第5話 ゲームセンターでの日常

今日も今日とて、ゲームに興じる自称「店長代理」

ただし、その日は「未来旅行社」店内ではなく、店舗近くにあるゲームセンターであった。

大量のメダルを手に、メダル落とし系のゲームに集中している彼を、少し離れた場所で観察する人物が一人いた。

その名も「朝比奈」。

彼の(わかっている範囲では)唯一の部下である。


朝比奈が彼を観察するようになったのは、高校入学当時まで時間をさかのぼっての事だ。

その日朝比奈は親友と学校帰りにゲームセンターで遊んでいたところ、たまたま入店してきた彼を目撃してからの事である。

彼は隣にいた親友に近づき、親友と少し話をしてから、奥にあるメダルゲームコーナーへと消えていった。

彼がいなくなってから親友に今の人の事を尋ねると、「昔、お世話になった人だよ。ゆーこにもむかし、話さなかったっけ?」と、返答が返ってきた。

そういえば昔、親友が父親について、変な話をしていた事を思い出した。

その話の中に、今見た人が出てきていたらしい。

おぼろげな記憶を思い出しながら、突然にその日起こった彼とのファーストコンタクトは過ぎていった。


高校入学以来、親友と週一ペースでこのゲームセンターを訪れている。

普段はあまりゲームをしない親友ではあるが、なぜか毎週この時間になると、このゲームセンターの入り口近くにあるUFOキャッチャーに立ち寄って、彼と少し話をするのが、お決まりのパターンとなっていた。

中学時代も、帰り道とは反対方向のこの店に立ち寄っていたらしく、朝比奈は当時、毎週この曜日には、親友は塾に通ってると思っていたようだ。


その後、「未来旅行社」に押しかけ彼と彼の勤める会社に関わるようになってからは、一緒にゲームセンターに出かけはするが、別行動で彼を観察するのが日課となった。

朝比奈いわく、「私が一緒にいると、彼が警戒するのと、ゆかりが遠慮して彼と話が出来ないから」だそうだ。

だからといって、ストーカーするのはダメだと思うが・・・。

このゲームセンターでは、毎週のこの曜日のこの時間に、二人の少女による日課が行われている。


そんな日常を送っていると、朝比奈が彼に見つかってしまうこともある(普段は目を離した隙にいなくなってしまっている)。

「店長代理発見!」

見つかった瞬間、朝比奈はそう叫び、彼に駆け寄っていくのもパターン化した日常かもしれない。

そしてその後の食事をおごらせるという、おまけ付ではあるが。

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