第17話 森の大妖精


 俺達は今、王国首都のドロナックへ向かうの旅の途中だ。

 俺はクロスローズで買い込んだ本や道具の整理をしている。

 クリスは俺が教えた読み書きの練習をしながら魔術の復習をしている。

 そして、馬車を御しているのは誰かと言うと、手綱を握るひと際大きな背中。

 そう、シスター・マザー・メイである。


 メイはレオポルドとの一軒が片付いた後、この孤児が頻出する世界そのものを変える必要があると考えていたらしい。

 そこでメイは俺が大魔道士リッキーだと知って俺ならこの世界を変える事が出来るのではないかと思い、同行したいと言ってきた。

 アマンダ周辺の孤児の保護についてはレオポルド・ファミリーを恐れて逃げ腰だったクロスローズ領主も組織が殲滅したので、今後は強力的に孤児の保護に尽力してくれたようである。

 アマンダの村や孤児の警護についてはレオポルド達という驚異がいなくなった今、レイチェルとステファニーを中心とするマザーメイ自警団にアマンダを任せようと思ったらしい。

 修道院については、シスターアミエルが修道院の事は心配しないでメイさんのやりたいようにやって欲しいと彼女たっての希望があったようだ。


 メイは最初はヴィンスとアイリスから託された村を出る事を迷っていた様だったが、考え抜いた末、今回の決断に至ったようだ。

 メイは覚悟を決めたのだろう。


 メイの胸にはいつもヴィンスの戦場のお守りのネックレスとアイリスのロザリオの両方が下げられている。

 たまに寂しそうな顔で遠くを見るメイの姿があるが、メイの決めた道を応援したいと俺も思っている。

 しかし、そんな気を使わせまいとなのか彼女特有のいつもの冗談にも心を打つものがあった。


「ワタシ気付いたのよ。

 リッキーちゃんの面影が昔のヴィンスそっくりなのよ。

 ワタシもこれから前に進む為にはアナタの愛が必要だと思うの!」

 

「前は孤児院のテリーにヴィンスの面影があるって言ってたでしょうが!

 おいクリス!師匠を守りなさい!!」


「え!師匠

 僕にメイさんは止められませんよ!無理ですって!

 はい、メイさんそれくらいにして今日は夕飯の準備にしましょう」


「嫌よ!リッキーちゃんの返事を聞かないと

 食事も喉を通らなのよ!!」


「それは昼間、肉を2キロも食ったからでしょうが!」



 旅は賑やかになった。

 思えば、こんな経験は初めてだ。

 俺には昔、手下こそ沢山いたが、いつも壁を作って心を開こうとはしなかった。

 他者に対していつも無関心で尚且つ恐れていたのだ。

 しかし、クリスやメイさんとの出会いで俺は少し変わる事が出来たのだろうか?

 俺は弱くなって初めて、仲間と言うものを理解したいと思える様になったのかも知れない。


◇◇


 夕食が終わると俺たちは夕食を食べながら首都ドロナックへ向かうルートについて話をしていた。


「はい!俺から提案があります

 このまま、森を迂回して首都ドロナックに向かうより

 森を抜けて行った方が2日程、短縮できるかと思います!」


「しかし、師匠。

 森を抜けるには魔物との遭遇率も上がって危険ではないかと思いますが。

 この前みたいに、グリフィンの様な大型の魔物に遭遇する危険性もあります」


「うちのパーティーにも大型超人のメイさんがいるので大丈夫だと思います!」


「やっぱりさっき、キツめに抱きしめといた方が良かったかしら?」


 結局、話し合いの末、ルーティングは俺の強引な意見が通り、迂回せずに森を抜けて行くルートが採用された。

 方位磁石もあるし距離もバッチリだ。

 魔物が出たとしてもウチには強力なヒューマンウエポンが二人もいる。

 だったら日数を節約しようという俺の半ば強引な理論が簡単に通ってしまった。

 しかし、俺はこのパーティーのリーダーであり、頭脳である。

 俺が指揮系統を取って二人と先導していけなくてはいけないのである。


 ……と、思っていたのだが、俺達はあっけなく道に迷った様だ。

 それはそれは、とんでもなくだ。


 獣道を馬車で無理やり突き進みながら最初は方角ぐらいは把握していたが。

 見えてくるのは同じような木々ばかりで、既に現在位置がどこなのかすらも分からなくなってきた。


 二人の呆れたような冷たい視線が突き刺さる。


「ごめんなさい」


「こうなった以上、一刻も早く森を抜け出す必要がありそうね。

 魔物の出る森の中で何拍も夜を明かすのは危険すぎるわ」


「食料は師匠のマジックアイテムでかなりの備蓄がありますが

 やはりここ迄、森の深くに来てしまうと

 メイさんの言うように魔物の危険性が、かなり心配ですね」


「返す言葉もありません皆さん……」


「取り敢えず、そろそろ日も落ちて来そうなので

 安全に野宿できる場所をこのあたりで探してきます。

 メイさんは師匠の護衛をお願いします

 師匠は今、魔力を失っているようなので」


「なんかすいませんね……皆さん」


「しかし、リッキーちゃんの

 あのダミアンを倒した魔力が

 自分の意志で、いつも使えないなんて不便ね」


 しばらく、クリスの帰りを待っていると、クリスの大声が聞こえた。


「師匠!巨人です!!!

 巨人が現れました!!」


 向かってみると、そこには身の丈5メートルを超えるような巨人が胡坐をかきながら樽に入った酒のようなものを樽ごと飲んでいた。

 肩には、やたらとデカイフクロウが乗っており、衣服にはコケや植物が生い茂り

まるで体中が森と一体化してる様だ。


 いや……しかし、俺はあいつを知っている。


「いや、あれは。巨人じゃない。

 妖精クルラコーンだ」


「妖精クルラコーン!?

 クルラコーンっていえば家や酒蔵に住み着くって言われてる大酒飲みの妖精?

 でも、あの妖精って凄く小さくて、大きい奴でも子供ぐらいって聞いたわ

 どうみても5メートルぐらいあるわよ」 


「あいつは、妖精クルラコーンだが1000年以上生き続けている。

 1000年以上も酒を飲み続けて、巨大化し続け

 気が付けば、あの巨体を手に入れたんだ。

 そうだったよな?

 森の大妖精ハーランド」


「いかにも。

 そういうお前も見た事がある。

 その赤い瞳は、リッキー・リードかな?

 200年前はえらく世話になったな

 お前のお陰で、わしらはこの200年間森で静かに暮らしていられる」


「俺がお前たちに国家領地とは別に森の特別自治権を与えたからな」


「リッキーちゃんのコネクションっていつも想像の上を行ってるわね」


「実に面白い政策だったよ。

 獣人たちも人族に差別されることも無く自分たちだけのコミュニティで

 暮らしていけるんだからな。

 あのゴブリン共すら当時は、お前さんに感謝しとったくらいだよ」


「それでハーランド。

 実は俺達、道に迷っちゃったんだけど森から抜ける道を教えてくれないか?」


「ん?お前なら空を飛べば何とでもなるだろう?」


「今は、分け合って飛べなくなったんだよ」


「成程、だったら明日、妖精たちの案内をつけてやる。

 今日はゆっくり酒でも飲んで休んでいくと良い」


「助かるよハーランド!

 ところで、そのお前の今飲んでるのは酒なのか?」


「これはミード(はちみつ酒)だよ、妖精たちに蜂蜜を集めてもらって、

 わたしが仕込んでるんだよ」


「へえ、うまそうだな!

 俺もそれを貰っても良いか?」


「良いだろう。

 酒はいくらでもあるから今日は好きなだけ飲んでいきなさい」


「ありがとうハーランド!

 メイとクリスも頂こうぜ!」


「良いわね!私も頂くわ」


「師匠、僕実は、お酒飲んだことないんです……」


「お前も17歳なんだから、酒ぐらい付き合えよ!」


 ちなみに15歳で成人なので酒を飲んで良い。


「分かりました……

 じゃあ……ちょっとだけ」


 俺達はハーランドに貰った酒を飲みながら俺達の食料もハーランドや他の妖精たちに分けてあげて森の妖精達とみんなで夕食をすることになった。

 

 アマンダでは皆、基本酒を飲まなかったので、こんな大勢での飲み会は、俺は生まれて初めてかもしれない。


 しかし、俺はその時、クリスの異変に気付いた。

 明らかに目が据わっている……


「もとはと言えば師匠が近道するって言ったから!

 こんな事になって!

 いつも師匠の言う事ちゃんと聞いてるし、

 飲めないお酒だって頑張って飲んでるのに!!

 僕だって師匠の為にいつも頑張ってるのに!!

 最近、頑張ってオシャレだってしてるのに!!

 師匠ったら全然かまってくれないし!」


「クリスさん……何を言ってるの?

 ちょっと落ち着いて!

 こら!クリスさん!!

 ファイアーボールで森を燃やそうとしたらいけません!!

 メイさん!ちょっとクリスを止めて!!」


「クリスちゃんの普通の女の子らしい姿が初めて見れてワタシうれしいわ!

 この子、真面目過ぎるから、ちょっと心配してたのよ。

 それにしてもリッキーちゃんも鈍いわよね」


「ちょっと誰か!クリスさんを止めて!!」


 クリスは軽いボヤを起こしたが、俺や妖精達に取り押さえられ、事なきを得た。


 クリス酒乱だった。




        To Be Continued…



:現在のパーティー:


リッキー・リード:

 身長 150センチ

 魔力なし魔道士

 経済力はちょっとだけセレブ


クリス:

 身長 155センチ

 魔力値 13000

 元ギャング団員

 酒乱


マザーメイ:

 身長 205センチ

 魔力値12500

 怪力と硬質化能力

 元シスター

        

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