第五週「お面」(序)

あら、いらっしゃい。その様子だと、この時間でも外はまだ暑いのね。


ここは資料の保管のために常に空調が効いてるから、一休みしていくといいわ。

その代わり、資料の保管のために飲食厳禁だから、冷たい水のひとつも出せないんだけどね。


いよいよ、夏本番という陽気が続いているわね。


どう、夏休みを楽しんでる?

え? そんなわけない、って?


まぁ、今の状況だと楽しむ方が無理でしょうね。せいぜい骨休めをするしかないのではなくて?


私の知り合いも毎年、故郷へ帰省していたのに、もう3年も両親の顔を見ていないと言っていたわ。あなたの故郷はどこかしら?


そうそう。よくフィクションでも描かれる田舎への帰省なんだけど、実は私、あれに憧れているの。


両親共々、生まれも育ちもこの辺りだし、遠方の親戚もいないし、家族旅行はいわゆる観光旅行しか経験したことなくてね。


田舎の親戚の家に泊まって、大自然の中で思い切り羽を伸ばすって素敵よね。


---ふふっ、なーんて話をしたら……この前、ここに来た人に笑われたわ。


その人は夏休みに田舎の親戚の家に行くのが、大嫌いだったんですって。


まぁ……「もう行かなくて済むようになった」とも言ってたけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る