序章-百夢
「やるんでしょ?…『百夢語』をね」
「ひゃくむがたり?違う、僕達は百物語をやりにここに集まったんだ。」
「そう言うと思った。」
テレビ画面に映った女は、髪を分けて、口元を見せてきた。
「でも、安心して。百夢語は百物語を少し改変したゲームなの。ルールは簡単。1人につき2つの怪談話をしてもらうわ。」
女は唐突に『ひゃくむがたり』のルールを説明し始めた。
「そして、私が面白いかどうか判断するよ。で、一番面白くなかった人はその時点でさよならする。私の手によってね。」
「面白くなかった人は殺される。そういう事?」
クレープは冷静に質問した。
「そういうこと。とにかく最後の1人になるまでこの事を繰り返すわ。」
『百夢語』…百物語にデスゲーム要素を追加したゲームって訳か。
「ルールは以上。質問はある?」
女は再び口元を隠した。
「なんで…殺したの…?」
地面にへたれこんださくらが、口を開いた。
「さっきも言ったでしょ。余興だって。後はそうだね…違反者への見せしめかな。」
「たったそれだけ…ふざけないで!」
さくらは再びテレビに詰め寄った。
「暴力はいけないよ。落ち着いて。」
「落ち着けるか!なら、しょうちゃんを返してよ!」
「そうだね…『百夢語』に参加すれば、しょうちゃんと生きて再会できるかもよ。」
「あなたがしょうちゃんを殺したじゃない。変なこと言わないで!」
「変な事じゃ無いよ。『百夢語』のルールで最後に残った人は願いを一つだけ叶える事ができるというご褒美があるの。」
「ちなみに参加しなければ死んで同じ所に行けるよ。生きて会うか死んで会うかだったら、どっちの方がいいかな〜。」
「…分かった。参加せざるを得ないって事ね。やってやるわ!」
さくらは女に言われるがまま誘導されてしまった。
この女、どうしてでも僕達を参加させたいようだ。一体、その目的は何なんだ?
「質問です。なんで僕達に『百夢語』をさせるのですか?」
「わたし、暇で暇でしかたなかったの。長い間誰とも会わなかったからね。だからせっかくきてくれたお客さんに楽しませて欲しいの♪」
女は嬉しそうに語った。きっと正気じゃない。自分の娯楽のために殺しをやるなんて、まさしく化け物だ。
「そんなことで…」
僕は拳を握りしめることしか出来なかった。
何か起こしたらまた殺される。そう思うと、足がすくんでしまった。
「理不尽だけど、我慢してね♪」
激しく煽ってくる女。もう、我慢の限界だ。
「あああ!」
僕は拳をテレビに向かって振り上げた。
「落ち着け!」
僕の拳は、ナガノによって押さえつけられた。
「私からも一ついいですか?今までの話からすると、私たちは監禁されるという事になりますが、最低限の生活は保証してくれますか?」
「もちろん。部屋から脱出する動きが無ければ、寝室、風呂どこでも使用していいよ。携帯とかの電子機器は一応インターネットに繋がるようにしてあるけど、外部からの連絡は一切遮断させてもらったわ。後は食料や水については心配する必要は無いよ。食べなくても飲まなくても済むようになってるから。」
「…最後についてもっと分かりやすく説明して下さい。」
「上手く説明できないけど、この部屋にいれば食べず飲まずとも生きていけるの。そういう事にしといて。」
「分かりました。それなら参加しても構いません。」
ナガノは覚悟を決めた眼差しで女に答えた。
「ナガノさん、何言ってんだ!殺し合い…これはデスゲームだ!」
躊躇なく危険な戦いに挑もうとするナガノに僕は恐怖を感じていた。
「そうだな。だけど、勝者は願い一つ叶えられる。しかも死者も生き返らせる事が可能だ。それなら、百夢語の勝者が『参加者全員を生き返らせる』事を望めば済む事じゃないか?」
僕はナガノの言葉にはっとした。たしかにその方法ならクライスラー含め全員生きて帰る事ができる。
「その通りですね。僕も参加します。」
僕は胸の内を決めた。この方法しか無いと思ったのだ。
「私も…参加します。」
「私も参加しよう。」
クレープと朝風もこの意見に賛同してくれた。
「そうでなくっちゃ。では、テレビの下の引き出しを開けてみて。」
僕はいわれるがまま引き出しを開けた。入っていたのはお盆飾りに使われる、電球式の小さな提灯だった。赤青緑黄白の5色が2つづつ収納されていた。
「その提灯は、話を終えるとランプが付く仕組みになってるの。このランプが全て点灯したら私が、今まで行った話を審査するわ。」
「後の流れはさっき言ったとおりになるわ。同じ色の提灯を手元に置いたら始めるよ。」
ゴクリ…辺りに、はりつめた空気が走る。
たしかに、この中の誰かが勝てばいい。それだけの話なんだけど、もしかしたら自分勝手な願いを叶える人もいるかもしれない。誰かの私欲のために殺されるのは御免だ。だから勝つしかない。勝って、全員生きて返すんだ!
「よし、置いたね。『百夢語』開幕!」
部屋が薄暗くなり、不気味な雰囲気に包まれる。
「順番は
赤→トノ
青→ナガノ
緑→さくら
黄→クレープ
白→朝風
で行くよー」
僕は一番最初だ。緊張で唇が乾く。
こうして命を掛けた舌戦が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます