第3話
クラウディアが翌朝目覚めると、すでにアレクシスは寝室にはいなかった。
側仕えのマリアンナの世話になりながら身支度を整える。
アレクシスはすでに起きて庭園の方へ出ているらしい。
朝食はまだだそうで、戻り次第食堂で朝食を摂るのが常だそうだ。
「私も食堂でいただくわ。」
身支度を終え、私室を出ると食堂へ向かう。途中で庭園から戻ったばかりのアレクシスが見えた。
アレクシスは今摘んだばかりだと思われるピンクの薔薇を左腕いっぱい抱えていた。
「クラウディア。よく眠れたかい?」
「アレクシス殿下。おはようございます。 あ、あの・・・。さ、昨夜は取り乱してしまい、申し訳ございません。」
昨夜泣いてしまったことを思い出し恥ずかしくなる。
「いや、そうさせたのは私の方だ。お詫びにこれを。」
抱えていたピンクの薔薇の花束を差し出しされた。
「ありがとうございます。いい香り。殿下が贈って下さるピンクの薔薇はいつも見事ですわ。」
薔薇のみずみずしい香りに思わず笑顔になる。側で仕えていたマリアンナに私の部屋へ飾るようにと言い渡すと、クラウディアはアレクシスと共に朝食へ向かった。
王太子の住まう東の離宮での朝食は意外にシンプルだ。
王族の朝食はどれだけ贅を凝らしたものかと思ったが、パンにスープ、卵料理、ベーコンと季節の野菜のサラダとフルーツ。定番の品ばかりだったが、食材と料理人は一流らしく飽きのこない味だった。
クラウディアは先ほどアレクシスから貰ったピンクの薔薇に思いを馳せる。
今まで、アレクシス殿下からの誕生日の贈り物はいつもピンクの薔薇の花束をいただいていたわ。
ピンクの薔薇のみの花束で他の花が混じることがなかった。
色も必ずピンクのみだったわ。
もしかして今朝のように毎回アレクシス殿下が庭園へ赴き、鋏を手にして、一本、一本自ら選びながら摘んでくれていたのかしら?
ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「殿下。今まで贈っていただいた薔薇は殿下が自らお摘みになったものなのでしょうか?」
「あぁ。そうだ。」
少し照れたような返事が返ってきた。そしてもう一つ疑問に思っていたことを聞いてみる。
「殿下。ピンクの薔薇というのは何か意味が込められているのでしょうか?」
「意味は・・・ない。」
いつもだったらここでアレクシスの言葉は終わるところだったが、今までの反省を踏まえてか、ぽつりぽつりと話しだした。
「その・・・ピンクの薔薇は・・・其方だ。」
「??」
「初めて其方と出会った日だ。」
うん。うん。私が八才、殿下が十才の頃かな。確か王妃主宰の殿下の友人と婚約者を探す為のお茶会の日だったと思う。
「その・・・其方の着ていたドレスがピンクの薔薇のようだった。」
え!?まさか初めて会った時のドレスの色で毎回ピンクの薔薇を贈っていたの!?
殿下、ごにょごにょと声が小さいですわよ。目も合わせていただけないし。
「・・・まるでピンクの薔薇の妖精だと思った。」
瞬間、ボンッと顔が熱くなるのを感じた。
まさか初めて会った私の印象が『ピンクの薔薇の妖精』だとは思いもよらなかった。
だから私への誕生日はいつも自らお摘みになったピンクの薔薇だったのね。
そんな初めて会った時から・・・。
嬉しい。どんな高級なドレスや宝石を贈られることよりも嬉しい。
なのに、殿下のそのお気持ちに今まで気付かなかっただなんて。
なんだか悔しいわ。
アレクシス殿下に心を寄せていかなければならないのは私の方だったかもしれない。
「殿下。私、殿下の贈って下さるピンクの薔薇がとても大好きです。
どんな高級なドレスや宝石よりも嬉しいです。」
「ならば、これからはドレスや宝石は買わなくてもいいのかい?」
アレクシスがいたずらっぽく笑う。初めて見るアレクシスの表情にドキリとする。
「あいにく、ドレスも宝石も大好きですの。」
クラウディアの中のアレクシスのイメージが『怖い』『緊張』だったのが、綻び始めてきた。
朝食が終わるとアレクシスは国王陛下と王妃殿下に呼ばれているとのことで王宮へ向かうのを見送った。
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