第12話 「週二回じゃ足りないんです! 毎日でも(ゲームを)ヤりたいくらいです」

「祐志せんぱーい、どうして私と学校で(ゲーム対戦を)ヤらせてくれないんですか!! きのうの『ヤってくれる』っていうのは嘘だったんですか?」

「こら、誤解を生むような発言は控えるんだ。クラスメイトの視線が冷たいよ?」


 昼休みのことだった。


 文芸部の後輩、綾崎三咲は俺の教室に襲来した。これ以上騒がれると困るので、教室を出る。きのうはさ、円花さんノートをつけるので頭がいっぱいだった。ごめんなさい、予定をすっぽかして。


「わたし、もっと先輩を(大差をつけて)抜きたいんです! 一度ならず何度でも」

「だからやめようか?」


 どういう意味合いなのか、()の内容を補足しないと他の人には伝わらないんだ。


「週二回じゃ足りないんです! 毎日でも(ゲームを)ヤりたいくらいです」

「君の三大欲求は止まることを知らないのかな」

「こういうのってドMのせんぱいはうれしいんじゃ? ゾクゾクしませんか」

「断じてしないよ。血の気引いちゃう」


 もうクラスメイトから誤解されてしまってるだろうな。きっとこの会話も少しくらい聞こえてそうだし。


 幸運にも、女子の多くは他のクラスやらにいっており、ほとんどいなかったのでカタストロフィは回避できた。


「……ねぇ、ユージ? さっきのはどういうわけ?」

「うわぁ、突然ひょっこり騎里子さん」


 騎里子が絡むと、ろくなことが起こらない気がする。きっとどう弁解したところで、信じてくれないだろう。


「学校でそういうことをするなんて、あんた頭沸いてるんじゃないの?」

「いや、これはそもそも誤解で……」

「せーんぱーい、やはり背徳感で学校に勝るものはありませんね♡ ただでさえ楽しいのに、さらにゾクゾクしますよね〜」


 わざとらしい口調で、三咲はいう。


「ふーん、この子はそういってるけど?」


 おい、と三咲に視線で訴えかける。しかし、帰ってきたのは悪魔の笑みだった。三咲、裏切ったなッ!


「違う、俺はこの子とg────」

「(下校時刻の)限界を迎えるまでやるのが楽しいんですよね、せんぱい?」


 騎里子の青筋が立つ。今にもピキッと音が鳴りそうである。


「もう真っ黒じゃない。弁解の余地なんてないくらいに」

「違う、僕は無実だ。天地神明に誓っていえる」

「誓おうが誓わまいが、事実がどうだろうが関係ないの。冤罪だとしても、むしゃくしゃしてるし。そもそもユージだから問題はナシ、よ」

「それでも幼馴染か。もっとフレンドリーにいこう。暴力反対だ」

「幼馴染だから嫌な反応をするっていうのは、どこの誰かしら?」


 自分の発言を省みる。そんなひどいことを騎里子にいった覚えは……ある。


「靴でもなんでも舐めるのでご慈悲を」

「それって私の靴を舐めたいということかしら?」

「言葉の綾だって」

「綾ちゃんもさすがにキモいと思いましたよ」

「なぜそこで便乗するんだい、三咲ちゃん」


 騎里子に視線を戻す。ああ、もう彼女は止まれない。


「最近ね、ちょっと格闘技にも興味が出てるのよ」


 そういって彼女は拳で空を斬る。


「うまくなるには、実践が欠かせないとよくいうわよね」

「早まるなって。生徒指導食らってもいいのか」

「仲のいい幼馴染同士、じゃれてただけです、と甘い声でいえば、あのハゲ親父もイチコロよ」

「……否定できねぇ」

「それじゃあ、やりましょうか」


 彼女は体勢を低くする。拳を握ると、俺の腹に一発食らわせた。


「グハッ」

「見たかしら、渾身のボディーブロー」


 感想。容赦ない一撃だった。あとから痛みが浸透してくる。なかなか引くことはない。


「見る余裕もないくらいの痛みだった」

「せんぱいって弱いですね」

「なんで後輩に煽られないといけないんですか。三咲ちゃんも食らってみればわかる。まじで痛いやつよ?」

「安心しなさい、ユージ。私に女の子を痛めつける趣味はないわ」


 反論する気も失せていた。


「調子に乗ってると制裁が下るわよ。日頃のおこないには気をつけることね、ユージ」

「騎里子も幼馴染を邪険に扱うとばちがあたるぞ」

「私はユージの分でチャラよ」

「都合のいいことだ」


 つい肩をすくめてしまう。なんだかんだ騎里子は理不尽なのだ。


「きょうはこの後輩ちゃんとそういうことはしないことね。学校でやってたら命はないと思いなさい。いいわね」

「すみませんでした!」

「私とはキスもしたことないのに……」

「せんぱいのことを誘ってるんですか?」

「べ、別にキスくらいしてもいいんじゃないとか思ってないんだからね」

「本心ダダ漏れじゃないですか」

「く、何なのこの子? 私につっかかってくるとはいい度胸じゃない」

「キスくらいさっさとすればいいじゃないですか」


 ふたりが火花を散らして睨み合っている。


「きょ、きょうはこの辺にしといてあげるんだから。次はないと思いなさい。わたしの拳が……いや、暴力はダメね」

「レースゲームで決着をつけましょうか。またいつか」

「そうね。それがいいわ」


 これをもって、三咲ちゃんは自分の教室へと帰ってしまった。

 放課後、いちおう部室を訪ねてみた。


『しばらくはここでゲームは控えようと思います。あの女の人に脅されました』


 ……騎里子、俺の安息の地を奪ったな!

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