第130話

「アンタ本気で言ってんの!? 危険だから屋敷から出るなって言ったのはアンタの方じゃないのよ!? 矛盾しまくりじゃない!」


 私は思わず声を荒らげていた。


「まぁまぁ、お嬢。落ち着いて。ちょっと聞いてよ?」


「...なによ...」


「娼館に寄ったついでにさ、町の情報屋にも会って来たんだよ」


「...アンタ、そういった連中とも付き合いがあんの?」


「まぁね。表に出る情報も裏で出回る情報も纏めて売り買いして商売にしている。そんな輩はどこの町にだって居るもんだよ。知り合いになっといて損は無いからね」


「...それで?」


「お坊っちゃんの情報は残念ながら掴めなかったけど、代わりに気になる情報を手に入れたんだ」


「...どんな?」


「ここんとこ、明らかに堅気じゃない雰囲気を纏った輩を何人も見掛けるようになったんだってさ」


「...破落戸が増えたってこと?」


「ソイツが言うにはもっとヤバい感じだったらしいんだ」


「...どんな風に?」


「傭兵かあるいは元軍人とか。とにかくタダ者じゃないのは確かだって言ってんだよね」


「...それってもしかして...」


「うん、お坊っちゃんが金に飽かせて雇った連中かも」


「だったら尚更危ないじゃないのよ! アンタ、良くそんなんで私にエサになれなんて言えたもんね!」


 私は再度声を荒らげた。


「お嬢、最後まで聞いてよ。別にお嬢がエサになる必要なんてない。もっと適任な人が居るじゃん?」


「...誰よ?」


「エリザベート嬢だよ」


「ハァッ!? アンタ...頭おかしいんじゃないの!? エリザベートはクリフトファー様を捕まえに来てんのよ!? そんなエリザベートがノコノコ出て行ったって、向こうは顔を出すどころか逆に姿を眩ますだけじゃないの!?」


 私は呆れてそう言った。


「そうかな? お嬢とエリザベート嬢って背格好はそっくりだよね? 後ろから見たら見分け付かないんじゃない?」


「アンタはアホか! 私とエリザベートじゃ髪色が全然違うじゃない!」


 エリザベートは見事な金髪で私は亜麻色の髪だ。


「そう。だからこそ騙し易い。カツラを被ればお互いの特徴消せるからね」


「えっ!? それってどういう意味!?」


「お坊っちゃんに雇われた連中はさ、雇い主であるお坊っちゃんからこう言われていると思うんだよ。ターゲットは亜麻色の髪の女。そして追跡者は金髪の女。だから金髪の女には注意すると思うけど、その女が亜麻色のカツラを被っていたらどう? 背格好も似ているし思わず食い付いちゃうんじゃないかって思わない? 用心のため大き目の帽子にサングラでも付ければ完璧だと思うんだけど? どうかな?」


 私はちょっといいかもなんて思い直していた。

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