第15話 強奪者
男は、勝利を確信したかのように余裕の表情を浮かべ、一歩カイトに近づいた。
それは、男にとって必殺の間合い。
カイトを見下ろし、スラリと優雅な動作で右足を頭上に上げる。短く息を吐き出し、凄まじい勢いで振り上げた足を、カイトに目がけて振り下ろした。
所謂踵落とし。必殺の威力を秘めたその一撃は、腹部への大きなダメージを負ったカイトに回避する術など無く……。
周囲に、何か堅いモノ同士がぶつかり合った硬質な音が響き渡った。
「……往生際が悪いですね」
男の踵落としを受け止めたのは、カイトの右腕。 ”雷神の右腕” と呼ばれる鋼鉄の義手である。
「あぁ、それが俺の強みでね。往生際の悪さで今まで生き延びて来たんだよ」
ハンターは、常に危険と隣り合わせ。
死に直面したとき、簡単に自分の命を諦めるモノが、ハンターとして生き延びられる筈も無い。
「あとお前、俺の事舐めすぎだぜ?」
ニヤリとニヒルに笑うカイト。
危険を感じ取った男が距離を取ろうとするが、カイトは攻撃を受け止めた右手で、ガッシリと男の足を捕まえた。
足をふりほどこうと、男がカイトに攻撃を仕掛けるよりも早く、カイトは左手で義手の右肩に付けられたつまみをグリリと動かした。
「”雷神の一撃”(トールハンマー)」
義手から放出される凄まじい電流。バチバチと迸るスパーク。男は感電し、ビクビクと痙攣しながらその場に倒れた。
腹の痛みを無視し、バッと体勢を立て直すカイト。通常の相手なら、この一撃で終わりだろう……しかし、目の前の男は明らかに普通では無い。確実に仕留めなくては、こちらがやられる。
バチバチと青白いスパークを纏わせた右拳をグッと握り締め、倒れている男に馬乗りになる。
トドメの一撃を加えようと拳を振り上げた時、背後から聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「そこまでだよクソガキ」
振り返ると、そこには全身にジャラジャラとアクセサリーを身に付けた、派手な化粧の女がいた。
見覚えのあるその女は、手にした拳銃の銃口を、意識の無いカナミのこめかみにピタリとつけて笑っている。
「……テメエ、生きてやがったのか ”強欲” のクソババァ。この男は新しい下僕か?」
「あの程度で死ぬわけ無いでしょ? それと、次にババァって言ったらこのメスガキのドタマぶち抜くわよ?」
女の脅しに、カイトは冷静に自身の右手のつまみを動かし、電流の出力をマックスに設定した。
「やってみろ、その瞬間この男も死ぬぞ?」
「ふんっ、できるかしらね」
「脅しじゃねえぞ?」
「あぁ、そういう意味じゃなくて」
馬鹿にしたように笑う女は、クイッと顎でカイトの下にいる男を指し示した。
「アタシの下僕は、アンタ程度の手に負えるような相手じゃないわよ」
次の瞬間、電撃を受けてぐったりとしていた男の体が動いた。
まるで野性の暴れ馬に乗っているかのような感覚。抗えない強靱な筋肉の力に、カイトは呆気なく吹き飛ばされる。
「電撃とは驚きました。感謝しますレディ」
「まったく、油断するんじゃ無いよ。こんなガキでも、相手はハンターなんだからね」
やられた。
形勢逆転。状況はイーブンから一転して最悪の状況に。カイトは舌打ちをしながら二人を睨み付ける。
「……俺らを殺すつもりか?」
「まさか、今回のアタシの狙いはコレだよ」
そういった女の手には、カナミがもっていた ”氷の覇者のリング”があった。
「優秀なハンターは貴重だ。だからアンタらは生かしておいてあげる……アンタらには、一つでも多くのロストを持ち帰って貰わないといけないからね」
そして女はあざ笑うようにカナミを掴んでいた手を離し、その体を蹴飛ばした。
「アンタらは生かされている。アタシの利益の為にね……また、良いロストをアンタらが手に入れたとき、また会おうじゃないか」
高笑いをしながら去って行く二人組を、カイトは唇を噛みしめながら見ていた。
どれだけくやしかろうと、今のカイトには何もできない。
力が……圧倒的に力が足りなかった。
鉄の右手で強く地面を打つ。
一筋の涙が、カイトの頬を伝った。
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