〜1巡目〜 人魚のミイラ

皆さんはミイラをご存知ですか?

エジプトの物が一番有名とされていますが、意外にも日本に多くのミイラがあるのです。

平泉の中尊寺金色堂に安置されている奥州藤原氏の物が特に有名ですね。


それはさておき、ミイラというものは注目を集めるのに持ってこいのものです。


ですので、江戸時代の見世物小屋では動物の死体を組み合わせて架空の生き物を模したミイラが多く作られました。


前置きが少し長くなりましたね。今回は動物の死体を組み合わせて作った、人魚のミイラにまつわるお話をさせて頂きます。


とある海辺に若い夫婦がおりました。

夫婦は魚を売って生計を立てていましたが、思うように売れず、金に困っていました。

また、妻は身ごもっており、新たな家族が増える所だったのです。


ある日、夫は城下町で見世物小屋の噂を聞きました。


「なるほど。珍妙な物を見せるだけで金になるのか。」

夫は家に帰ると早速、魚の体と猿の頭を繋ぎ合わせ、人魚のミイラを作りました。

そして、家の前に小さな小屋を立て、人魚のミイラを安置し、賽銭箱を置きました。


夫は旅人たちに「ご利益がある」と吹き込み、人魚のミイラの噂を広めました。


するとどうでしょう。旅人たちが賽銭を入れるようになり、沢山の銭が集まったのです。


夫婦はもう金に困る事は無いと喜びました。


しかし、ある嵐の夜の日のこと、


ヒタ…ヒタ…


濡れた雑巾で床をなでるような音で夫は目を覚ましました。起きあがろうとしますが体が動きません。


そこで、目に信じられない光景が映し出させたのです。


上半身は美人な女性、下半身は魚…


本物の人魚が現れたのです。

人魚は寝ている妻の横に立つと、その腹に長い爪を立てました。


夫はやめろと叫びましたが、声が出ません。


人魚はしばらく静止した後、どこかに消えていきました。


翌朝、妻は何も無かったかのように起き上がりました。


夫は心配して「大丈夫か?何かおかしい事は無かったか?」と声をかけましたが、


妻は「何も無いですよ。」といつも通り答えるだけでした。


またしばらくして妻の出産日がやってきました。


「オギャー」


生まれてきた赤ん坊の姿に夫婦は驚愕しました。赤ん坊の手足に鱗のような物が生えていたのです。夫婦はこれを人魚の祟りだと考え、あらゆる手を尽くしましたが、それは一生治らなかったのでした。


人魚からしてみれば、「我々はこんな姿じゃない」と怒っていたのかもしれませんね。


ポッ…

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