第11話

 メモにはオーシャンビューで有名なホテルのラウンジで待つと書いてあった。


「これはこれは...」


 メモを覗き込んだクリフトファー様の目が剣呑な光を帯びる。


「フフフッ、素敵なお誘いね」


 私がそう言うとクリフトファー様は呆れたような表情を浮かべて、


「まさか行く気じゃないよね?」


「あら? もちろん行きますわよ? 向こうから罠に落ちてくれたんですもの。手間が省けましたわ」


 頭にクエスチョンマークを浮かべているクリフトファー様に、コッソリと囁きながら説明する。


「なるほどねぇ。アンリ、君だけは敵に回したくないわ」


 両手を上げて降参のポーズを取るクリフトファー様に、


「あら、お誉めに預かり光栄ですわ」


 私はニッコリと微笑んだのだった。



◇◇◇



「やぁ、美しい人。実は来てくれないかと思ってちょっと不安だったよ」


 私がラウンジに着くと、既にほろ酔いモードのアランが迎えた。


「あら? 自分に自信がなかったの?」


「そりゃそうだよ。だってお相手はお貴族様なんだもん。こっちはしがない平民。正直、来てくれるかどうかは五分五分の賭けだったな」


「あなたは賭けに勝ったようね」


「そのようだ」


 アランはグラスを掲げて、


「君の瞳に乾杯!」


 そう言った。危うく私は吹き出す所だった。お前はいつの時代の生まれなんだ!?


 それからしばらくは、舞台の話やアランの女性遍歴の話などで盛り上がった。やがて夜も更けて来た頃になって、アランが懐から「チャリン」と音のするルームキーを取り出す。


「部屋を取ってあるんだ。この後は二人っきりで。いいだろ?」


 私は無言で頷いた。



◇◇◇



「さぁさぁ、入って入って。このホテルは全室オーシャンビューなんだよ? 今は夜だから真っ暗だけどね」 


 そう言ってアランは窓の先を指差す。


「素敵ね。ねぇ、ところでお腹空かない? 私、ちょっと小腹空いちゃったわ。ルームサービスで何か頼まない?」


「いいね! 俺も腹減ってたんだ!」


 二人で軽食を頼む。


 コンコン


「ルームサービスです」


 やがてボーイがワゴンを押しながら部屋に入って来た。 


「ご苦労さん」


 アランがチップを渡そうとした。その手をボーイが捻り上げてアランを床に引き摺り倒す。


「ぐえっ!?」


 アランが潰されたガマガエルのような声を出す。


「痛てててっ! んなぁっ!? な、なんなんだよこれ!? お、お前何者だ!?」


 私は喚き散らすアランの顔を踏み付けて黙らせる。


「静かにしなさい。こんな夜更けにみんなの迷惑でしょ」


 途端にアランが静かになった。


「さぁ、ちょっとお話しましょうか」


 私はアランを見下ろしながらそう言った。

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