Dream pilot:04 いつか見た空を飛ぶ夢
いつの間にか、わたしは空を飛んでいた。
鳥のように思うまま自由に翼を羽ばたかせて。
飛びながら、でもこれは夢だとわかっていた。
だって人は、鳥のようには飛べないから。
憧れが夢の中で飛ばせてくれたのだろう。
見下ろせば、通りをトモローが歩いていた。
わたしは彼の隣に舞い降りた。
「どうして空飛ぶ夢をみてしまうのかな」
なにげなく、トモローはつぶやいた。
くり返しみる夢に、垂直に運動するものがある。
それが空飛ぶ夢だ。
子供はもちろん大人も何度もみてしまう。
なぜ人はくり返し空を飛ぶ夢をみるのだろう。
彼はその疑問に答えを見出せないでいる。だから、そんなことを聞くのだろうとわたしは思った。
「言葉を話すからじゃないの?」
そっけなくわたしは応えた。
「赤ん坊のころ、言葉は頭上を飛んでいるものでしょ。大人がなにか話しているけれど、横になって寝ている自分には関係がない。なのにその声が飛び交うことで、互いが触れることなく人や物が動いたりする。言葉をしゃべるようになることは、言葉の飛び交う奇跡が起きる空の世界に行けた証。だから言葉を話せるようになったとき、空に届いた感覚があるのかもしれない」
自分で自分の言葉にびっくりした。
われながらすごいことを口走っている。
わたしの言葉にトモローも、少し驚いた顔を見せていた。
「だったら、空を飛ぶ夢を見るのは、どういうこと?」
「ん? そうね」ちょっと考える。「学校や会社とか、新しい環境のなかでのコミュニケーションがうまくいかなくなって、不安になったときにみる……のかな」
「不安、ね」
トモローは腕組みをする。
「空を飛ぶ夢をみることで、赤ん坊のとき言葉をおぼえて人間になることができたことを思い出させ、今度もまたがんばるようにって、自分を励ますために見るんじゃないかな」
恋愛もそうだと、ひそかに思った。
自分の気持ちを相手に伝えること、相手にわかるように話すこと、それはむずかしい。たったひと言、「好き」といっただけでこれまでと世界ががらりとかわってしまう。
心の中でそれを望んでいるのに、必ずしも望んだ世界になるとは限らない。
不安は新たな世界創造のとき、生まれる。
創造主はこの不安を乗り越えてこそ、神になれる。
そのために、はじめに言葉があるのだ。
告白が、まさにそう。
けれど、わたしは神になれなかった。
トモローの彼女になったのはカコなのだ。
だから夢をみる。
彼と結ばれるのを――。
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