Dream pilot:03 ムンディの真贋

 悪夢使いメギドと同じ姿をした影が十数体も出現し、ルリを取り囲んでいた。


「死霊を糧に自らの分身をつくる陰影呪術か。あらかじめ、この場所に呪術法陣を仕掛けてたってわけね。そういうのを外道っていうのよっ」


 ルリはダッフルコートの下から猫の柄のついた傘を引き抜いた。


「ルリ・バステートが込めるは夢霊。光よ集えルミナス!」


 ルリは傘を夜空に突き刺すように構えて、印を切る。

 どこかから呪術印が発動する声がひびく。


「死魂に安らぎをあたえ、常しえの世に帰せ」


 頭上の満月が鼓動した瞬間、月光がルリの周りを照らすように降り注いだ。


 メギドの分身たちは、音もなくみるみるうちに消えていった。


「このゲーム、まだ終わっていない。あの夢見人を、呉羽キョウさんをこの世界から必ず救い出してみせるっ」

「無駄なことを」

 ルリの言葉にメギドは嘲笑する。

「ムンディとなってしまった今となっては、あなたになにができるというのですか? 無駄なことはお辞めなさい。大人しく我が力の糧となるがいい」


 メギドの足下の影が、再び広がりをみせはじめた。

 ルリは再び傘を構えた。

 そんな二人の様子をみて、わたしは頭にきた。

 自分がこの二人のゲームの賭けに使われていたなんて。おまけにこの世界が、わたしに夢をみさせて奪うための場所ということに。

 二人の前に飛び出そうと、しっぽを立てたときだ。

 いきなり首の後ろをつままれた。あわてて振り返ると、そこにはサングラスを掛けた見覚えのある顔、以前電車で会った、夢狩りバルザフだった。

 彼も夜目が効くのか、とツッコみたくて必死にもがいてみせるも前脚が届かない。


「あいつらの勝敗など、どうだっていい」

 バルザフはわたしを持ち上げる。

「オレは、おまえをこの世界から出ないように閉じ込めておけば、夢の力が手に入るのだから」


 ニヤリ、とうれしそうに口元をゆるませる。

 その顔に爪を立てて引っかいてやろうと猫パンチをくり出すのに、届かない。すべてむなしく空を切る。 


「大人しく入ってろ」


 バルザフは、大きな袋のなかへとわたしを放り込んだ。

 あわてて革袋に爪を食い込ませ、袋の中に落ちないようつかまった。閉じられてしまった革袋を破いて出ようと引っかいてみるも、猫の爪では破れそうにない。

 ここから出して、と叫んだ。

 けど言葉にならず、にゃおーとさびしげな啼き声が真っ暗な袋のなかにひびいた。

 袋の底へと目を向けると、たくさんの怪しげな光をみつけた。

 よく目をこらしてみると、それは猫の目。

 袋のなかには、他にもたくさんの猫がいたのだ。

 袋が揺れ、ひっかけていた爪が外れて、袋の底へと転がり落ちてしまった。

 どこかへ運ばれていく。

 一体、どうなってしまうのだろう。

 わからないことを考えていると、大きなあくびが出てくる。

 なんだか急に眠たくなってきた。

 わたしは、ゆっくり目を閉じた……。

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