第125話

「フゥ...これでやっとバラの花束攻撃から解放されるわね」


「......」


「アラン、どうかした? 難しい顔しちゃって? 考え事なんてあなたには似合わないから止めときなさい」


「酷ぇなお嬢。俺だってたまには考え事だってするっつーの」


「だからどうしたのよ?」


「いやね、そう簡単に片が付くのかと思って」


「そりゃ付くでしょうよ。ってか、付いて貰わないと困るわよ。なに? まだなんか気になることでもあんの?」


「いや別に? なんていうか...そう、勘みたいなもん? このままスンナリとは終わらないんじゃないかって気がしてね」


「ちょっと止めてよね...縁起でもないこと言わないでちょうだいな...」


 しかしそのアランの勘が当たっていたことを、この後すぐに私は思い知らされることになるのだった。



◇◇◇



「えっ!? ホテルに居ない!?」


「えぇ、既にチェックアウトした後だったわ...」


 憔悴し切った様子のエリザベートが戻って来たのは、出て行ってから間もなくのことだった。


「おかしいわね...少なくとも今朝までは居たはずよ? だって毎日恒例になりつつあった、バラの花束を抱えての来訪が今日もちゃんとあったんだから」


「その時になんか言ってなかった?」


「あぁ、ゴメン...私、顔を合わせてないのよ...」


 そこで私は、ここ数日間の出来事をエリザベートに説明した。


「そうだったのね...なんか迷惑ばっかり掛けて申し訳ないわ...」


「いえ、それはいいんだけど...おかしいわね...クリフトファー様は私からの連絡を待ってるはずなのよ。それなのに私に黙って出て行くなんて...」


「あの、お嬢様...」


 私がそこまで言った時、申し訳無さそうにハンスが割り込んで来た。


「なに?」


「申し訳ございません...本日の花束にはメッセージカードが添えられておりました...」


「なんですって!? 見せてちょうだい!」


 ハンスから受け取ったメッセージカードには、


『追っ手が掛かった。居場所を移動する。新たな居場所は決まり次第追って連絡する』


 とだけ書かれていた。


「なに!? なんて書いてあったの!?」


 私は無言でメッセージカードをエリザベートに渡した。それを読んだエリザベートは唇を噛んだ。


「これは...間違いない...ウチに内通者が居るわね...」


 すっかりクリフトファー様は犯罪者扱いされているようだ。


「アンリエット、申し訳ないんだけど...しばらく泊めて貰っていいかしら? あのバカが連絡して来たら、今度こそしょっ引いてやるわ!」


「え、えぇ、それは構わないけど...」

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