第3話 諦めないもの

 何者かによって復活した天理、相方と補充したカードを見比べる。それから二人は分かったかのようにその場から離れる。


「キーカードを引いたな…今回の宿将は機敏な動きができるだろうな…」


 その言葉は宿将でないことを意味する。さらに中立は黒龍、海利、礼で埋まっている。よって天理は王、残されたのはさくらか、朱音か。



 朱音はとある人物を監視することに身を置いた、これは上からの指示だ、これでカードや関係がわかるかもしれない。決して攻めに転じない。



 さくらは自分のカードを見る。


「なるほどねー、このカード私に合ってるのかなー」


さくらは特に気にすることなく自由気ままに行動するのだった。



 アリスは何者かに告げる。


「もう仕掛けていい、王を落とせば全員落ちる」


「反逆も中立も捨てたしこれでわたしは裏切らないことになるわよねぇ?」


「わかったよ、見下していた人間と一緒にしていたのは謝るよ、じゃあ、礼は仕掛けてそのあとは頼んだよ」



 未来率いる未来陣営、海利は言う。


「黒龍って人も加わったのね、補充で何引いたの?」


 未来は補充して引いたカードを海利に伝える。


「なるほどね、この勝負未来陣営の勝ちね。補充時間になれば4枚補充されることになるし?でも5万円を4人で山分けね」


 海利は勝ち誇っている。



 明智はアリスを見つけた。未来陣営は数が圧倒的に多い。勝負を仕掛けてみることにした。


「アリス君ではないか、勝負しようではないか」


「僕は争いごとが苦手なんだけどなぁ、断れないからなぁ」


「このゲームを作ったのはアリス君であるのは事実だからね、警戒は怠らないよ」


 明智が出したカードは相殺カード、アリスが出したカードは防御カード、相打ちだ。

 明智は少しもったいないことをしたかもしれないと後悔はするものの着実に相手のカードを減らしていくのだった。



 黒龍は考える、天理はカードがなかったらしいしとあるカードで一瞬でつぶせる。さくらを裏で操ってる人物がわからない以上さくら自体に勝負を仕掛けるのであった。


「よぉさくら、勝負だ」


「まじっすかー、黒龍の兄貴、やりますか」


 黒龍が出したのは相殺カード、さくらが出したのは瞬殺カード、相殺カードは瞬殺カードに変わり相打ち。

 安全策の相殺カード、とりあえずさくらの戦力を一つ削った黒龍である。



 未来は明智、黒龍、海利を率いる陣営、圧倒的だ。そんな未来に礼が勝負を仕掛けてきた。


「勝負しないかしらねぇ?未来」


「礼さんですか、受けるしかありませんからね、いいですよ」


 礼が出したのは攻撃カード、未来が出したのは防御カード、未来は何かがおかしいことに気づく。


「礼さん?私が逆襲や瞬殺カード持ってたらどうするんですか?仲間に復活持ちがいますね?」


「さあどうしようかしらねぇ」


 さらにさくらが追い打ちをかけるように礼にではなく未来に勝負を仕掛けてくる。未来にカードはあと一枚しかない。そしてさくらは言うのだ、その一枚を、知らないはずの一枚を。


「未来さん、じゃあ、その無効カードもらいますね」


「なんでわかったの?」


 さくらが出したカードは盗人カード、未来が出したカードは無効カード、未来の手持ちはもうない。


「私がやっていいかしら?」


 さくらに礼が聞く。


「いいですよー」



 そのころ黒龍はアリスと遭遇した。

 

「天理には破壊カードぶつけるとしてアリスにもぶつけとくか、おいアリス、勝負だ」


「今度は君かい、やれやれ怖いねぇ」


 黒龍は相殺カードを出した。アリスは無効カード、これにより相殺カードは無効カードに、よって相打ち、アリスのカードを徐々に減らしていく。


「次会う頃にはやられてるかもな」


「やられてるのは君だよ黒龍」


 黒龍はアリスの言葉を聞き流し、天理を探し出す。



 明智は主君が攻められているところを見つけて止めに入った。


「おっと、さくら君、礼君だったかな、どちらか勝負しないかな?」


「予定変更よさくら、わたしが受けるわ、明智だったかしらね」


「礼君だね、いいだろう、さて、最悪やられてしまうがこれを出そう、あと一枚なら君も脱落するよ」


 明智が出したカードは破壊カード、礼が出したカードは相殺カード、相殺カードは破壊カードに変わりお互いカードを一枚捨てることに。

 明智は攻撃カードを捨て、礼は逆襲カードを捨てた。

 さらに明智は礼を追撃。


「チェックメイトだ礼君」


「わかってるわよ?」


 まだカードがあった、明智が出したカードは逆襲カード、礼が出したカードは無効カード、両者カードがなくなった。



 海利はその光景を眺めていた、海利の出番だ、それは礼やさくらにではない、未来に対してだ。海利は反逆カードを使った。このカードを打ち消すには未来が何かしらの攻撃カードを持っていてそれを渡して打ち消さなければならない。しかし、カードがない。


「海利さん、どうして?」


「もともと私が最初に忠誠を誓った相手って未来じゃないのよね」


「え?」


「私は最初はアリスに下った、でもアリスはアリス自身を裏切って他の陣営を偵察するように言われた、そこで見つけたのが未来陣営なのよね。実際私はカード教えてないし。あとは誰がどのカード持ってるかアリスに伝えるだけ、敵同士教えあってもいいからね、表向き敵なだけだけど。確か黒龍が復活カード持ってたわね、それに破壊カードをアリスに使われる前に始末するわ。私は復活カード持ってるから脱落したらどっちか使う必要あるけど私がこのタイミングで裏切ったら黒龍しか復活カード持ってないし全滅させないために自動的に使われるわね。私はアリスの陣営に戻ってくるわ」


「さすがは忠誠心が高い海利ねぇ、わたしたちアリス陣営は未来にあの時のゲームでは負けたけれど今回のゲームでリベンジできたわ、これがわたしと海利とアリス、そして宿将のさくら4人のチームワークよ」


 さくらは無効カードを出した。しかし、未来の手持ちはない。未来は脱落したが黒龍の復活カードで復活、さくらの止めの一撃、瞬殺カード、未来陣営は生存している黒龍、明智含め全滅した。


「まずは香ちゃん、勝ったよ、今度は天理ちゃんだね」



未来陣営(王脱落のため全滅)

王  未来 交渉 防御(盗人) 相殺(使用済み) 無効(さくらに盗まれる)

宿将 明智 破壊(使用済み) 攻撃(破壊により紛失) 逆襲(使用済み) 相殺(使用済み)

配下 黒龍 破壊(使用済み) 相殺(使用済み) 復活(使用済み) 破壊 


アリス陣営

王 アリス 防御(使用済み) 無効(使用済み) ??? ???

宿将 さくら 防御(未来に盗まれる) 瞬殺(使用済み) 無効(使用済み) 瞬殺(使用済み)

配下 礼   相殺(使用済み) 攻撃(使用済み) 逆襲(破壊により紛失) 無効(使用済み)

配下 海利 中立 反逆 復活 ???


???陣営


?? 朱音  ??? ??? ??? ???

?? 天理  ??? ??? ??? ???(何者かにより復活)



 朱音はもともと交渉カードを持っていた、しかし朱音は天理に王を託した。天理をゲーム中だけではあるものの自分のものにできた朱音、ただしゲームが終わればそれは終わる。朱音はまだだれとも戦っていない、ある意味朱音こそ天理に対しては一番忠誠心が高い人物なのかもしれない。



「黒龍の破壊カードか…確かに脱落した、だが私はあの段階でカードを持っていた。カードを持っていたら必ず勝負しないといけないルールはなかった…そして攻撃カードを捨てた。実質攻撃カードと朱音さんの復活カードを二枚使ったことになるが…このゲームは王さえ残っていればいい…もし相方に脱落されていれば復活カードの意味をなさない、だからこそ自殺して早めに使わせた…このゲームのキーは破壊カード…駒を一度に二つ取れる、次に重要なのが盗人カード、破壊カードを盗める可能性がある…それに中立の配下、信用できない…なぜなら裏切る可能性という要素があるからだ…だから宿将の朱音さん意外と組むつもりはなかった…さすがはナイト、桂馬の朱音さんは機敏だ、王がアリスと突き止めた…海利さんを偵察に使ったかアリス、一陣営潰れてしまった以上動くしかないか」


 天理と朱音は組んでいた。天理が王だったのだ。

 朱音が話しかけてくる。


「どうする天理ちゃん?といっても次の補充時間まで待つ選択肢はないよね、相手は四人だし海利さんは中立と反逆を捨てて三枚補充、時間はまだ一時間以上あるね」


「チェックメイトですね」


「詰みだね、さくらちゃんと礼ちゃんはカードないし逆襲持たれてると厄介だね、最悪犠牲になるよ、天理ちゃんに脱落させられたら終わりだからね」


「カードは一枚でも多いほうがいいですから逆襲持ってない狙いで盗人で行くしかないですね…」


「おっけー」



「なるほど、天理と朱音が組んでいたか…僕から離れるんじゃないよ、僕は弱いんだ」


「わかったわよ、大丈夫よ、私には復活カードがあるし一時間逃げ切ればさくらと礼もカード補充されるし私たちの勝ちよ」


 それから30分が経過。


「路地裏好きね」


「僕の居場所だからね」


「見つけたぞアリス…」


 赤い服の少女、天理と朱音だ。


「くっ…まずいな、海利」


「わかったわよ、どっちに仕掛けるの?」


「天理だ、天理を狙うんだ」


「仕方ないわね」


「その赤い服装の天理ね、勝負よ」


「あ、はい…」


 海利は逆襲カードを繰り出した。天理も同じく逆襲カード、相打ちだ。


「僕は逃げるぞ…」


「あたしたちも戦おっかアリスちゃん」


「弱い者いじめはやめるんだ…」


朱音が出したのは盗人カード、それに対しアリスが出したのは防御カード、アリスは防御カードを盗まれた。さらに追い打ちをかける前に礼とさくらが合流。


「天理と朱音を止めろ、僕さえ生き残れば勝てる」


「仕方ないわねぇ、朱音だったかしら、勝負よ」


 しかし、礼に手持ちはない。防御カードで礼を脱落させた。


「カードさえなくしてしまえばいいんだ、次の補充で僕が盗人カードさえ引けば可能性はある」


 続いて朱音にさくらが勝負を挑む、続いて瞬殺カードでさくらを脱落させた。


「アリスちゃん捕まえたよ、最後のカードは何かな?」


 朱音も最後のカードである。朱音は防御カード、アリスは無効カード。相打ちだ。

 続いて天理の攻撃、瞬殺カード、アリスに手持ちはなく脱落だが海利の復活カードで蘇る。


「もうあきらめろ…私の持っているカードは二枚、アリスと海利さんの持っているカードはない…チェックメイトだ…」


「海利、時間を稼げ、僕は逃げる」


 天理は容赦なく海利に逆襲カードで脱落させる。

 運動が苦手な天理だが、アリスは天理以上に足が遅いのか追いつかれてしまい天理の最後のカードがアリスを下す。


「なかなかいい調整だったなアリス…」


「くっ…君はまだ興味を示さないね、そしてまだ僕では勝てないのか…」


「今回のキーカードはこれだな…」


 天理は破壊カードでアリスを実質二度脱落させる。


「破壊カードか…今回は破壊カードを強くしすぎてしまったのか、もう少し学ばないといけないね…ゲームの調整も、そして天理、君に勝つ方法もだ」


「ナイト…いや、朱音さんらしく将棋で例えるなら朱音さんは攻めの桂馬、アリス、お前は守りの桂馬だな…勝ち負けが全てではない、どれだけ面白いかどれだけ学べたか…そしてどれだけ得られたかだ…」


「勝つことだけが全てではないということだね」


「利用の仕方は上手かった…だがまだだな…もっと私に関心を持たせるゲームを作れるまで…この世界に希望を見いだせるまでには程遠い…」


「君に負け、そして僕のゲームがまだ関心を持たれない、認められないその気持ちが僕をさらに熱くする…天理、今度こそ君の関心を抱くゲームを作り僕が天理を完全に敗北させ完璧な勝利を得る」


「その時がくればいいものだ…」


「期待の色も見せないね君は、そういう人間がいるから僕は頑張れるのかもしれないけどね、いつしかゲームを作ることよりも君を感心させるゲームを作ることを夢にしてしまったよ」


「その夢をかなえてほしいものだ…」


「覚えておくといい…次は完璧なゲームで君に勝利する…」


「ふん…」


 アリスと天理の戦いはまだまだ終わらない。




最初に引いたカード

未来陣営

未来  交渉 盗人 相殺

明智  攻撃 逆襲 破壊


アリス陣営

アリス 交渉(防御) 無効 無効

さくら 防御(交渉) 盗人 瞬殺


天理陣営

天理  交渉(復活) 攻撃 逆襲

朱音  復活(交渉) 防御 瞬殺


中立

黒龍  中立 反逆 破壊

礼   中立 反逆 相殺

海利  中立 反逆 復活



 そして9人はレストランへ集まる。


「6時までって言ったけど昼で終わっちゃったわねぇ?でも楽しかったわ、わたしと海利とアリスで未来にリベンジできたわね、それにアリスも少しはわたしのこと信用してくれてもいいんじゃないかしらねぇ?」


「それもそうだね、威圧的な人間にも怖くない人はいるってことは分かったよ」


「私も十分な仕事したわよね、負けちゃったけど」


「そうだね、前は使えない犬なんて言ってしまったけどね、有能な剣士だったよ」


「褒められるのは慣れてないんだけど」


「なら弄り倒してあげようかなぁ~海利ちゃん?」


 それなりにこのゲームを通してアリス、礼、海利は友好を深めたようだ。未来にとっては負けてしまったけれどもほほえましい限りである。


「未来さんを守りに行こうとしたんだけれどね、さくら君や礼君の連係プレーは見事だったよ、さくら君に先を越されてしまうな」


「明智さんも私を守ってくれて頼もしかったですよ」


「俺は天理潰しに行く途中で全滅だぜ、最後の破壊カードを天理に打ててたらアリスたちが勝ってたな」


「私たちはあれですね…桂馬から一気に香車になった感じですね…」


「最初は見つからないように、最後にズドーンとね」


 チェスが上手い天理と将棋が上手い朱音は相性が抜群だったのかもしれない。朱音は朱音で少しだけではあったものの天理を自分のものにできたが朱音の独占欲はその程度では収まらない。天理はこれからも知らない間に朱音に狙われ続けるだろう。未来の親友とは違うまた別の感情を持った朱音に。


「ほんとに僕は自分で作り上げておいて自分のゲームで負けるなんて恥さらしだね」


「つっても俺は楽しめたぜ、今度のゲームも期待してるからな」


「ふむ、確かにアリス君の考えるゲームはなかなかに興味深いからね」


「私もアリスちゃんの作ったゲームで楽しめてるよー、香ちゃんには勝てたんだけどなー」


「さくら君もゲームを通して腕を上げているからね、油断できないね」


「勝っても負けても楽しめるゲームを作れるのはアリスちゃんの才能だよ、誇ってもいいんだよ、私はまんまとアリスちゃんの罠に引っ掛かっちゃったし協力することの大切さを学んだかな」


 この日は夕方まで9人は楽しく話し合うのであった。



 挑戦するもの

 期待するもの

 実力を上げるもの

 学ぶもの

 追いかけるもの

 協力するもの

 諦めないもの

 分かり合うもの

 楽しむもの

 創り上げるもの

 完璧を目指すもの

 何も示さないもの



 人には人それぞれの良さ、個性がある、だからこそ花野アリスは完璧を目指すため、さらなるゲームを創り上げるだろう。完璧なゲームを、完璧な勝利を掴むために諦めることを惜しまない。


「次こそは、次こそは完璧なゲームを創り上げ必ず勝利して見せる、僕の創ったゲームで理想の勝利にたどり着いて見せる、これで終わりだと思うなよ未来、そして天理」





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悟りゲーム 改作編(パート6) @sorano_alice

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