第12話

「伯爵家の女当主に手を出そうとしたんだもの。ただで済むとは思ってないでしょうね?」


「そ、それは...で、でも君も合意の上のはずじゃ...」


「お黙り!」


 私はヒールの踵をアランの目の前の床に「ダンッ!」と叩き付ける。


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」


 それだけでアランは縮み上がる。


「理解したかしら? 自分の立場を?」


 アランがコクコクと頷く。私はボーイに目配せしてアランを立ち上がらせる。


「許して欲しかったらこの女を全力で落としなさい」


 私はキャロラインの写真と簡単な身上調査書をテーブルの上に置いた。アランが食い入るように見詰める。


「だ、男爵令嬢!? お、落とせと言われても、貴族とは接点が...」


「接点はこちらでお膳立てするわ。段取りが付いたら連絡するから。いいわね?」


「は、はい...わ、分かりました...」


「もし怖じ気付いて逃げようなんてしたら」


 私はそっとボーイの方に目を向ける。ボーイは無表情のまま懐に手を入れる。


「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ! わ、分かった! 分かりました! に、逃げたりしません! ち、誓います!」


「よろしい。用件は済んだわ。とっとと帰りなさい」


 アランは脱兎の如く逃げるように去って行った。


「フゥッ...クリフ様、お疲れ様でした」


「いやいや、楽しかったよ! なんか自分が悪役になったみたいでカッコ良かったよね! クセになりそうだよ!」


「本当はその役、セバスチャンにやらせる予定だったんですがね...」


「こんな面白い役、誰にも譲る気はないね!」


「ハァッ...」


 私はため息を吐きながら、満面の笑みを浮かべているクリフトファー様を冷めた目で見詰めた。


「いやぁ、やっぱりアンリと一緒に居ると退屈しないねぇ!」


「はぁ、そりゃあよござんした...」


「で!? この後はどうするの!?」


 ...クリフトファー様、目がキラキラと輝いてますね...


「...我が家で開くお茶会にキャロラインを招待しようかなと...」


「いいねいいね! それからそれから!?」


「...アランを私の侍従として出席させ、キャロラインと接触させようかなと...」


「面白そう! 当然僕も参加するからね!」


「...そうですか...」


 ...私はもう色々と面倒臭くなって来たんで、勝手にしてくれとばかりにそう呟いた。


 まぁ邪魔さえしなければそれでいいかな...


 私は自分にそう言い聞かせて、お茶会の他の参加者を誰にしようかと頭を切り替えた。


 クリフトファー様がお忍びで参加する気なら、エリザベートは外しておいた方がいいな...


 

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