第13話
そして迎えたお茶会当日。
「アンリエット様、本日はお招き頂きましてありがとうございます」
ホストである私に丁寧な挨拶をしてくれたのは、侯爵令嬢のケイトリンである。彼女も学生時代からの知己の一人でもある。
「ケイトリン様、ご機嫌よう」
「ところであの方、どなたですの? 私、見覚えがございませんわ」
ケイトリンがチラッと視線を向ける先に居るのはキャロラインである。
「彼女はキャロライン男爵令嬢。ギルバートの幼馴染みなんですの。こういった場に慣れていないので、場数を踏ませるために参加させて欲しいと彼から頼まれまして」
「まぁ、そうでしたの」
もちろん大ウソである。そもそもここ最近、ギルバートとは顔を合わせたこともない。
だが招待状を送れば、キャロラインは絶対参加すると思ってた。小説通りに事を運びたいならこのイベントは必須だからだ。
慣れない女性だけの社交の場にいきなり放り出されたヒロインは、悪役令嬢とその取り巻きどもから陰湿な虐めを受ける。大事な母親の形見であるペンダントを奪われ、地面に叩き付けられ足で踏まれて壊されてしまう。
ヒロインは失意の内に、そのペンダントの残骸を涙を溢しながらかき集める...という名シーンな訳だが、もちろん私は虐めたりなんかしない。
その代わりというか相手にもしない。だからキャロラインは孤立している。見慣れない彼女に話し掛ける令嬢は誰も居ない。
私はそこで侍従の格好をしているアランに「行け!」とばかりに目配せする。アランはキャロラインに近付き、本物の侍従のように甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。キャロラインも満更でも無さそうな顔をしている。
良し良し。狙い通りだ。
「アンリ、上手く行きそうだね」
その時、やはり侍従の格好をしたクリフトファー様が私の耳元でそっと囁く。
「クリフ様、お顔をご存知の方もいらっしゃると思うので、くれぐれも目立たないようにお願いしますよ?」
私はクリフトファーにそう囁き返した。釘を刺しておかないとね。
「分かってるよ。ご心配なく」
私とクリフトファー様がそんなやり取りをしている間にも、アランはキャロラインを着実に落としに掛かっている。
やがて二人は連れ立って奥の方に消えて行った。そのまま戻って来ないところを見ると、どうやら二人してお楽しみのようだ。
私はここまで上手く行くとは思わず、苦笑しながらお茶会を楽しんだ。
「本当にアンリと居ると退屈しないよ」
クリフトファー様がそっと囁いた。
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