(七)予言

グウィネス「あなた、この子は誰? さっきから何を言っているの?」


ジュスト「ああ、紹介しよう。サイキ・ニシザキだ」


グウィネス「サイキ……ではこの方が……(ひざまずこうとする)」


彩姫「(びっくりしつつ恐縮して)あっ、あっ、頭を上げてください……えっと、初めまして。私、サイキ・ニシザキです。えっと、あの、お会いできて光栄です。あの、うちは代々ジュスト入りの石を預かってて、えっと、棺の封印を壊してくれって言われて、それで、えっと、ため口でいいですよ。あ、日本にようこそ(テンパった状態のアドリブでずっとしゃべり続け、音量を徐々に下げる)」


グウィネス「(彩姫の台詞が流れ続ける中、ジュストへ向かって訝しそうに)あなた……」


ジュスト「何だ」


グウィネス「あなたから聞いていた女性の印象とこの方はだいぶ違うのだけど……」


ジュスト「君の言いたいことは骨身にしみてよくわかる。だが、彼女だ。確かなんだ。顔も、バイオメトリクス的特徴も、本人が話していた生育歴もすべて合致する……性格と知性以外は」


グウィネス「知性? それは致命的ではないの?」


ジュスト「これからの成長に乞うご期待、だ。本人には間違いないのだから」


グウィネス「あなたが言うなら、わたしはそれでいい(頷く)」


彩姫「(前の台詞からここまでアドリブでつなぎ、音量を徐々に戻す)えっと、それで、私、ジュストと……あっ、ジュストさんとグウィネスさんの子孫だってジュストが、いや、ジュストさんが言ってて、それで、ご先祖様にお会いできてうれしいです、ほんとに」


グウィネス「子孫……?」


彩姫「ジュスト……さんからそう聞きました」


グウィネス「……子孫……わたしと、このひとの?」


ジュスト「ああ、そうだ」


グウィネス「ふふ、そう、……そうなのね……ふふ、ふふふ、あははは」


彩姫「(グウィネスの笑い声と重ねて)どうしたの? 何がおかしいの?」


ジュスト「(苦々し気に)……我が奥方は喜んでいるんだ」


彩姫「どうして」


グウィネス「わたしは、彼に乞われ何もかも与えてこの長い時を生き永らえさせた。彼にはどうしても叶えたい望みがあるの。でもわたしは、その成就を望んではいない」


ジュスト「……グウィネス、黙ってくれ」


グウィネス「いいえ、黙らない。愛した人と、愛した人との間の子どもたちすべてのために、わたしはあなたがやろうとしていることをがえんずることはできない。なのに、わたしの命を差し出してまであなたの願いを聞き入れようとしたのは、ただ愛していたから」


ジュスト「……すまない」


グウィネス「でも……ふふっ……わたしたちの血筋からこの方が生まれたのなら、ジュスト、あなたの負けではないの?」


ジュスト「ここまで来てしまったんだ。もう戻れない。そして私は後悔もしない」


彩姫「何のこと?」


ジュスト「(しばらく考えてから改まって)サイキ・ニシザキ」


彩姫「なに?」


ジュスト「(髪をかき上げ俯いて)私のうなじを見てほしい。東洋医学で風池ふうちと呼ばれるあたりだ」


彩姫「風池って……あっ」


ジュスト「何が見える」


彩姫「マークが……イメージドナーマークが……ううん、ちょっと違う……ほんのちょっと違う……(動揺して)なにこれ! どういうことなの?!」


ジュスト「現在のイメージドナーのうなじには渦のマークがあるだろう。ナノマシンファージの保有者を示すマークが」


彩姫「……うん」


ジュスト「サイキ・ニシザキ。先ほど、脳の中のイメージを具象化し物質化にするプロジェクトのことを話していただろう。いつか実現されたら私のようにイメージから生まれたクリーチャーを操れるようになるかもしれないと」


彩姫「うん……」


ジュスト「私のこのマークはこれから5年後開発されるZOIDと呼ばれるシステム構築用のファージを保有しているしるしだ」


彩姫「は? なんで? 時系列がおかしいよ! 600年前の人間がなんで?!」


ジュスト「これは、現在までのナノマシンとは完全に違うシステムだ。より人体に親和性の高い細胞小器官オルガネラとして海馬部分にまで入り込み、すべての思考・感覚・生理機能を同期した立体を一定条件下で出現させられる」


彩姫「それって……私の論文読んだの?! 読んだんでしょう?! そして話をでっち上げたんでしょ?!」


ジュスト「読んだ。しかし、読む前から知っていた」


彩姫「何を言ってるかさっぱりわからないよ!」


ジュスト「このZOIDファージの欠点は、保有者の第一世代の長子の脳にまで侵入し、自然増殖することだった。通常、倫理上と医学的見地から成人しかドナーになれないんだったな? もし胎児のころから汚染されたらどうなるんだろうな」


彩姫「どういうこと……」


ジュスト「サイキ・ニシザキ。私がその胎児だったんだ」


彩姫「(動揺して)え、だって、そんな……ありえない!! あなたは600年前に生きていた人なんでしょ?!」


ジュスト「ああ、私は600年前に生きていた。しかし、私の母はそうではなかった」


彩姫「は?」


ジュスト「私の母は遠い東洋の国で、ZOIDの開発に携わっていた。そして自分の身を実験に使い、何が起こったのかはよくわからないが時を逆行して……私が生まれる数年前に私が生きた中世ヨーロッパへ姿を現した」


彩姫「それって、タイムスリップってやつじゃ……机上の空論でしかないはずなのに」


ジュスト「母本人も、なぜそうなったのかはわからないと言っていた。さて、サイキ・ニシザキ。私の体のことはさておき、君にこれから起きることを予告、いや、予言してもいいだろうか」


彩姫「……まさか……まさか」


ジュスト「君は生きながら時空を超えて中世ヨーロッパへと飛ばされる。肌の色と顔の造りが違うということで奴隷にされたあと、そこでもソルシエルや予見者たちに実験動物扱いされる。そして品性下劣な貴族の妾になったあと男子を一人生む」


彩姫「……どうして……どういうことなの? 私がなんで?!」


ジュスト「いつか君は人を殺すだろう。一人息子を守るために」


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