騒音”の皺寄せが行ってしまったのよ。



(完)

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