第4話 復帰初陣

 


 いかにもタチの悪そうな、ついでに頭も悪そうな3人組である。

 どう見ても、道案内の優しいお兄さん達には見えない。

 こんな奴らとは1分1秒でも一緒にいたくないところだ。


「ちょっと、君。

 いい服を着てるじゃないか。

 お兄さん達はちょっとお金がなくて困ってるんだよ。

 おじさんたちにお金貸してくんないかな?」


「お前らは借りた金を返せる程、働き者そうには見えないがな。

 金が借りたきゃ高利貸しにでも相談したらどうだ?

 まぁお前らの身なりではどこも貸しては、くれないだろうがな」


 しまった……イラっとして反射的につい心の声が出てしまった。


「なんだとこのガキ!

 下手に出てれば調子に乗りやがって!

 俺達を天下のレオポルドファミリーと分かって言ってんのか?

 お前の家族諸共グレートオーシャンに沈めてやろうか!」


 何とも小物な脅し文句である。


「あいにく、俺には家族はいないんだよ。

 無礼な奴らには、それ相応の報いが必要だな」


 復帰の肩慣らしには丁度いい相手かもしれない。

 俺は昔の様に魔法を繰り出そうとした。


「焼き尽くしてやるよ」


『バースティングファイア!』


 ……あれ?

 何も出ない。


「何やってるんだ、こいつは?

 おいガキ!魔法っていうのは呪文を唱えないと出来ないんだよ。

 もっとも、お前みたいな子供にそんな攻撃魔法が出来る訳ないがな!」


 そうだった…。

 つい昔の癖が。

 今は魔力がなかったんだ!

 攻撃魔法が出る訳がない。


 焦るな…。

 今の俺は魔力だけじゃないんだ!

 俺には魔法以外にも、この200年間で覚えた(本で)武術の技がある。


「くらえ!これが接近体術の真髄だ!」


 先頭の男の側頭部に俺は強烈(自称)な後ろ回し蹴りを放った。


≪パシンッ!≫


 俺の会心の蹴りはいとも簡単に奴の手に捕まった。


「おい、何のつもりだ?

 ガキでもあんまり舐めた真似してると痛い目を見るぞ!」


≪ブンッ!≫


 俺はそのまま思い切り、壁にぶん投げられた。


 痛い!超痛ぇ!

 戦うってこんなにも痛い物なのか?

 今迄、圧勝過ぎて全く知らなかったよ。

 非常にまずい!

 このままじゃ俺やられるんじゃないか?

 やられたら俺一体どうなるの!?

 負けた事ないから全くわからない!

 最悪俺、殺される?

 待て……俺は昔、負けた相手をどうしていたか思い出せ。


◆◆◆


「今から消し炭にしてやるザコめ!」


◆◆◆


 昔の自分のセリフを思い出した。

 シャレにならん!

 

 どうする?

 これは謝った方がいいのか?

 確か本には人間関係は誠意とお金が大事だと書いてあった。


「ちょっと、待って下さい!

 悪気は無かったんです!

 お金なら、今小銭しかありませんが

 250万アンガスなら持ってます!」


「ガキが250万アンガス待ってるだって?

 寝言は寝てから言えよクソガキ!」


 俺は今度は思い切りぶん殴られた。 

 こ……殺される。

 俺は必至で男の足に嚙みついた!


「痛!

 何すんだこのガキ!」


 相手が怯んだ隙に、股間に頭突きを入れた。


「はう!」


 そいつは青白い顔で膝をついた!!


 後は、無我夢中で逃げた。

 人生で初めて敵から逃げた。

 息が切れる迄、走れる限り逃げ回った。

 気付いたら奴らを振り切ったようだった。


 何とも言えない疲れと共に俺は建物の壁に腰を下ろした。

 復帰後の初陣だった。

 それは何とも屈辱のスタートだった。

 やはり本で読んだ格闘術をいきなり実践で使うには無理があったようだ。

 次からは腰にナイフを取り付けておこう。

 剣は目立ちすぎて逆に絡まれやすいし、素手で戦うには今は危険すぎる。


 はぁ、体の芯まで疲れ切った。

 今日はもう早く眠りたい。

 早く今夜泊まる場所を見つけたい…。

 俺は疲れた体に鞭打って宿を探していると一軒の宿屋が目に入った。


【冒険者宿屋ベリー】


 おお神よ!有難う御座います!

 たいして敬ったことないけど……。

 俺は大喜びで宿屋に入った。


「あの、なるべく安めの部屋に泊まりたいんですけど」


「ちょっと今は、一番安い一泊15アンガスの部屋はもう満室なんですよ。

 今は、一番高い一泊40アンガスの部屋ならありますが」


「そうですか……残念です。

 って…えっ!?

 たった40アンガス?

 40万じゃなくて?」


「ははは!

 君、面白いね!

 40万アンガスって君、王宮にでも泊まるつもりか!?」


 俺はフカフカのキングサイズのベッドのスイートルームに案内された。

 俺は馬鹿ではない。

 この一連のやり取りで、この国の貨幣価値を察知した。

 俺はどうやら旅の初日でセレブリティの仲間入りを果たした様だ。


   

         To Be Continued….

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