第2話
「あの……。俺、大崎のこと好きだから付き合って欲しいんだ」
「え? なんて?」
その瞬間はあまりにも唐突で、思わず耳に手を当てて聞き返してしまった。肉が焼ける音のせいで聞き間違えた可能性のほうがはるかに高い。
「俺、ずっと大崎のこと好きだったから付き合ってほしい」
「罰ゲーム?」
人生で初めて告白されたということもあるけどそれ以上に入学してからここまで関わりがなさすぎて、好きになられる要素がないのだ。わたしの見た目が楓みたいに道行く人に二度見をされるような可憐さを備えていたらまだわかるけど、残念ながら至って平凡である。この男は何を言っているのだろうかと目の前の江島君を不審な目で見つめた。
「いや、俺は真剣だから……、本気で大崎に付き合って欲しい」
漫画や小説なら伏線がなさすぎてここでページを閉じられてしまうのではないかと心配になるくらい唐突だ。それともわたしが恋と縁がなさすぎるだけで同じクラスのほとんど話したことのない男子に告白されることは高校生なら日常的に起きることなのだろうか。
わからないまま困って周囲に目を向けると周りの視線がこのテーブルに集まっていた。それぞれこちらに聞こえるか聞こえないかくらいの声で「頑張れ江島!」とか「江島初彼女ゲットなるか!」みたいに囃し立てている。それを聞いて少し照れている江島君は主人公みたいだったが、ヒロインであるはずのわたしは明らかに蚊帳の外であった。
クラスメイトからの圧力がこちらに向けられてくる。とても断れるような空気ではない。こんなとき楓が横に座ってくれていたらそれだけでアウェー感はずっと薄れるだろうに……。そんなことを考えながら「わたしでよければ……」とぎこちない返事をしてしまった。その瞬間各テーブルが湧き上がり「江島おめでとう」コールに包まれ、そのついでにわたしのことも祝福する声が聞こえた。生まれて初めて彼氏ができたけどなんの喜びの感情も湧きあがらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます