第3章 ドロナック王国炎上大戦編 

第16話 光を放つ子供


◆◆◆◆

 


 242年前。


 【魔法国家ブラックラ】。

 それは現在のグランデ帝国東部にあった。


 その国は、天才魔術師バーガンディが晩年に魔術研鑽を重ねた土地として名高い国である。

 世界の魔法研究の中心であり世界の古代魔法、現代魔法の研究に多大なる貢献をした国であった。


 当時、その国は戦火にあった。

 隣国の武装国家ゴードン王国の侵略を受けていた。

 ゴードン王国は百戦錬磨の騎兵隊と、魔道士ダミアン、ジェイムス、アレクシスを中心とする魔道士兵団による、圧倒的な武力により隣国に侵攻、制圧を行い、他国を圧倒する武力を持って、ラグレスタ大陸の派遣を握ろうとしていた。

 ゴードン王国周辺は、さながらラグレスタ大陸最大の巨大な紛争地帯となっていた。

 しかもゴードン王国の侵攻は正に鬼畜の所業であった。

 侵略した国家の文化を滅ぼし、財産をむしり取った。

 さらに歩兵は寄せ集めの傭兵達が大部分を占め、これがすこぶる評判が悪く、各地で無秩序な殺戮、略奪を繰り返していた。

 

 魔法国家ブラックラの魔術研究知識の集大成であった国立魔法書庫である通称【叡智の書庫】は野蛮な傭兵達により焼き討ちにあった。

 膨大な魔法研究の資料は燃やされロッホ川に投げ込まれた為、川は本のインクと灰で真っ黒に変色し染まったという。

 戦前は世界一の文化レベルを誇っていた国は、たちまち瓦礫と死臭の漂う地獄と化していた。


 俺はその地獄で生まれた。

 親が誰なのかもは知らない。

 死体の山の中に、まるでゴミのように捨てられていたらしい。

 身元を証明する様な物も無かった。

 まあ、仮にあったとしても場所が場所だけに盗難にあって残っているはずもない。

 ただ、胸に【リチャード・リード】というタトゥーが入れられていた。

 これが、俺の名前なのかすらも定かではない。

 ただ、俺は赤ん坊だったが黒みがかった緑色の魔力に包まれていたらしい。

 歳は見た目からして恐らく1歳ぐらいだったようだ。


 その不気味さから俺はゴードン王国の兵に捕らえられ、ゴードン王国首都にあった監獄に軟禁された。

 危険な魔力を纏っているという事で魔力封印の魔方陣の書かれた日の光も届かない暗い部屋に首輪を付けられて軟禁されることとなった。


 俺はその暗く狭い部屋で4年もの日々を過ごすこととなった。

 遊具など何一つない、あるのは穴が開いているだけの粗末なトイレと、布団代わりのボロ布だった。

 冬は凍える程寒く、夏は地獄の様に熱い部屋で俺は幼少期を過ごした。

 

 さらに3歳ぐらいになると食べ物を運んでくる看守からの虐待をたびたび受ける事となった。

 俺は小さかったが当時から異様な魔力を放っていた事もあり、看守からも不気味がられ、魔力封じの首輪で繫がれているにも関わらず必要以上の滅多打ちを受けた。

 

 週に一度魔道士が現れ何かの検査をして出ていく。

 この繰り返しがずっと続いた……


 いつしか俺は外界との接触を一切持たないまま5歳になっていた。

 魔道士や看守、たまに来る何者なのかすら分からない人間との会話で言葉も分かる様になった。

 俺は頭が良かった事もあって、わずかな会話でも会話を正確に理解する事が出来るようになっていった。

 その上、俺は異常に耳が良かったせいか、看守達の会話がよく聞こえた。

 ある日の会話を聞いていると、どうやら、この監獄は囚人たちを【処分】してから閉鎖されるらしい。

 俺は幼くして自分の死期を理解し始めていた。


 しかしある日、男が訪ねてきた。

 どうやら魔道士らしい。

 名前をダミアンと言った。


「そいつが例の強い魔力を帯びた子供か?

 名前はリチャード・リード?

 なる程、ちょっと試してみるか」


 彼は魔法を使った。

 俺の身体は雷に撃たれたように痺れた。


「ほう、魔力耐性は中々ありそうだな。

 面白いガキだ。

 俺の魔術の実験台に丁度いいな。

 貰っていくぞ」


 俺はそれからダミアンの魔術実験室に連れて行かれた。

 そこでも俺は鎖で繋がれていた。

 そしてそれは自験という名の、ただの拷問部屋だった。

 俺は、ただの魔力耐性があるだけの新魔術の実験対象に過ぎなかったのだ。

 それから5日間毎日、瀕死になる迄魔力を、浴びせられ続けた。


 俺はただ単純にこの地獄から向け出したかった。

 何とかしてここから抜け出さないと気が狂ってしまいそうだったからだ……


 ある夜だった、瀕死の状態で血を流しながら、俺の中で何かが弾けた感覚に見舞われた。

 この世界の理不尽に対する怒りと共に、俺の中の魔力が暴走を始め、両手に付けられていた魔力封印の鎖を吹き飛ばした。

 驚いた看守が部屋に飛び込んできたが、俺はただ、魔力を纏ったコブシを叩きつけ看守の頭を吹き飛ばした。

 後は無我夢中だった。

 部屋から脱出した時の俺は完全に正気を失っていたかもしれない。


 俺は緑色の魔力を全身にまとい、向かってくる城兵達をただを単純に殴りつけるか、もしくは体全体から放射する形で次々となぎ倒していった。

 

 そこに駆け付けた魔道士ダミアン、ジェイムス、アレクシスを中心とする国家魔道士兵団迄が現れ俺に一斉に魔術を発射した。

 しかし、俺の身体から溢れ出す魔力に遮られ俺は全くの無傷に終わった。

 

 俺はジェイムスの放った魔術を叩き返し、それがジェイムスに直撃した。

 彼は半身が吹き飛んで絶命していた。

 奴らが放った魔術をイメージし、魔道士兵団達に向け乱れ打ちした。

 それを見ていたアレクシスにも間髪入れずに見様見真似の魔法を叩き込み蹴散らした。

 後で気づいたが詠唱を行わず見た魔術のイメージだけで無詠唱魔術を行っていたようだ。

 すると、ダミアンは震えながら後ずさりを始めた。


「リッキー・リード!!

 俺だ……や、やめろ!」


 怒りで暴走を始めた俺はありったけの魔力を集めて叩き込んだ、やつは遥か彼方に吹き飛ばされて行った。

 それは魔術などと呼べるモノではなかったかも知れない。

 ただの単純な魔力……もしくは怒りの放出だった。


 俺はその後も魔力の続く限り暴れまわった。

 ゴードン王国国家兵団、魔術魔道士兵団やその他の駐在していた傭兵等、色々現れた、その後は見境なく、ただ、怒りの赴くまま暴れまわったと思う。

 王を殺し城を破壊し町を吹き飛ばした。


 気付けば夜が明けて朝になっていた。

 そこに会った国家もなくなりただの瓦礫になっていた。

 俺は一晩で国をひとつ滅ぼしたのだった。


 破壊の魔道士リッキー・リードが死体と瓦礫の上で誕生した夜だった。



◆◆◆◆

 


 俺は、目が覚めると、クロス・ローズのトレイシーのアパートのベットに眠っていた。

 アマンダ村の戦いが終わった後、一度レオポルド・ファミリーの本拠地がある、この町に戻ってきていたのである。

 今は恐らくクリスやメイ達がレオポルド・ファミリーの残党を殲滅する為に、本拠地や支部を叩いてまわっているはずだ。

 まあ、彼らなら全く問題ないだろう。

 俺は戦闘での疲労を理由に待機させてもらった。

 最もまた魔力を失っている為、戦いに参加できるとは思えないしな。

 それから暫くしてから、クリスたちが帰ってきた。


「師匠!今戻りました!」


 どうやらうまくいったようだ。

 これでクリスの家バレ問題も解決した。

 次は俺の問題も何とかしないとな。

 

 目指すは、首都ドロナック。

 古代王国シュラムがあった場所だ。

 俺達は魔力喪失の謎を解き明かす旅に出た。




   

         To Be Continued….




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