リッキーリードの新世界解放叙事詩~世界の支配者リッキーは、ある日突然魔力を失ったので200年間引きこもったら世界は激変していました~

相良 麦

第1章 リッキー・リード旅立ち編

第1話 序章 


 俺はかつて全世界を支配した大魔術師である……

 200年前俺は紛れもなく世界最強の男だった。


 しかし今俺は、港町のただの小悪党に絡まれて鼻血を流している。

 どうしてこうなった……?

 だから外の世界なんかに出なきゃ良かったんだ……

 


◇◇◇



【一か月前】



 『生きるとはどういうことであろうか……』


 生きる意味を持つことか?

 そして、その先に何かを見つけ出す事か?

 

 もしくは何か守るべきものがある事か?


 あるいは、そうであるなら、俺はその意味を見失っている…。

 意思も野望も、守るべきものも俺には存在しないのだ。


 いや…。

 正確に言うと何も出来ないのだ。


 出来るならば200年間もこんな無人島に引きこもってなどいない。

  

 そう200年だ。

 丁度200年前、俺に異変が起きた。 

 全ての魔力を失ったのだ……

 その魔力こそ俺の全てだった。


 そう、すべての力を…。

 この世のすべてを手に入れた、絶対的なチカラを。



 200年前の事だ。


 俺は、決して大袈裟でもなく。

 ただ、強大な魔力のみで、この世のすべてを手に入れていた。

 富、権力、金。

 考えられるもの全て(友達以外)。


 ただ純粋な力のみで俺は間違いなく世界の中心にいたのだ。

 世界中の国々の政治にすら決定権を持つ程だ。

 世界中の全ての国々の名だたる王侯貴族達や軍隊、魔族、魔物達も、この俺を恐れてひれ伏した。


 絶対的な力故、俺は破壊の大魔道士と世界に恐れられた。


 それは、どれくらいの力かと言うと、世界中の連合軍が俺一人に攻めてこようと、ものの1時間たらずで殲滅できるほどだ。


 故に世界中の国家、民衆は俺を恐れた、もはや有史上最大級の厄災とまで言われた。


 それでも、俺は自分の身の安全にすら、安心できなかった。

 何故かと言うと、俺は酷く慎重…否、臆病な性格だった。


 絶対的権力を持って尚、他人に心を許さなかった。

 いつ何時(なんどき)俺を排除しようとする者が現れ、俺の存在を脅かすかも知れないと。

 いくら強くても決して安心出来ない性格の持ち主で他者を決して信用する事が出来なかったのだ。


 だから俺はいつも独りだった…。

 俺が世界で権力を振るった約40年余り。

 俺は誰にも心を開くことが出来なかったのだ。

 どれ程の力があろうと、いつになっても心の平穏は訪れなかった。


 マジックアイテムの転移スクロールを常に所持し、仕事が終われば、すぐに隠れ家に帰った。

 一人でいるときだけ、俺の心は穏やかだったのだ。


 そして、常に魔術の研究に耽った。

 それは、更なる絶対的な力の探求だった。 

 そうしている時だけ、俺は何故か不安を忘れられた。

 毎日が俺の心の中の不安定要素を取り除く為の実験だった…。


 そしてある日、俺に異変が起こった、魔力が無くなったのである。

 何と皮肉な事であろうか。

 絶対的な力の象徴、世界をその魔力のみで、ねじ伏せていた大魔道士が突然、全ての魔力を失ったのである。


 ちょっと待ってくれ!

 俺は思った。

 今まで散々傍若無人に振舞ってきたのだ。

 全てを力だけでねじ伏せてきた。

 全ての人間、亜人、魔族、精霊、獣人、魔物までもが、俺の絶対的な魔力に恐れひれ伏してきたが、お世辞にも俺の人格を慕って従っている者などいなかった筈だ。

 寧ろ暴君、独裁者だった。


 俺はその時、素直に思った。


「あれ…。

 俺もしかして、イジメられる?」


 皆の仕返しを恐れた俺は、それから実に、200年もの間、この大洋の孤島に引きこもった。


 そして俺は壮絶に引きこもった、この隠れ家であるリッキー島に。


 ここは世界の東の果てに位置する大洋グレイトオーシャンに浮かぶリッキー島。

 この俺【リッキー・リード】の名をつけたこの島だ。

 とは言っても、ここはこの俺しか知らない島だ。

 234年前、俺が偶然見つけて隠れ家にし続けた島である。


 しかも、この島は俺が術式をかけているから、仮に船が近寄って来ても、ただ通りすぎるだけで、この島にたどり着く事はおろか、目視する事すらできない結界を張ってあるのである。


 島に入る手段はたったひとつで、俺の作った移動用転移スクロールを使うのみである。


 元来引きこもりだった俺は、この島に、必要な分の財産、生活用品、家畜を持ってきていて暮らしていた。


 未開の無人島だというのに、隠れ家には、わざわざ地下室を作ってそこで暮らしていた徹底ぶりである。


 無論、魔術の実験もここで行っていた。

 全く新しい、オリジナル魔術である。


 肝心なオリジナル魔術は各国の連中らに知られたくない事もあった。

 もっとも自分に比べれば遥かに脆弱な連中であるにもかかわらずではあるが。


 結局、その魔術の実験中に事件が起こった。

 魔力を普段は抑え、必要な時に爆発的に放出する新たな魔力ブースト術式である。


 その時、全ての魔力を失ったのだ、抑えた魔力が全く戻らなくなったのである、世界を支配する程の強大な魔力をだ!

 それは有史上最強の破壊の魔王リッキー・リードとまで言われた俺という存在そのものをだ!



 200年である。

 魔力がなくても食料の自給自足くらいは出来た。


 世界中から、奪った魔術や剣術、武術に関する書籍はたくさんあったので、何とか暇は潰せた。


 しかし、200年たって気づいてしまったのである。


 「超暇だ…」

 

 200年も同じ島に住んで居るからだろう。


 率直に言えば飽きた!

 俺様主義過ぎて恋人すらいた事がない!!

 俺だって人並の恋だってしてみたい。

 考えてもみれば一般の人間がどんな人生を送っているのか俺は全く知らない。

 これは実際に出てみないと分からないでしょう!


 魔力は戻る気配がないが、この200年間の無人島生活の自給自足生活で、以前の神に与えられたが如くの魔力はないが、それなりに体力はついたと思う。

 それに本で読んだ武術の心得はある。


 もう世界は200年もの年月が過ぎている。

 誰も俺の事なんか覚えていまい。

 今こそ、世界に戻る時だと。


 目指すは、このリッチー島から北西に約250キロメートル離れた所にある町

【港町スージー】だ!



 こうして、元世界の支配者だったリッキー・リードこと俺は引きこもり脱出も一歩を踏み出したのである。



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