第20話  シェリー宮殿潜入作戦

 


 城塞都市首都ドロナック。

 それは、とにかく巨大である。

 城塞都市とはその構造上周りを城壁で囲む為、こじんまりした規模になりがちだが。

 首都ドロナックは少し、規格外である。

 現在の城壁の形状はほぼ、六角形に近いのだが、増築を重ねたその最大直径は12キロメートルにも及ぶ程、巨大である。

 古代王国シュラムの城壁を現在も一部、再利用しているが破格の規模と言える。

 故にドロナック王国が小国だった時から、籠城戦に関しては難攻不落の城塞都市であった。

 現在のドロナック王国がここ迄、領土を広げる事が出来た経緯についてはよく知らないが、ここ首都ドロナックに関しては例えグランデ帝国であろうと攻略するには至難の業と言えるだろう。


 俺が目指すのは取り敢えず王国の機密文書が保管されているとされている通称シェリー宮殿書庫である。

 名称の由来は建築の際の御披露目のパーティーでシェリー酒が振舞われた事によるらしい。

 調べた所、ここには都市の中央にあるドロナック城のすぐ近くに建築されており、国家機密魔術や、ドロナック王の住むドロナック城の建築設計図、国家財政や戦力、戦略または兵力に至る資料など、まさにこの国の国家機密が保管されているようだ。

 もしダミアンが、ここドロナックで古代魔術のヒントを得たのであれば、古代魔術に関する記述が、この書庫にも保管されている可能性は高い筈だ。

 俺は、ドロナック城ではなくて、このシェリー宮殿書庫に潜入する事にした。


 しかし、ここは国家有数の機密情報の保管庫である。

 それ故、警備も非常に厳重であり、忍び込む事など不可能にも見える。

 しかし、ここは元天下の天才大魔道士リッキー・リードである。

 攻略法がないわけでもない。

 クロスローズで仕入れた薬品を使って制作したリッキー特性の眠り薬がある。

 騒ぎを起こす事なく、ただ眠らせるだけだ。

 眠らされた人間は目が覚めた時、ただ居眠りでもしていただけだと思うはずだ。

 なんて平和的な作戦だろう。

 更に俺はこの薬品を水鉄砲状に改良してある。

 忍び寄って警備兵の顔に吹きかけるだけで、たちまち眠りにつかせることが出来ると言う訳だ。 


 完璧な作戦を引っさげ俺はシェリー宮殿までやってきた。

 俺は黒いローブを纏って宮殿入口を観察した。


 入り口には警備兵が二人。

 屋上に4人と言ったところか。


 1階の外には窓もない。

 俺は入り口の前に、大道芸召喚獣を放ち、奴らが気を引き付けられている隙に、2階の窓からシェリー宮殿に潜入した。

 さすがに、入り口の警備兵が倒れていたら、見るからに怪しいので眠らせるのはやめておいた。


「思ったより簡単に潜入出来てしまった」


 さて…。

 とりあえず静かに痕跡を残さずにさらっと仕事をこなして帰るとしよう。

 たまに、見張りの警備兵がいたが、物陰に隠れていた何とかやり過ごした。

 眠らせる人数も最小限に留めた方が良さそうだしな。

 しかし、この150センチの小さな身体は、潜入捜査に非常に適している事に気付いた。

 そして時間にして30分程、散策を続けていると、地下に遂に書庫を発見した。

 入口には警備が一人立っている。

 俺が物陰に隠れながら放った水鉄砲は一発で警備兵の顔面にヒットした。


 我ながら俺センスあるな…。

 直接戦闘よりも、これからは暗殺の方が自分には向いてるのかも知れない。


 眠りについた警備兵は、近くにあった椅子を持ってきて座らせておいた。

 こうしておけば、勤務中にサボって居眠りしてる様にしか見えないだろう。

 まあ、効き目からして2時間は目を覚まさない筈だ。

 こないだ実験(イタズラ)でメイに使ったら3時間ぐらい眠っていたからな…。

 入口には鍵が掛かっているが、鍵開けのスキルを習得しておいたのでここは問題ない。


《ガチャ》


 どうやら問題なく、開いたようだ。

 ここ迄、上手く行き過ぎて少し不安になるが俺の実力であると納得するか。

 

 書庫の中に入ると膨大な量の書類が保管されている。

 俺は棚をひとつひとつ慎重に調べる事にした。

 15分程、探していると古代シュラムに関する文献が保管されている棚を見つけた。


「やった!

 これだよ。

 しかし歴史、遺跡に関する資料が多いな。

 古代の魔術文献は、ないのかな?」

 

 俺は少し独り言が出ていた。

 そしてその中に、シュラムの遺跡に関する調査報告書類があった。


『5月25日:シュラム王国遺跡。

 シュラム王家アシュハール王墓の中に

 隠し部屋を発見。

 しかし、その部屋は盗掘の痕跡有り。

 一部の魔道具及び装飾品は残されていたが

 部屋の内壁が一部剥ぎ取られた跡を発見。

 残った、壁には無数の古代魔術式が記載。

 しかし、魔術式詠唱方法の部分が

 剥がされ行方不明であった』


 記載されている報告日は5年前か。

 シュラムのアシュハール王は神話に出てくる魔道王だ。

 ダミアンの魔術がアシュハール王墓に書かれていた魔術だとすると術の詠唱方法は盗掘にあった事になる。

 そう決めつけるのは少し早いかも知れないが、その可能性も十分にある。

 では、王墓盗掘を行ったのはダミアンなのか?

 それとも別の人間がダミアンに教えたのか?

 ダミアンは自分が解明したとか何とか言っていたが…。

 殺してしまったから、詳細が全くわからん!

 殺すんじゃなかったよ。


 その後も書庫を調べたが、結局手掛かりは分からずじまいだった。

「結局、振り出しに戻っちゃったな…。

 一度、クリスとメイの所に、

 戻るとするか。

 今ならまだ

 飲みに行ってたで誤魔化せるしな」


「あれぇ、軍事機密の棚って

 何処にあるんだよ全く分かんねぇよ」


「軍事機密は入口から向かって右奥の角だ」


「おお!そうか助かったよ!

 この書庫やたら広いから参ったよ」




「「えっ!?」」


「「お前、誰だ!!」」


 会話する迄、気配すらしなかった!

 俺の横には、細見の全身黒い軽装の鎧服に身を包んだ男が立っていた!


「ここは機密書庫だぞ!

 何でこんな所に人がいるんだ!」

 俺は内心混乱しまくっていた。


「それは、こっちのセリフだ!

 子供がこんな所で何してる?

 とても王侯貴族には見えないけどな」


「俺は子供じゃない!

 見た目だけだ!

 お前、その身なりはもしかして

 スモークランドのストラス人か?

 確か、潜入捜査と暗殺集団の

 民族だった筈だ!」


「何だ?

 よく知ってるじゃないか

 なる程、ただの子供じゃないみたいだな」


「だから子供なのは見た目だけだって

 言ってんだろ!」

 

 こいつ、とぼけた感じから一気に雰囲気が変わった。

 そうこうしていると、俺達の声を聞きつけて、宮殿の警備兵の叫ぶ声が聞こえた。

 何て事だ!

 やっぱりだが、声を出し過ぎた!


「おい、怪盗少年。

 ここは、早くこの場所を離れた方が

 良さそうだな。

 俺は【ディーン】。

 ついてこい!

 話の続きはその後にしよう」


「それしか、方法はなさそうだな

 俺はリッキーだ

 自慢じゃないけど弱いから

 しっかり守ってくれ!」


「本当に自慢になんねぇな…。

 しかしリッキーとはまた

 親にとんでもねぇ名前付けられたな」


 俺達は書庫を出ると、地下通路を抜けて地上階に向かった。

 すると、通路の曲がり角に警備兵達の影が見えた。

 しかし、その影はその瞬間、床に倒れる様子が見えた。

 そして俺は隣にいたディーンがいなくなっている事に今、気付いた。


「おい、リッキーこっちだ

 入り口は警備で固められている

 一度、中庭に出てそこから逃げるぞ」


 ディーンが通路の角から顔を出した。

 何だ!?いつの間に向こうに移動したんだ!

 全く見えなかった!

 もしかして、この男とんでもない奴なのでは…。


 俺達は1階にいた警備兵に見つからないように急いで中庭まで出た。


「おいリッキー俺の背中につかまれ!」


「背中に?」


「いいから早く!時間がない!」


 俺はディーンにつかまると、彼の両足が赤色に輝きだした。

 身体強化スキルか?いや、何だこれは?


 その瞬間、彼の体はとんでもないスピードで宮殿の屋上まで舞い上がった!

 ディーンは着地の瞬間、

 1秒も経たない間に屋上にいた警備の4人に打撃を入れて失神させた。

 

「じゃあ、そろそろ

 ずらかるとするか

 しっかり、つかまってろよ

 落っこちるんじゃねえぞ!」


「ちょっとまだ心の準備が!」



 俺はディーンの脇に抱えられながら、城塞都市ドロナックの夜空を舞った。



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