〜1巡目〜 10個のいなり

僕はトノと言います。こんな事になってしまいましたが皆さんよろしくお願いします。


〜〜〜〜

これは僕が寿司屋で配達バイトをしていた時の事です。


その日は寝坊して、朝食を食べず出勤しました。

いつものように寿司を配達していた昼下がり、グウッーと急にお腹が空いてきました。


(そういえば朝食を食べてこなかったな…腹が減って力も出ない。…ん)

ふと目に映ったのは配達する予定のいなり寿司でした。


(我慢できない!)

空腹に耐えられなかった僕はラップを外していなり寿司を2つほど食べてしまいました。


(元々12個入りだったけど10個入りという事にしとこう!…)

などと簡単にバレる嘘で気を紛らわせながら配達先へ向かいました。


「ご注文のいなり寿司です。」

僕はラップを貼り直して10個に偽装させたいなり寿司をお客さんに渡しました。


「暑い中届けてくれてありがとな。」

お客さんはいなり寿司が少ない事に気がつかない様子で、そのまま代金を支払いました。

その時の表情がとてもにこやかで、僕はいなり寿司を食べた事を後悔しました。


(この人は本当にいなり寿司が好きなんだな。なんだか、申し訳ないな…)

僕は気持ちが抑えきれなくなり、


「…申し訳ありません!つまみ食いをしてしまいました。許して下さい!」


「…何言ってるんだ?ここのは元々10個入りだろ?」


僕はこの時おかしいと思いました。ここで販売しているいなり寿司に10個入りの物は存在しないのです。


「いや12個入りのはずですけど…ほらこの通り!…あれ?」

持ってきたチラシを見せて、本当だと証明しようとしましたが、

チラシの表記も10個入りに変わっていたのです!何度見ても10個と書いてあるのです。


「まあいいよ。きっとこの暑さで参ったんだろ?これでも持ってけ。」


僕はそのお客さんから飲み物を貰い、店に帰りました。


「ただいま帰りました。」


「ご苦労。今日はもう帰っていいぞ。」

大将が厨房で1人、いなり寿司を作っていました。

いつもは5、6人でやっているのに、大将以外の人が見当たりません。


「いや、今日は5時までのはずなんですけど…」


「そうだけど、今日は人手が足りててな」

大将は僕の質問に答えながら黙々といなり寿司を作り続けていました。朝から一度も休憩をとっていないようで、目が死んでいました。


「大将!誰もいないじゃないですか!僕まで帰ったら倒れますよ!」


「誰もいない?冗談はよしてくれ。」


ポッ…

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