第5話 殺害許可証
報復を怖れる前に報復に向かう種を一つずつ摘み取った。
血眼で奴らは捜したが、俺はボロを纏い足を引きずる浮浪者を装った。
アンダーボスは通いつめの風俗店で。
そして州外へ高飛びしようとしたドン・レッド・ブラッドアイズは、タクシーの運転手に扮した俺が地の最果てへと送り込んだ。
奪って使った銃もナイフも鈍器も、書き連ねた処刑リストも全て鉄工所の溶鉱炉に投げ捨てた。
ラウルの奥さんに当面の金を渡し、別れを告げた。
「ウィリアムさん……わかっています。あなたが」
「考えない。あなたは実家に戻ってこれから先のことを考えなきゃ。その子のために。ラウルの子のために」
告げながらラウルの無念が痛切に響いた。
俺は両手をそっと奥さんの肩にあて、慰めた。
ラウルの形見にと俺は彼が愛した本一冊をもらい、立ち去った。
****
北風が吹き荒ぶ駅のベンチ。
煙草を吹かす俺の隣りにベージュのコート姿の男がどしりと座った。
小粋なハンチングに口髭丸顔の男は「うまそうだな」と言い、咥えた煙草に火を求めた。
「……ありがとう。君はどこから来た? 誰に仕えてる」
「はあ?」
「ブラッドアイズを全部やったの、君だろ? ウィリアム・スタンス」
並んで吹かす、ちらりと俺を見る丸顔。
「ウチが経営してるあの繊維工場で、ウチのもんが君らしき男を目撃してた。〝ダイスンズ〟の奥の席によくいたんだろ? ここまで調べるのに時間がかかったが……まさかその間に奴ら総勢三十人全員抹殺するとはな」
「……あんた。何者だ?」
「サンダース・ファミリーのビフ・キューズ。相談役でナンバー2だ」
よろしくと握手を求める彼、ビフ。
その手を横目に俺はビフの目的を探る。
「俺に何の用だ?」
「君はどこへ行く?」
「さあ」
「ウチに来い」
「はあ? 何だそりゃ」
「我々は横暴で礼儀知らずなブラッドアイズに手を焼いていた。それを君が綺麗に掃除してくれたわけだ。とても、助かった。きっと町の皆んなも感謝してる。……そして俺はその腕を高く買った」
俺は煙草を揉み消し辺りを見回す。
ビフは悠然と遠くを見つめている。
「ちょっと待った。確かに……あんたらがエルドランド最大のマフィアだってのは知ってるが、生憎俺には興味がない」
「……やはり、一人なのか君は」
「ああ。ラウルが死んで、また一人だ」
「復讐……か」
「そんなところだ」
「鉄工所はやめたんだろ? ウチの家族になれよ。仲間が大勢いる。仕事も山ほどある。食うに困らない」
ビフは顔を向け帽子をとり、ついに頭を下げた。
「ドン・ストーン・サンダースが会いたがってる。頼む。力を貸してくれ」
乗るはずの列車をそのまま見送り、俺は長く考えた。
ビフ・キューズは心配事は全て取り除くからと懇願し、石のように動かなかった。
「じゃあ、キューズさん。ラウルの奥さんの身の周りその子供の一生、守ってくれるんだな?」
「ああ。彼女のことも調べてある。故郷でのこれからの暮らし、我々が安全を保証する」
「信じていいんだな?」
「ああ。信頼の上で我々は成り立ってる」
しばしの黙考。
次に彼の目を見た時、俺はこの手を伸ばしていた。
「わかった。……じゃあ、ドン・サンダースに会おう」
仕事に対して俺は常に冷静だった。
感情で動くことなく失敗もなかった。
感情で動かなければ手も震えない。
闇に息を潜め、冷徹に生きた。
ビフは俺に〝
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