第14話 強奪者
迫り来る男に、カイトは迎撃の態勢を整える。
とはいえ、先程ダンジョンでの石像との闘いで多くのロストを消費してしまい、残っている戦闘用のロストは多くない。
しかも、先程の男の動きを見るに、生半可な攻撃では回避されてしまうだろう。
そも、相手は人間。攻撃用ロストでの、対機械獣戦時のような過剰な破壊は必要ない。最小で最適な動きで攻撃を当てれば片が付く。
腰のホルダーから取りだしたナイフを左手に構える。
攻撃力の差は刃で埋める。いかに相手の攻撃が強かろうが、ナイフの一撃で相手を仕留めることができるのなら、条件はイーブンだ。
当たったら負けというシンプルな条件。
ペロリと乾燥した唇を舐める。
思考が加速していく感覚。感覚が研ぎ澄まされてゆく。男がナイフの間合いに入る直前、カイトは息を止めて眼を見ひらいた。
鋭く突き出された男の拳。視認することすら難しいその攻撃に対して、カイトは攻撃予測地点にナイフを置くようにして刃を軽く振る。
相手が自分以上の技術を持っている時、下手な攻撃は隙になってしまう。
ならばどうすれば良いか。考えたすえ、カイトが編み出したナイフ術がコレだった。
徹頭徹尾、相手の攻撃に対してナイフでカウンターをする戦術。
相手が自分の間合いに入った瞬間、どこでも良いから間合いに入った場所をナイフで斬り付ける。
自分から踏み込む必要は無い。
そも、ナイフというものは、大して力を入れなくとも人間の皮膚程度なら簡単に引き裂いてしまえるものだ。
そして、この攻撃で相手に致命傷を負わせる必要も無い。
この攻撃は、相手の皮を裂き、血を流させる事はできるが、それ以上は期待できない。相手は苛立つだろうが、皮が裂けたとしても人は動けるのだ。
そう、この攻撃の目的は相手の冷静さを奪う事。
相手と適切な距離を取りながら、ひたすらこの戦略をとり続ければ、相手が格上だろうとも負けることは無い。
ひたすら戦闘を長引かせ、相手が下手な一手をうった瞬間を狙う。
相手が武器を持っていてもこの戦術は通用する。
要は攻めを意識せずに、ひたすら防御と嫌がらせに徹する訳だ。
カイトが持久戦を覚悟してナイフを振るったその瞬間、男がニヤリと笑ったのが見えた。
「がっ……!?」
気がつくと、カイトは腹を抱えて膝をついていた。
何が起こったのか分からない。腹部に強烈な痛みがあることを考えると、何らかの攻撃を貰ってしまったのだろうか?
ゼイゼイと息を切らしながら顔を上げるカイトに、男は涼しい顔で乱れたスーツを直しながらカイトを見下ろしていた。
「狙いは悪くない……悪かったのは相手が私であったという、ただそれだけのことです」
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