第3話
あれから1ヶ月半くらいの時が経った。本来なら彼氏ができたら一緒に帰るものなのだろうが、亮と付き合いだしてからもわたしは以前と変わらず親友の楓と一緒に帰っている。
「今日も寄ってくよね?」
「あ、うん、そうだね」
いつもと変わらない楓の甘い声が今日は全然耳に入ってこない。完全に心ここにあらずの状態になってしまっている。いつもの帰り道のはずなのにわたしは一人憂鬱な気分になっていた。これから楓に昨日のことを聞かなければならないと思うと気分が重い。
「今週はクリスマスフェア第1弾”チョコレートケーキ風フラペチーノ”だって! 美味しそうだね!」
お店の前の小さな黒板にチョークで書かれた新商品の説明を見て楓ははしゃいでいた。そう言われれば店の外にチョコレートの甘い匂いがしてきているような気がした。学校の近くにあるこの珈琲店では隔週で火曜日に期間限定商品を発売している。その度に楓と新商品を味見しにいくのが習慣になっている。
「今日は外で飲まない?」
「良いけど寒いよ?」
わたしの提案に楓は不思議そうに首を傾ける。演技懸かった可愛らしい動きをいちいちするのは幼いころからの楓の癖だった。もう12月初旬の風は外で冷たい飲み物を飲むのには適していない。
「ちょっとあんまり人に聞かれたくない話があるから。2人で話したくて。店内だとクラスの子とかいたら困るから……」
楓が一瞬困ったような表情をしてからゆっくり頷いた。さっきまでの楽しそうな表情が神妙な表情に変わる。多分楓はわたしが何を話したいか気づいている。
冷たいカップを持って近くの公園へと向かった。わざわざ12月の夕暮れに外で話をする人もいないのか、公園には誰もいなかった。遊具も何もないポツンとベンチがあるだけの公園は随分と殺風景だった。
「やっぱり寒いね。もう12月だもんね」
ベンチに並んで座ると楓が間を持たせようと差し障りのない話題を話し出す。わたしは「そうだね」と最低限の言葉だけを返した。わたしが気の無い返事をしてしまったせいか楓はその後に続く言葉を返さなかった。探したけど見つからなかったのか、それとも深刻な空気を察したのかはわからない。冷たい風が2人の間を走っていた。
わたしは冷たいカップを横に置いてから、しばらく俯きながら膝の上に置いた手を見つめていた。ゆっくり握ったり開いたり5回くらい繰り返してようやく覚悟を決める。
「あのさ、何か隠しごとしてない?」
努めて明るく言ったが、楓のことを疑うような質問をしているのだから明るく言ったところで空気は悪くなってしまうのにと内心苦笑しながら楓の返事を待った。
「何のことだろう?」
楓は小首を傾げた。お芝居みたいに可愛らしく顔を傾けると楓のふわりと巻いた後ろ髪が揺れた。
楓は何も無かったことにしようとしている。また楓の悪い癖が出てしまっている……。
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