トロール

「うっさいな! ちょっと黙っててよ!」エリザベスが発狂する。


「……」俺は黙る。


ここで俺の自己紹介をしておく。俺はこの物語の主人公だ。名前はクロード。ご覧の通りこんな扱いだ。だが、俺は俺の所属するクランは最高だと思っている。自分が優れていると見せつけるために、誰かを見下して馬鹿にする。そんな優秀で心優しいメンバーに囲まれて、俺は楽しく仕事をしている。


シドはハンドサインでメンバーに指示を出した。


メンバーはアイコンタクトで互いにうなずき合う。


緊張感が一気に高まる。


そしてカシムとユイ、エリーは森の中に潜むようにモンスターを待ち構えた。

いつのまにか俺のそばにはシドと盾役であるサムソンそして俺だけの3人になった。


「行くぞ!」サムソンとシドの二人は走り出した。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


とサムソンが大声を上げ、盾をかざして突撃する。


トロールはビクッとしてサムソンを見た。


そして持っていた泥をサムソンに投げつける。


それを盾で防ぐサムソン。シドはサムソンとは少し距離を置いて手に魔力を帯びた雷のムチを召喚した! 


チチチチ……と雷のムチから音がする。シドのサンダーウィップだ。

その雷のムチをトロールにふるう!

バチィ!! 激しい音がする。


「ウゴォ!」トロールは絶叫した。

そしてのけぞるように一瞬体を硬直させた。


そこに遠くから巨大な火球がトロールにぶつかって直撃する。


ドゴォン! 距離を置いて潜んでいたエリザベスの魔法だった。


土砂降りの雨の中だったが炎はまとわりつくようにトロールの体を焦がす。


「オオォォォ!」


と声にならない悲鳴を上げるトロール。


そこに遠くからカシムが魔力を帯びた矢を何本も放った。


ドン! ドン! 激しい衝撃音が鳴る。


その矢が当たるたびに衝撃でのけぞるトロール。

メンバーは互いに連携し合って攻撃をしている。


「効いてるぞ! 畳み掛けろ!」命令するシド。


いや、駄目だ。効いてない。俺はそう思った。一見派手な攻撃で効いてるように見えるがまるでダメージを与えてない。トロールは厚い脂肪に覆われていて外からの衝撃には強い。炎は表面を焦がしただけだ。このままじゃ……最悪メンバーが全滅するかも……俺は不安になる。


トロールは一瞬俺たちに背を向けると森に生えている大木を両手で掴む。


そして力任せに引き抜く。


ブチィィィィィ!! 


木の根っこが引きちぎれる嫌な音が響いた。


「やべえぞ。距離をとれ! サムソン!」


シドがそう叫ぶと同時にトロールはその大木をシドとサムソンめがけてふるってくる!


ドゴォン! そのトロールがふるった大木はサムソンとシドにブチ当たる。吹き飛ばされる両者。


「アアアア」とうめき声をあげるシド。そして反応しなくなったサムソン。


「シド!」後ろから声がかかった。ユイだ。ユイはシドのそばに駆け寄った。そして杖を振り上げ回復魔法でシドを癒やす。


「おい! 荷物持ち! 早くポーションで回復しろ! 倒れてるだろうが!」


遠くからカシムの絶叫が聞こえた。その声に従い俺は急いでサムソンのところに駆けつけてポーションを振りかけようとした。


エリーとカシムはトロールに集中砲火攻撃をしていた。鳴り響く炸裂音。


そしてポーションを取り出しキュポッっと蓋を外してサムソンにポーションを振りかける。キラキラと光り輝きサムソンを癒やすポーション。だが


「もういい! どけ!」サムソンはそう言うと俺を片手で突き飛ばし起き上がる。俺は尻餅をうった。


サムソンは再びモンスターに立ち向かっていった。気がつくとシドも回復が終わりまた雷のムチでトロールを攻撃している。


良かった。二人とも死んでない。俺は安心した。しかし……


「邪魔だ! どけ!」シドの怒鳴り声が響いた。と、思ったらシドの蹴りが俺の腹部に入る。ドクゥ!


「ぐおぉ……」思わずのけぞった。


「モンスターが来てんだろうが! 誰が出てこいって言った。引っ込んでろ! 役立たず!」


シドは俺にそう言った。俺はお腹を抑えてシドを見上げた。


するとそのシドの背後にトロールが迫ってきているのが見える!


駄目だ! このままじゃシドが死ぬ。俺はとっさに体が動く。


俺は地面にあった手のひらサイズの石を拾い魔力を注入する。

でたらめで強烈な魔力を石に注入した。この石に少しでもヒビが入れば爆発し、細かい石が飛び散る。そんな仕掛けだ。


俺はその魔力を込めた石をトロールの口のめがけて投げつける!


バコン! それはトロールの口の中に滑り込むように入った! 

するとボカン! トロールの体の中で石が爆発する。


口元を抑えてよろけるトロール。シドはハッとトロールと俺の両方を二度見した。


トロールはフラフラしていたが、やがて力尽きたように仰向けに倒れた。


ドスーーン! 森の中にトロールが倒れた音が響き渡る。


「トドメは俺がさす!」シドはそう言うと腰に装着していたダガーを抜いた。


素早くトロールの体の上に飛び乗り首に向けてダガーを振り下ろす。ぐにゅ。シドのダガーは脂肪に遮られて刺さらない。


「あれ? クソっこれどうやるんだ……」シドは脂肪に手こずりながら言う。

「シド。大丈夫だ。もうすぐそいつは死ぬ」俺は言った。

「……」シドは俺を無言で睨む。


俺の言った通り、トロールはピクリとも動かなくなる。戦いは終了した。


シドはギルドの報酬を受け取るためにトロールの鼻と耳を切り落とした。そしてユイはシドとサムソンを回復魔法で癒す。

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