第13話 あーあ


和也の建てた作戦は第1段階の潜入、第2段階、砦に火を放った辺りまでは順調に進んでいた。


作戦自体は考える時間が少なかった事や、何より和也やゴブリン、オークらにそう言った策略の知識が無かった故にシンプル。

シンプルであるが故に前提が少なく、彼らの種族としての地力でゴリ押す事が出来る、はずだった。


後はオークが暴れ、ゴブリンが暗躍している隙に爺やと和也で鋭く睨む者を助ける。

後はそれだけ、と言った所で不測の事態が発生する。

予想よりずっと早く、砦の兵士が事態に対応し始めたのだ。


砦の指揮官は主だった幹部陣を集め、予め警備隊で決められていた防衛作戦の決行を指示。

火を放ってから凡そ10分余りで兵は落ち着きを取り戻し、消化活動と内部に侵入した魔物を討伐する2つの部隊を編成した。


「オーク、モンデトメラレ、ウゴケナイ。ゴブリンモ、ケイカイサレルト、ウゴキヅライ」


「早い……さっすがー」


爺や曰く、人類が人魔戦争に勝てたのも安全線とかいう境界線を保ち続けれたのも。

全て人類の努力からきた当然の結果であるらしい。


幸運や、魔物の侮りこそ当初はあったが戦争が進むとそんなモノ関係無く隙のない戦いになる。

その実力100%の生存競争で人類は勝ったんだ、しかもまだまだ士気は旺盛、人類にとっての人魔戦争はまだ終わっていない。


「イツカハ、ニンゲン、タイリク、シハイシテタ」


間違いなく、この世界の人類は和也の元いた世界の人類よりも強い。

魔法が有るとか、勇者の宝具だとかそういう物以前に、ここの人類は強い。


人類は何千年も虐げられてきた。

その暗黒の歴史そのものが彼らの力だ。

逆襲の波に乗っている彼らから流れを取り戻す、当初考えていたよりずっと難しい事は間違いない。


「あいつは? 十二勇士とかいう」


「マダ、カクニン、デキテナイ……」


爺やが言い切る前に爆炎が上がった。

此方の仕込んだ物じゃない。


「……ミツカリマシタ」


「あ、あれかぁ」


砦の窓からこっそりと爆発現場を覗き見る。


人間が居ちゃいけない地獄のような炎の中に、人が居た。

白金の鎧を身に纏った男が襲いかかるオークを薙ぎ払い、逃げ遅れた兵士を救助している。


「まるでヒーローだ、こっちが悪役だね……状況的にまんま悪役か……爺や」


「ハッ……」


最大の障害、十二勇士の居場所が分かれば後はそれを避けつつ鋭く睨む者を助けるだけだ。


「待ってろよ……」


爺やと共に廊下を駆けた。

轟々と燃え盛る炎が視界を常に赤く染めている。








身動ぎをする。


それだけで備え付けられた魔法具から黒い杭が出現し、脆くなって剥げた鱗を貫通した。


「ぐ……うぁ」


ドラゴン、鋭く睨む者は砦の中央、大きな魔物専用らしい様々な魔道具に繋がれ、唸るしか出来ないでいた。


体力や魔力は十二勇士との戦いでほぼほぼ持っていかれ、回復しようにも継続的に仕掛けから与えられるダメージへの対処で何とも出来ない。


「なんて……無様な」


愛しい魔王に背の乗る事を拒否され。

挽回しようと奔走した挙句、捕えられた。


ひたすら悔しかった。


長い長い生の中で、最も屈辱的な時間を過ごした。


「魔王……」


気付けば魔王の気配が近付いていた。

あたりをウロウロして、こちらに近寄ろうとしてくる。


助けに来てくれた。


それすらも屈辱だった。


「おーぃ……」


遠くから聞こえてくる魔王の声に返事はしない。

したとしても、か細い声しか出ないだろう。


「おーい! 何処だー! 」


参戦してやると息巻いて偉そうにして。

どの面を下げて会えば良いのだろう。


「くそっ! めっちゃ広いな! 違法建築だろ! 」


「コチラカラ、ケハイガ」


「よっしゃ! ……おわ!!! 」


ガシャン!


近づいた者を問答無用で吹き飛ばす魔道具に、魔王吹き飛ばされた。


緑の刃は鍵を開けれないか装置の大元を探している。


「鋭く睨む者! 良かった! 生きてるな! 」


「魔王……」


「おうよ、爺や! 」


「オマチヲ……トテモガンジョウ、ジカンカカル」


「魔王逃げろあいつが」


来てしまった。


慌てて振り返る和也と緑の刃。

背後には白い炎を纏った十二勇士の1人。


息を飲み、刃を構えるも力量さは歴然。


鋭く睨む者はただ微かに動く事しか出来ず、黒い杭に貫かれ呻きしか上げれないでいた。


「狙いはドラゴンか、魔物に他種族を助ける等という考えがあったのには驚いた……」


「こんばんは、お邪魔してますよナイスミドル。かっこいい鎧ですね、熱くない? 」


十二勇士、アークライト・シーザーがじっ、と魔王を観察する。

魔物の救助に人間が来たのが、不思議であるらしい。


「君は何者だね……? 何故人間がここにいる、それがドラゴンであるとしっかり分かっているのかい? 」


「実は可愛い女の子なんですよこの子、ちょっと暴力的ですけどね。返してくれません? 」


「出来ん相談だ! 」


一息の間に距離を詰めたシーザーが、緑の刃を吹き飛ばす。

驚異的な身のこなしで衝撃は殆ど受け流したが、和也との距離を作られてしまう。


「ほう」


和也よりも頭一つ大きなシーザーが、同じく大きく分厚い手で和也の肩を掴んだ。

痛むような力の入れ方ではない、しかし有無を言わさずその場に縛り付ける圧力を伴った掴み方。


「……これは」


「ああ、君の負けだ」


「魔王!! 」









所代わり、砦の外壁。


オーク、鉄の猪が一族の者と共に奮戦していた。

名の通り、猪の如く突進を行い直線上にいた兵士を吹き飛ばす。

背後を取り剣を突き立てた兵士は、鉄の如く硬い表皮に阻まれ刃を折られた。


30を超える兵士を吹き飛ばした辺りで流石に限界が近付いてくる。

鉄の如く硬い、と言っても攻撃を全く通さない無敵という訳では無い。


傷を与えれないなら、と兵士がハンマーや投石を用いてきた辺りから戦況が思わしく無くなってきた。

築城用らしい大きな木槌を背後から叩き付けられ、骨が軋む。

拳大の石で目を狙われ、連携を崩され更に苦しくなる。


1匹で30人の兵士を相手出来るとはいえ、単純にそれ以上の数を当てられると対応できない。


「ブヒ……流石に、苦しくなってきたブヒ……」


「弱音を言うでないブヒ! 侵入した魔王陛下の為にまだまだ時間を稼ぐブヒ! 」


「ブヒ! ……む、長! 」


一族の若い戦士が指指す方向、砦からゴブリンらが走ってきた。

一瞬、ドラゴンを救出し目的を達したのかと思ったが様子が違う。


魔王も、いない。


「ま、まさか」


「くっ……鉄の猪殿、撤退……だ! 」


「緑の! 何故だ、まさか! 」


「魔王陛下が、死んだ」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る