第5話 レオポルドファミリー

 


 実に良い目覚めだ。

 スイートルームにフカフカのキングサイズのベッド!

 リッキー島のベッドがまるで只の木の板にでも寝ているこの様だと思える程だ。

 そして何よりもこの後、待ちに待った朝食が待っている!

 昨日は疲れ果てて何も食わずに寝てしまったからね。


 今日は、200年振りの外食だ!

 テンション上がりまくって仕方がない!


 俺は冷静さを装いつつ、1階にある食堂に向かった。


「おはようございますお客さん!

 朝食は何にしますか?」


 金はあるし、今日はぶっ倒れるまで食ってやるぞ!


「このパン全種類と卵焼き、ソーセージとチーズのセット。

 ポークチョップ、パンケーキにフライドポテト、あとこのハムと赤ワインを」


「お客さん…。

 朝からそんなに食べるんですか?」


「後で、デザートも頂きます!」


「は、はい……」

 

 いやぁ待ち遠しい!

 そして料理が運ばれてきた。

 何という事だ!

 現代世界の料理はこんなにも美しいのか!

 神々しくて目が眩みそうだぜ!


 俺は貪る様に料理をたいらげた。

 周りの客たちは呆気に取られていた。


「あの子供すげぇな……

 あの体のどこに入るんだ?」


 さて、今日は街へ散策にでも繰り出してみるか。

 旅支度もしないとな、馬か馬車なんかあったら便利かもしれないな。

 このラグレスタ大陸は広大だ、昔なら魔力で空も飛べたのだが、今はそれが出来ないので大陸内の移動手段が必要になってくる。


 俺は宿から出て、まずは広場に向かい、街を見渡した。

 相変わらず人々で賑わっている。


 こうして一般庶民として町を歩くのも結構悪くないかもしれない。

 もしかしたら、俺はこの200年間、ただの被害妄想で怯えていただけなのかも知れないな誰も俺の事なんか覚えていないさ。


 俺は最初に街に出て、まず本屋に向かった。

 本はこの200年、隠れ家の書庫にある限られた本のローテーションに飽きていたところだ。

 それに今の世界の見聞を広める意味でも新しい本でも読まないとな。

 本屋に入ると目新しい本がズラリと並んでいた。


「素晴らしい!

 今日はここだけでも時間を潰せそうだ」


 まずは歴史関連書籍の棚があったのでタイトルを見回してみた。


『破壊の魔人リッキー・リード』


『悪の化身!リッキー・リード』


『破壊的支配者リッキー』


『暴君リッキー・リード伝』


『神はなぜリッキー・リード生んだのか?』


『世界を飲み込んだ巨悪。リッキー・リード』


『絶対的侵略者リード』


『大魔道王リッキー・リード』


『鬼神リッキー・リード。魔道学の謎』


『リッキー・リードは世界に何をもたらしたのか?』


『魔王リッキー・リード消滅と、その後の世界』


『実はいい奴だった?リッキー・リードとは』


『リッキー・リードは女が苦手。童貞だった?』


『リッキー・リードの旧世界解放叙事詩』


 え?

 

 こ…これは、もしや。

 もしかしてメチャクチャ覚えられてるのか?

 寧ろ現代でも超有名人なのでは。


 恐る恐る、ページをめくってみる。

 挿し絵には見たことも無い、化け物みたいな男が描かれていた。

 おいっ!俺はこんなブ男じゃねぇよ!

 200年経った今でも絶世の美少年だよ。


 まあ……この調子じゃ俺の顔を見て誰もリッキー・リードが俺だなんて思うやつは、いないだろう。

 それは、ちょっとほっとした。


 俺は2、3冊の現代魔術書を買って店を出た。

 値段にして2000アンガス程だった。

 庶民にしたら、かなりの高級品だろうが俺には関係ない。

 なんたって俺は今、セレブリティだからな。


 次は移動手段だな。

 俺は馬を扱っている商人のところに向かっていると、何やら見た事がある奴らの視線を感じた。


 あっ!昨日の奴らだ!

 やばい!


「いたぞ!

 あのガキだ!とっ捕まえろ!」


 やばい!昨日の奴らだ!

 しかも昨日よりも増えて10人はいるぞ!

 こんな子供に10人がかりって、こいつらは馬鹿なのか?


 逃げようと思ったが、周り込んできたやつにぶん殴られて、俺はあっさり捕まった。

 11人もいたのかよ……


◇◇


 翌朝、酷い頭痛と共に俺は目を覚ました。

 なんて事だ。


 スイートルームのキングサイズのベッドが一転。

 縛られて小汚い倉庫で翌朝を迎えるとは。


 ルームサービスを頼みたい所だが、難しいようだ。

 

 本来なら、身ぐるみを剥がされて無一文になり絶望し泣き叫ぶところだった。

 しかし俺は、所持品と所持金を入れたスクロールを、スクロール圧縮用の小型マ  ジックアイテムに入れてパンツの中に忍ばせておいた。

 それが功を奏して幸運にも何一つ取られなかった。

 これなら、ここさえ脱出出来れば今後の旅は何とかなりそうだ。


 俺ってば慎重で万歳!

 ……と、言いたい所だが状況はあまり良くはなさそうだ。


「けっ!

 あのガキ、結局無一文でやがる!

 しかし、昨日のツケはちゃんと払わせてやるからな!

 明日にでも奴隷として売り飛ばしてやるよ!」


 何やら、外では物騒な話になってるな。

 もう所持金どころの騒ぎでは、なくなってきたよ。

 奴隷になったらパンツまで引っ剝がされるかも知れない。


 だから表になんか出たくなかったんだ!

 あのまま、引きこもってたら良かったよ。


 はぁ…。

 しかし喉が渇いた。

 腹も減ったし死にそうだ。

 マジックアイテムを使いたい所だが、バレて全部取られたらたまったもんじゃない。


≪コンコンッ!≫


 その時、倉庫に誰かが入ってきた

 歳は12~13歳ぐらいの子供か?


「あの…。

 食事を持って来ました」


 レオポルドファミリーの雑用係だろうか?

 トレーには粗末なパン切れと水が置かれていた。


 俺はこいつを雑用係Aと名付けた。

 しかしこれが運命的な出会いになるとは俺はまだ知らなかった。


   

         To Be Continued….

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