第3話 港町スージー
港町スージー。
そこはリッキー島から北西に約246キロメートル離れた所にある。
ラグレスタ大陸最東端にある港町である。
ここは、200年前から漁業の町で先住民ラディ人が営む簡素な町として存在していた。
カモメの鳴き声、風や波の音……
そのあたりはリッキー島と何も変わらないが、ここには人がいる。
200年ぶりに人に会うのだ!
しかし俺は、あえて、人けの少ない砂浜から上陸した。
俺は小舟を降り、船と荷物一式を物資保管用スクロールに保存した。
実に便利なアイテムである。
まぁ俺が作ったんだけど(自画自賛)。
ちなみにこれも各国家の誰にも教えていない代物だ。
何で普通に船着き場から入らなかったって?
そりゃ上陸して、いきなり人に会うのはコミュ障な俺からすると難易度が高すぎるからだ。
いきなりケンカを吹っ掛けられて身包み剥がされたりしたら大変だ。
俺は慎重なんだ……。
荷物をまとめて軽装になると俺は街道に出て街に入った。
港町スージー。
200年前は貧乏人の暮らす、錆びれた貧しい港町だった。
筈だったのだが…。
町は目を見張る程の発展を遂げていた。
商人や住人、冒険者や傭兵、観光客らしき人々で溢れ、活気に賑わっていた。
200年か……俺はどうやら時代に取り残されているかも知れない。
まあ、良いんじゃないかな。
逆に今はもう誰も俺の事を知らない(と思う)、これは、いちから人間関係を構築していくチャンスになるだろう。
今から、全く新しい世界で第二の人生を歩む事が出来るじゃないか!
むしろこうであった方が良い!
俺は目を輝かせながら町を散策し始める事にした。
人々が活気に溢れ表情が生き生きとしている、はたして俺がいた時もこんな顔をしていたのだろうか。
そういえば、庶民と話したことないから、よく覚えてないな。
少しガラの悪い連中の姿も見えるが、それも町が発展している証拠だろう。
とりあえず通貨が変わっていなければ、金には余裕がある。
仮に変わっていたとしても、今回持ってきた、貴金属でも質屋に入れて現在の通貨に換えれば良い。
とりあえず情報収集が必要だ。
誰か人と話して情報を得なければ。
うーん…。
それが一番ハードル高いんだけどな。
しばらく歩くと露店が並んでいた。
どうやら港町のマーケットのようだ。
そこで出来るだけ優しそうな……いや、人の良さそうな店を探すことにした。
俺は、ある雑貨屋の店主に話しかけてみる事にした。
「あのぉ……
今日この町に来たばかりなんですけど
この国の通貨って何なんですか?」
「何だ坊や?両親は一緒じゃないのか?
全く……
こんな子供にひとりでお使いなんかさせてやがるのか。
このドロナック王国の通貨はアンガスだよ」
アンガス??聞いたこともない通貨だ…。
ドロナック王国??
あったっけな、そんな国?
そういえば大陸の北端に、そんな小国があったような。
こんな所まで領地を拡大したのか!?
それとも200年の間に国家同士のパワーバランスが大きく変わったのか??
スージーの町名はそのままみたいだが。
それにしても、坊やって…俺はもう243歳だぞ。
少なくとも、この町で最年長である自信はある。
まあ、それを言った所で信じても貰えるはずもないが。
それに、俺があのリッキーリードだとバレたら大騒ぎになるかもしれん。
ここは少年に徹しないと!
「そうなんですよ。
両親が旅の行商人で。
両親は長旅で疲れているので
両替と買い出しを頼まれたんです」
「そうかい。
それは大変だな!
まあこの辺はレオポルドファミリーって
危険な組織の連中がいる。
治安もが悪いから
くれぐれも子供一人の時は
は気をつけるんだな」
治安はあまり良くないのかな?
昔は、平和だけが取り柄のような町だったが。
「ちなみにおじさん。
このあたりで貴金属とかを買い取ってくれる質店とか知りませんか?」
「ああ、それならこのマーケットを抜けた所に
アドラー質店って店があるよ」
「アドラー質店か。
ありがとうございます!
また、よろしくお願いします」
「役に立ててよかったよ。
ただあそこの店主には気をつけろよ!
何しろケチで有名だからな。
あと君の御両親にもこのマーケットに来るよう伝えてくれ!
ここしか食えない郷土料理とかいっぱいあるからよ」
アドラー質店か。
とりあえず、そこでアンガス通貨を手に入れないと宿に泊まれない。
デリケートな俺に野宿は少々きついからな。
それにしても通貨アンガスってのは、国王の名前か何かな?
まあいずれ分かるだろう。
俺はアドラー質店へと向かった。
◇◇
なかなか、小綺麗な店だな。
もっとボロい店を想像していたが。
まあ高く買ってくれるなら何も気にしないがな。
「いらっしゃいませ!どういったご用件で?」
「ちょっと買って貰いたい物があるんですが」
店主は俺を見るなり眉間にシワを寄せた。
「坊やここは質屋だよ。
言っとくけど、ママに買って貰った人形とかは買い取れないよ」
「一応このネックレスを見て貰いたいんですが」
昔、ある貴族を締め上げた時に貰った安そうな首飾りを出してみよう。
まあ2~3日分の食費と宿代にでもなれば上出来だ。
「どれどれ…。
えっと、これは何か宝石が入ってるねぇ。
それにあと、この鎖部分……
こっ、こちらでございますね!
『お客様』!!!」
何だ?
なかなか情緒不安定な面白いおっさんだな。
「で、幾らぐらいになりますか?
出来るだけ、高く買って貰えると嬉しいですが」
「出来るだけ高く!?
えーとですねぇ
ひゃ…100万アンガスぐらいではどうでしょうかね?」
「100万アンガスですか?」
いまいち、この国の貨幣価値がわからん。
「うーん、どうしようかな」
「わかりました!200万アンガス出しましょう!
それで是非!お譲りください!!」
まあ何か高そうだからそのくらいにしとくか。
しかし試しにもうちょっとだけ上乗せしておこう。
「わかりました。250万アンガスでお譲りしましょう」
「坊や若いのに商売上手だね!
わかった!250万アンガスで交渉成立だ!」
俺はあっさり通貨を得る事に成功したようだ。
250万アンガスか。
宿くらい泊まれるといいな。
俺は店を後にした。
◇◇
ちなみにリッキーリードが店を出た後、店主は大喜びしていた。
「かあさん!どっかの金持ちの小僧が
800万アンガスは下らん首飾りを
たった250万で売ってくれたよ!
今夜は宴会だ!」
そうとも知らずリッキーは宿を探しに商店街を歩き続けていた。
するとそこに、何ともガラの悪そうな3人組が話しかけてきた。
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