わたしの恋を邪魔するあの人

西園寺 亜裕太

第1話

高校生になって初めての文化祭はつい数時間前に終わったはずなのに、未だその盛り上がりは収まっていなかった。同じクラスの子に「里穂も来なよ」と言われて、流されるままに参加した打ち上げの焼肉パーティーは文化祭の興奮冷めやまぬままに盛り上がっていた。どこにでもあるような焼肉屋で5つのテーブルに分かれて肉をつつく。わたしのテーブルでは横に座っていた石橋さんと向かいに座る2人の男子はおしゃべりに夢中だったので必然的にわたしが肉を焼く係になってしまっていた。


「早く食べないと焦げちゃうよ」

と声をかけながら黒くなりかけている肉を網の端っこへと避ける。手持ち無沙汰だからやってる作業ではあるけどなんだか面倒くさい。こういうの参加しないとクラスで浮いてしまうことはわかってるから一応参加はしたけどみんなでワイワイするのはやっぱり苦手だ。こんなことなら楓の不参加を聞く前に参加するなんて言うんじゃなかった……。


文化祭終わりにほとんど話したことのないクラスの派手な女子に参加することがあらかじめ決まっているかのような強い口調で「里穂も打ち上げ参加するよね?」と聞かれた。断るのも空気が読めない人みたいで嫌だったから「参加する」と虚ろな視線で答えた。「やめておく」と言う勇気は無かった。


答えたあとすぐに親友の楓のほうへ向かい「楓も打ち上げ行くんだよね?」と結局わたしも同じように参加することを前提とした聞き方で聞いてしまう。一人で参加するのは怖かったから楓も一緒に来て欲しい一心で聞いた。

「私はやめとくね……」

楓は少し間を開けた後にガラス細工みたいに簡単に壊れそうな笑顔を向けて答えた。楓のクラスでの立場を考えたら当たり前の回答だった。うっかり聞いてしまったが楓にこの質問をするのは酷だった。


憂鬱な気分で早く解散にならないかなと思いながらひたすら黒くなっていく肉を端へ避難させていると男子の座っている側の席にもう一人同じクラスでサッカー部に入っている男子の江島亮くんが加わる。2人がけの席に3人目が無理やり座ったのでえらく狭そうだった。「狭いから来んなよ」とか「もうちょっと詰めろよ」とかそんな声が聞こえ、横に座っている石橋さんもゲラゲラ笑っている。江島くんはルックスは正直そこまで良くないがトークが上手くてクラスの中心にいるような人だった。


「あ、そうだわたしちょっと席外すね」

突然思い出したみたいに感情の入っていない言葉を残して石橋さんは席を立った。それを合図にしたように元々向かいの席にいた2人の男子達がざわつき出す。

「てかあれじゃん」

「ほんとだ、もうこんな時間じゃん」

「じゃあ江島、しっかりやれよ」とこちらに聞こえることも御構い無しの大声で耳打ちをして他のクラスメイトのいる席へと移っていく。何が起きるのかよくわからず江島くんと2人向かい合わせに残された私はただただ気まずい。わたしもお手洗いにでも行ってこようかなんて思っていた時に事件は起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る