〜1巡目終局〜 選択の結果

こうして1人につき2つ。合計10の話が終わった。全ての灯が灯った提灯は、恐怖の中に少しの安らぎをもたらしてくれた。


「それにしても、皆さん話が上手いですね。」


「え?あたしも褒めてるの?…あれ適当に話作っただけなんだけど…」

さくらは蔑むような目線を僕に送った。


「スマホを使った演出とかすごく恐怖を感じたよ。」


「私も同感ですね。日常に潜む恐怖を上手く感じられる話でしたよ。」

朝風も彼女の事を褒めてくれた。


「はいはい、褒めてくれてありがとうございます。」

彼女はシュッと立ち上がった。

「だけど、あたし勝とうとしてないから。だって誰が勝っても全員が生きて帰れるんでし ょ?なら適当な話で進めちゃえば良いじゃない。」


「…」

一同、返す言葉は無かった。

『生き残った物が全員を復活させる。』

これを約束に動いているのだが、僕は全員を信じている訳ではない。きっと他の参加者もそう考えているのだろう。


「…いや、本気でやらないといけないんだ。あの化け物は自分が楽しむ事だけを考えている。」

ここでナガノが口を開いた。

「だから俺たちが手を抜いた瞬間…取り返しの付かない事になるだろうな。」


まあ、つまらなかったら殺すというルールだし、そういう考えもできるか。


「そう…それはまずいわね。」

さくらは納得した様子でうなづいた。


ブォン…

突然、例のテレビの電源が付く。


「おつかれー!1巡目はどうだったかな?」

真っ赤に染まった恐ろしい姿に似合わない明るい女性の声が聞こえてきた。


このテレビに映った彼女こそが『百夢語』の進行役、丹那たんな桜花おうかだ。


「なんというか、楽しめませんでした…自分が死ぬかもしれない恐怖でいっぱいいっぱいで…」

最初に答えたのはクレープだった。彼女は映画にまつわる怪談でこちらを怖がらせてくれたが、胸の内でそんな事を思っていたのかと想像がつかなかった。


「うんうん。怪談とはそう来なきゃね。恐怖を感じとることも醍醐味だよ。」

桜花の言っている事はわかる気がするが、流石に『死』の恐怖を感じ取らせるのは悪趣味だと思った。


「それはそれとして、1巡目の脱落者をお知らせに来たよー。」


『一番面白くなかった人はその時点でさよならする。私の手によってね。』

つまり彼女は脱落者を殺しに来たようだ。

手が震えてくる。自分が死ぬかもしれない…

もし生き返らなかったらどうしよう…もう既に僕の脳内に地獄が見えていた。


「一番面白く無かった人は〜〜〜〜」


「クレープさん。あなたです!」


「えっ…嘘…なんで?」

クレープは目をぱっちり見開き、狼狽えた。

そんな彼女を見て僕は安堵してしまった。これから人が死ぬというのに!


「そんなの自分で考えれば?と言いたい所だけど、特別に教えてあげる♪」

「答えは単純。怖く無かったからだよ。」


桜花の言う通り、確かに怖くは無かった。一つ目の話はよくある都市伝説の系統だし、2話目に至っては中身が薄すぎた。カカロとかタチヨッカというのは鳥の名前だろうけど、どんな鳥か想像がつかなかったのも大きい。


「そういう事で、一緒に来てもらいまーす!」


ズボォ!


なんと、テレビから真っ赤な腕が伸びてきた!!伸びた両腕はクレープをガッチリ掴むとクレープをテレビの中へ引き込んだ!

あまりの早技に誰も手を出す事は出来なかった。


「だめ!本当に引き込まれちゃったみたい!」

さくらはテレビをバンバン叩いてクレープを出そうとしたが、当然効果はない。


ザザ…

♪♪〜♪♪


しばらくすると奇妙な音楽が流れ、画面が変わった。

『Washing machine Shark』


「洗濯機…サメ?」

何かの映画のタイトルなのか?


また画面が切り替わり、コインランドリーの画面に変わる。そこにクレープが立ちすくんでいた。


『ここは?なに?何が起こるの…』

クレープは不安げに辺りを見渡している。


「画面を見るな!…恐ろしい事が起きる。」

過剰な防衛策を唱えて騒ぐ…あのナガノでさえもこの現象に恐怖を感じているようだ。


ギュイイン!


大型バイクの始動音と思わんばかりの騒音を鳴らし、一台の大型洗濯機が、動き出した。

もちろん誰も触れていないのにだ。


その洗濯機から…


巨大なホオジロザメが出てきたのだ!


「キャァァァァ!」


悲鳴を上げたクレープはそのままサメに捕食された。後には制服の切れ端が残るだけだ。


ブォン!

「どうだったかな!この映画は『洗濯機ザメ』ってタイトルで色々な映画を見て考えたんだー」


怪しく笑う桜花が再び映し出された。心なしか、髪についた血が一層紅く見えた。


「ああ、無常。あなたには慈悲という物は無いのですか?」


「朝風さん。これはあたしなりの慈悲だよ。死ぬ最後のときくらい面白おかしくしたいよね!」


「あなたと私の価値観は合わないようですね。しばらく黙らせて頂きます。」

朝風はそれっきり喋らなくなった。

こんな狂ったのを相手して疲れてしまったのだろう。


「では気を取り直して、2巡目にうつるよー。今回の順番はこの通りねー。


白→朝風

青→ナガノ

赤→トノ

緑→さくら


で行くよー」


「…僕たちも同じようにされるのか?」

僕は震える声で桜花を睨みつけた。


「負けたらね♪だから勝ってね!あなた達の面白い話、もっと聞きたいから!」

プチ…

そう言うと、テレビの電源が切れた。


「…あたし、怖くなってきたわ。次は自分かもって…」

さくらの目には少し涙が浮かんでいた。


「…誰だって一緒だ。僕も怖い。だけど、先に進まないと…」


「あんたねえ!あんたが誘わなければこんな恐ろしい事に巻き込まれなかったのよ!」

さくらは僕に怒りの矛先を向けてきた。振り上げた拳は僕の顔面をまっすぐ捉えた。


パシッ!

「やめろ!」

再びナガノがさくらを押さえ込んだ。


「トノさん。一ついいか?あなたと丹那桜花に繋がりは無いよな?」


「…全く。」

僕は横に首を振った。


「この通りだ、トノと丹那桜花には繋がりは無い。俺たちはただ巻き込まれただけなんだ。だから、落ち着いてくれ…」


「落ち着けるかぁ!」

さくらはナガノを振り払おうと暴れた。


「…そうですねここは一つ話をしましょうか。」

今まで黙っていた朝風が口を開いた。

「落ち着いて物事を見なかった事で起きた悲劇の怪談を…」

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