死霊の短剣

「あ! そうか! ごめん!」と言って俺は頭を下げながら両手を合わせて謝罪した。


「言わない約束だったね。俺にフラれてカシムと関係持ったの。寂しいもんな仕方ないよ」俺は更に煽った。シドがえっと言った表情でカシムを見る。


「違うって! エリザベスが迫ってきたんだよ! 俺は悪くないって」カシムは言った。そしてカシムは「あっ!」っと言って口を抑えた。


「お前!」シドはカシムの胸ぐらを掴む。


ユイはエリザベスと俺の方をチラチラ見ていた。


「じゃあクランのみなさん。お疲れ様でした。さようならーー」俺はそう言ってプイッとメンバーから離れる。後ろからシドとエリザベスが争う声が聞こえる。それを聞いて俺はニヤリとする。


俺は空を見上げた。澄み渡る青空。白い雲が美しかった。また勝ってしまった。俺はそう思った。ささやかな復讐を果たした俺は心に一抹の虚しさを感じながら思う。


この世界は美しいと。俺は今まで空を見上げてなかったことに気づいた。この世界は美しいままで常に俺のそばに存在していた。


いつかこんな日が来るだろうと思っていた。長続きはしないだろうと。だがこんな形とは……


人々の醜い人間関係の中にいると忘れがちになる。世界は残酷なんかじゃない。本当に残酷なのは人間の方だ。


「クロード!」後ろから声がかかった。ビクッとして俺は振り返る。ユイだった。


「ハァ……ハァ……ハァ……」ユイは息を切らせている。どうやら走ってきたようだ。


「クロード!」追いかけてきた。あんなことを言ったから怒ってるんだろうか。俺は身構える。


「クロード。ちょっと言いたいことがあるんだけど」ユイはちょっとムスッとした声で俺に近づいてくる。


ヤバイ……やってしまった。絶対怒ってるやつやん……ヤバイことしてもうた。ユイは真面目な奴だった。ユイは俺になんて言うだろうか。なんであんなこと言うの! 最低! とか言われるだろうか。あぁ今すぐダッシュで逃げたい。俺はそう思った。


ユイは俺と手を伸ばせば触れられるくらいまで距離を詰めてくる。そしてユイは一息ため息をつく。


そして、ユイはなにも言わずに俺の右手を両手で握ってきた。「!」柔らかい……ユイの手は柔らかかった。俺はなんだかドキドキする。そして、ユイは何を思ったか、ゆっくりと俺の手を自身の頬まで持ってくる。つまり、ちょうど俺の手がユイの頬を撫でるような格好になった。いや、これはどういう状況だ。ユイの目はなんだか潤んでいた。


「ユイ……?」俺は聞く。


「行っちゃうんだね。クロード。なんで……」ユイがそう言って涙目で俺を見つめてきた。マジか……ユイ。これは一体……


そしてユイはトンッっと俺の胸に顔をうずめてきた。ユイは泣いている。ユイが俺の胸で泣くような格好になっていた。マジでどうしたらいいんだ……俺は……ええい! 勢いだ! 俺はユイを抱きしめた。ユイも俺の体を抱きしめ返してくる。


俺は状況が飲み込めないままユイと抱きしめ合っていた。これ他の人が見たらどう思うだろう。別れ話直後のカップルみたいな感じになってるけど……しばらく経ったのちユイは俺から離れる。


「ありがとうクロード。泣いて元気になったよ」ユイがスッキリしたような感じで俺に微笑みかける。いや、俺はなんだか悶々とした感じになってますけど。


「クロード。良いものあげる」


ユイはそう言うと自分の荷物からなにか取り出してきた。


「はい、これ」ユイの右手には一振りの短剣が握られていた。


「えっ? なにこれ。俺にくれるの?」俺は聞いた。


「うん」ユイはうなずく。


俺はユイから短剣を受け取った。それは柄の部分にドクロの彫刻がされており、なんだかおどろおどろしいものだった。


「これは……」俺は聞く。


「これ昔のアーティファクトなんだって。死霊の短剣って言うんだよ」ユイは言った。


「死霊の短剣……」俺はその短剣をまじまじと見る。


「クロード。昔のアーティファクトが使えるって言ってたじゃん。だからクロードにプレゼントしようと思って。……でもこんなことになるとは思わなかったよ……」ユイが残念そうに言う。


「そっか。ありがとう。本当に嬉しいよユイ。これは……魔力残ってるな。起動できるかも……」俺は死霊の短剣を見ながら言う。


「起動? 起動ってなに?」不思議そうにユイは聞く。


「あー。古いアーティファクトは……実際にやってみた方が早いな」俺はそう言いながら死霊の短剣を水平に構える。


「コマンド……対象物死霊の短剣。起動せよ」俺がそう言うと死霊の短剣は紫色の光を放って輝き出した。


「えっ? これは……」驚くユイ。


「起動……死霊の短剣。初期化されています。ユーザー名を登録してください」と死霊の短剣が女性の声でそう言った。


「えっ? 喋った!」ユイが驚いたように叫ぶ。


「ユーザー名。クロード・シャリエ」俺はそう言った。


「登録しています……認証完了。はじめまして。クロード。アバターのハーフスケルトンガールのマヤを起動しています」と短剣がそう言うと俺の目の前に褐色の肌の女の子が突然、出現した。顔面は右目のあたりが骸骨だった。


「ういーーす。どもーー。半分骸骨、半分美少女、骸骨の方のスキンケアが大変なマヤでーす」とマヤはポーズを取りながら登場した。


ユイはマヤを見て驚いて……そして


「ええええええええええええ!!!」っと叫んだ。


「うっさいな。骨に響くじゃん」マヤはそう言ってユイを見た。



「え、え、え、え! 突然現れた……どういうこと?」ユイは口をパクパクさせながらマヤを見る。マヤはふざけたようにユイの口のパクパクを真似る。マヤはなんだか際どい格好をしていた。

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