1撃 大会に出る!-2
「今どっちが勝ってるの?」
隣にいるメガネをかけた中学生らしき人に尋ねた。
「帽子被ってる人が勝ってる。あの人めちゃくちゃ強いよ。さっきもストレートで勝ってたのにこの試合も先行してる」
アツヤのサーニャルは、対戦相手をタフゲージが満タンの状態で場外間際に追い込つめている。必死にガードしたり避けているが、一瞬の隙に乗じてサーニャルのパンチが叩き込まれて吹っ飛んだ。見守っていた観客は、おおー、と波打つように歓声を上げた。
「すげー!」
「うん、またストレートで、しかも弱キャラのサーニャルだもんな」
「いや、そこじゃなくて、むやみに隙の多い大技を振り回すんじゃなくて、タフゲージが満タンなことと、場外間際まで追い詰めてるってことで弱いパンチでも吹っ飛ぶっていう判断がすげーなって」
「へー、そんな視点がねー。あれ、よく見たら、キミさっきあの人に負けて泣いてた子?」
「えっ、おや、ひ、人違いじゃないデスかねー」
「いやそうだろ。まっ、悔しいもんね。こんな風にサーニャルにストレート負けしたらコントローラ投げたり、暴言吐きたくなる気持ちもわかるよ」
「いや、まあ、はは」
今日は一日言われ続けるんだな、と冷や汗をかいた。
「さて、決勝戦のカードが決まりましたね。決勝を戦う方はこちらまで来てください。試合を見たい方はスクリーンにゲーム画面を映すので、観客先の方でご覧ください」
ネツヤは急いで一番前の席に座った。
運営の人が、対面形式のテレビ画面の前に来るように促した。アツヤと対戦相手は、挨拶を交わした後座席に座った。コントローラを差し込み、キャラ選択画面からアツヤはサーニャルを、対戦相手は巨大な鉄球を武器にする鉄球魔人を選んだ。
「うわー、相手魔人使いか。きついな」
「軽いサーニャルだと、魔人の鉄球食らったら大ダメージくらうからか?」
「そうだね。三発くらい当たればやばいね。大体のプレイヤーは鉄球ぶんぶん振り回すだろうから、そもそも近づけないだろうしね」
メガネ中学生の言った通り、魔人は鉄球を振り回している。迂闊に近づくことができないサーニャルは、ステップを踏みフェイトをかけて魔人の懐に飛び込む機会を狙っている。
「二人とも膠着状態でこのままだったら、制限時間になるからサドンデスになりそうだね」
「はーっ、こんなつまんねー試合十分も見せられんのかよ!」
「どうなんだろうね、決勝戦だしお互い慎重になってるんじゃないの?」
「もっとおもしれー試合見れると思ったのにな!」
不躾な言動ではあったが、観客席にも同様にしらけた空気が漂っていた。
そんな不穏な空気を察したのかこらえきれず、魔人が鉄球をぶつける攻撃を仕掛けてきた。サーニャルは鉄球をかわすとその上に乗った。手繰り寄せられる鉄球とともにサーニャルも魔人に近づく。魔人はこの動きを止めることができず接近を許してしまった。隙だらけの魔人に通常攻撃の連続パンチをくらわした。
「おおっ、連続ネコパンチで相手をとらえた!」
「ネコって……、サーニャルはサーベルタイガーの半獣じゃん」
「えっ!ネコ耳と、しっぽ生えてんのに……?って、今はそんなんどうでもいいや、試合に集中、集中!」
弱い通常攻撃だが、ガードが間に合わなかったためタフゲージはかなり稼げた。間髪入れず蹴りで宙に浮き上がらせると、ジャンプし強力な引っかき攻撃の必殺技タイガークローをくらわせる。魔人はあっさり場外に吹っ飛ばされた。
「やった、勝った!」
「いや、まだだよ」
しかし、場外に落下する前に鉄球を場内に放り投げた。
「アツヤの対戦相手もうまっ、魔人ってああいう復帰できるんだ!」
「そうだね。大体のキャラは空中ジャンプで戻ってくるけど、魔人は復帰に癖があって、鉄球を重石代わりにして、鎖をロープみたいに手繰りよせて復帰できるんだよ」
復帰を試みたところをサーニャルも空中ジャンプで場外に飛び出して、ひっかき攻撃で追撃する。復帰できない距離まで飛ばされた魔人は、諦めて場外に落下した。
「おー!これだよ、こういう熱い試合見たかったんだよ!」
「うわっ、びっくりするじゃん、急に立ち上がって大きい声出さないでよ」
「これが騒がずに入れるかよ!相手の隙をついてコンボかまして、復帰阻止なんてうますぎ!サーニャルってこんなかっこよくて、つえーキャラだったんだ!」
「サーニャルっていうか、使ってる人がうまいよね」
アツヤは勝った余韻にひたらず落ち着いた様子で、次戦に向けてサーニャルを選択した。対戦相手は慌てた様子で鉄球魔人を選択した。
先ほどの試合とは打って変わって、魔人はスタートと同時に鉄球をぶつける先制攻撃を仕掛けるも、サーニャルは機敏にかわし徐々に近づく。
「おう、この試合は動いてんなー!やっぱ、試合はこうじゃねえと!」
「うーん、動いてるというか動かされてるような。サーニャル使いの人のペースにのせられてる感じがするけど」
ステップやジャンプで回避して、鉄球をぶつける攻撃を繰り返す魔人の懐にとびこんだ。
「おおっ!くるぞ!」
がら空きの懐に、コンボが炸裂し魔人の巨体は場外に吹っ飛ばされると復帰行動をすることなく場外に落下した。
「あっ、えっ、勝ったじゃん、アツヤ優勝じゃね?」
「一戦目の試合で相手の心が折れたみたいだね。実力差がありすぎる。決勝戦でこんな一方的な試合なんて、しかも弱キャラのサーニャルで」
決勝台にいるアツヤはこぶしをグッと握りしめると、真剣だった表情から相好を崩し対戦相手と握手を交わした。運営の人が近づいてきた。
「アツヤ選手、第一回浅東《せんとうさの秘訣は何でしょうか?」
「そうですね……。色々ありますけど、相手が次に何をするか想定したり、どの技で狩るのがリスクなく効果的なのかを常に考えながらプレーすることですかね」
「こんな華奢でかわいらしいキャラで勝てるっていうのは凄いですね」
「どんなキャラでも戦略や状況次第で勝てる可能性が秘めてるのが、このゲームの面白いところだと思ってます」
「ほほう、そんなにこのゲームで考えてるんですか?相手を吹っ飛ばせば勝ちという誰にでもできる簡単なイメージでしたが」
「もちろん、強い技を当てれば、吹っ飛ばせるけど、隙もできやすいのでリスクが高いです。序盤でやみくもに振って当たったとしても、一発でふっとばせるなんてことありませんから。逆にタフゲージためても、吹っ飛ばせる技やタイミングを考えないと吹っ飛びませんし。単純そうだけど簡単には勝てないゲームかなって」
「へー、そうなんですね。それでは、最後に一言お願いします」
「はい、改めましてプレイヤー名アツヤと言います。これからプロゲーマーになるためにますます頑張っていきたいと思ってるので応援よろしくお願いします」
プロゲーマーという言葉に会場は笑いが起こった。
「あの人おもしろいね。さすがにこのゲームでプロゲーマーはないでしょ」
メガネ中学生も笑った。
「何笑ってんだよ!お前らも笑ってんじゃねえよ!」
会場中にネツヤの怒鳴り声が響くと、和やかなムードから不穏な空気に一変した。アツヤは大きく目を見開いた。
「また、君か。大会中も注意したけど二回目でレッドカードだ。会場から出なさい」
「本気で言ってる奴を笑うような、こんなところこっちから出てってやるよ。お前らあんだけ熱い試合の何見てたんだ!」
「あのねえ、バサバスは子供向けのゲームなんだよ。しかも、発売して間もないのにプロゲーマーなんて言うんだから、誰だって冗談だってわかるもんだ」
「えっ、冗談じゃないですよ。彼の言う通り本気です」
「いやいや、この子供向けゲームにプロゲーマーなんて存在しないんだよ?しかも、いつまで続くかもわからないゲームに」
「だから、俺が最初のプロゲーマーになります。今は俺みたいな高校生とか大人のプレーヤーは少ないかもしれないけど、こういう大会で熱い試合してれば、おもしろいゲームだってことを知ってもらえて今後も長く続いていくと思ってるんで」
「……そうかい。君の熱意があれば本当に実現するのかもしれないね。こういった大会を開催しておきながら、君の夢をばかにするような発言になって申し訳なかった。また、大会を開くときがあれば、ぜひ来てくれたら」
「ありがとうございます!こういうみんなが楽しめる大会を開いてもらえるだけで、めちゃくちゃありがたいのでまた来ます。全然気にしないでください」
アツヤは爽やかな笑顔で応えた。会場からは自然と拍手が生まれ、勝者が称えられた。
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