第2話 船出


 ここはリッキー島。

 世界最大の大陸であるラグレスタ大陸から南東に約250km程離れた所に浮かぶ孤島である。


 この島は、無人島で誰も住んで居ない。

 ただ、この島の名付け親である男をひとり除いてである。


 その男の名は

 【リッキー・リード】

 かつて世界の支配者であり、有史上最強の大魔道士と恐れられた男である。


 彼の特徴である『赤い目・銀色の髪・緑色の魔力』を見ただけで、どんな屈強な種族でさえも震え上がって命乞いを始める程だった。


 そんな彼がその強大な魔力を全て失って早200年。


 彼は旅の準備をしていた。




◇◇


「小舟に食料に着替え、後貴重品だな。

 マジックアイテムもいくつか……

 あんまり使えないけど武器と魔道具も入れておこう」


 うん…。

 めちゃくちゃ緊張するな…。

 何たって島の外に出る事すら、実に200年ぶりだしな。

 200年ぶりの【人類】との再会にファーストコンタクトはどう接したら良いのかな?

 やっぱ今弱いし出来るだけ下手に出た方がいいのかなぁ。


「どうも!世界の皆さん!元世界の支配者リッキーちゃんだよ!

 今は超弱くなったけど、これからもみんな仲良くしてね!宜しく!」


 ……違うか。


 俺の名はリッキー・リード。

 見た目は子供に見えるが今年でもう243歳だ。

 しかし俺は、歳を殆ど取らない。

 取らないどころか、一般の人間でいうと、まだ、せいぜい10~12歳前後の見た目といったところか。


 うーん。

 いや、流石に若過ぎだろ…。

 旦那、いくつになってもお若いですねのレベルじゃねーよ。


 魔術学研究で世界的に有名な、【魔術師バーガンディ】の本に書いてあったが、強力な魔力を持つ者は肉体の再生能力が常人とは全く違い、老化に大きな差が生まれるらしい。

 常に再生を行う肉体は老化を遅らせ寿命を大幅に伸ばす者達を過去に何人も確認しているそうだ。


 大魔道士と呼ばれる者の中には齢100歳を超えても、40代くらいの見た目をしている者もいるらしい。


 しかし、240年以上も生きて、いまだ子供の見た目とは。

 俺は歳を取らないのか?

 むしろ成長しないのは逆にアドバンテージなのでは……

 どうやら俺の体の構造は、もはやバグり散らかしているのだろう。


 いや、しかし確実に成長はしている。


 身長も200年でちょっと伸びている(現在150cm)。

 それに下の毛のちょっと生えてきた。

 これは、確実に成長はしている証だろう。


 この調子だと成人くらいの体になるのに一体何年かかるんだ?

 しかも、気になるのは魔力が無くなって200年は経つというのにその効果は持続している。

 潜在魔力量とも因果関係があったりするのだろうか?


 まあ200年も経っても老衰しなかったのはラッキーだと思っておこう。

 引きこもったままポックリなんて、最悪過ぎるからね。


 世界にはまだ、俺の知らない未知の事が多い様だ。

 そんな事を考えながらも俺は荷造りを淡々と進める。


 しかし、今日もこのリッキー島は実に長閑(のどか)だ。

 そう思う度に、この平和な島から危険な外の世界に行くのは億劫になってくる。


 このリッキー島についてだが、元々この島は直径約2キロメートル、面積4平方キロメートルほどの小さな島だったが、土魔術を使って約6平方キロメートルまで拡張して、隠れ家の周りには畑や家畜用の牧場、家畜小屋も作った。

 家畜は主に豚やニワトリである、ちなみに肉質は世界最高品質であると自負している。

 島の北側には野生のシカや野ウサギを放してありが、これは家畜不足の際に補う為だ。


 隠れ家は島の南側にあり、すぐそばには井戸を掘ってあり、地下水を汲み上げ生活用水としている。

 このお陰で魔術が使えなくても水不足に困ることはなかった、慎重な性格が功を奏した形だ。

 近くの海辺には釣り場を作ってあり、趣味兼食料用の釣りもできるようになっている。


 隠れ家の中はというと、すべて地下室になっており、入口の階段を降りるとすぐに、リビングキッチン兼魔術研究室が中央にある。

 リビングの周りにいくつかの部屋を作ってあり、時計回りに

 武器庫、宝物庫、書庫、寝室、【転移用移動魔方陣】のある小部屋といった感じだ。


 この転移用移動魔方陣はかなり便利で旅先からわざわざ帰らなくても、転移用移動スクロールで、旅先から隠れ家の個室にある魔方陣に、瞬時に帰って来る事が出来る。

 最も、旅先まで、また戻るのが大変な為、これを使うのは本当に最終手段になるのだが。

 ちなみに転移魔法は国家間においてスパイ活動防止等の為に、転移封じの魔法結界が随所に張り巡らされており、転移魔法で国家間を移動する事は現在ほぼ不可能になっている。    

 しかし転移封じは魔方陣同士の信号を遮断する性質を持っている仕組みで、一方が転移スクロールの場合においては、すり抜けてしまう為、この転移スクールは結界をすり抜ける事が可能になっている。

 ちなみに、この素晴らしい携帯型転移スクロールは俺の発明であり、世界中の誰にも教えていない俺オリジナルのマジックアイテムだ。

 もし、知られれば王国のトップの連中がこぞって欲しがる品だろう。

もはや国境警備の概念自体を覆す大発明だろう。

 元々マジックアイテムのスクロールというものは、魔呪で生成した布に、特殊な文字列、暗号等を魔力を帯びた特殊な鉱物を煮詰めた液体で記載することによって、様々な魔力的効果を発動する道具だ。

 通常の魔法では使えない多種多様な機能を持つ故、魔力を持たないものは勿論、魔力を持つ者にも非常に重宝される、まさしく大発明である。

 特に魔力を失った今の俺にとって、生きてくうえでまさに唯一魔法が使える生命線と言えるだろう。


 ちなみにスクロールは今から約300年以上も前に天才魔術師バーガンディが発明したマジックアイテムだ。

 彼は魔術師であったが戦闘能力には決して優れていなかった。

 しかし、魔道具製作において天才的な才能を発揮し、その発明によって世界中の文化レベル、常識を根底から変えた男と言える。

 まあ、有史上、俺の次に天才と言える人間だろう。

 もう、さすがに生きてはいないだろうが一度くらいは会って見たかったものだ。


 さて、旅支度もずいぶん出来た。

 食料は食料保存用スクロールに入れれば、腐食を防いで持ち運ぶ事ができる。

 武器、魔道具は最小限にとどめる。

 たくさん持って行って、もし盗賊なんかに奪われたら大変だ。

 200年前の通貨か…。

こいつは今も使用できるかは分からないが。

 使えなかった場合の換金用の貴金属も少し持っていこう。


 術式で守られた孤島の地下室であるにも関わらず、ちゃんと入口に鍵をしめて、さらに土をかけてドアと階段を隠す。

 俺は慎重なのだ。


 船は一人用でかなり小さいのだが、一人で乗るには十分だろう。

 あまり目立ち過ぎると海賊に見つかりでもしたら大変だ。

 今の俺は、海賊や海軍らと戦える自信がない。


 後はここから、北西約242kmのところにある、最寄りの港町スージーを目指すのだ。


 準備はできた!取り敢えず覚悟を決める為に、今晩ゆっくり寝て精神を集中しよう!

 明日いざ船出だ!!



 そのループを何度か繰り返したのち、結局船出までは1か月近くかかった。

 俺は慎重なのだ。


 まあいい!

 こうして俺リッキーリードの壮大な世界再出発の冒険が今ここに

 始まったのだった。




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