食育の日
~ 七月十九日(月) 食育の日 ~
※
恩には恩で返されるということ。
先週のクイズ研究会見学。
最終的には、なかなか楽しい気分を俺にもたらしてくれた。
あの日。
台無しになったお菓子を買いなおして。
帰ってきたところ、無断外出だと先生に咎められて。
ようやく解放されて、待ち合わせ場所に行ってみたら誰もいなくて。
三人がそれぞれ、カレーライス研究会とカレー調合同好会とスープカレー愛好会、バラバラに遊びに行っていたのを一人ずつ集めて。
結果。
今度すっぽかしたら、もう連絡寄越すなといわれた。
「こうなってくると、段々面白くなってきた」
「ク、クイズ研の部長さん、数え間違えてる? 二十回もドタキャンしてない……」
「ああ。誰と勘違いしてるんだろうな」
午後の日差しも眩しい通学路で。
菓子折抱えて。
首をひねるこいつは。
飴色の長髪を。
お隣りさんとやらに、ハテナマークに結わえられ。
今日は確実にクイズ研へたどり着くのだという意気込みが感じられる。
――金曜の失敗を教訓に。
先生に、外出理由を告げた後。
わざわざ駅前の有名菓子屋に行って。
それなり値が張るお菓子を買って。
そんな学校への帰り道のこと。
「何度も言うけどさ。内容同じなんだから、せめて一ヶ所にいてくれたら」
「なに言ってるんですか先輩、同じではないです。そもそもナンではなくゴハンでカレーを食べるという行為は……」
「にゅ! にゅ!」
「ス、スープカレーこそ本当の意味でのカレーで……」
「にゅー!? ふんにゅー!!!」
「ああうるせえ。悪かったて」
ネタ振りの下手くそさを。
肩を叩いてきた朱里に慰められながら歩くと。
通学路沿いの小さな空き地から。
元気な声が聞こえて来た。
「お! 噂をすれば! 新田ちゃーん!!!」
「親切女王のお通りだな」
「にょ?」
まるで、にゅと同じ使い方でいつもの拗音を発した朱里が。
声をかけてきた相手を見つけると、これまた元気に駆け出した。
「先輩! アーンド、よっぴーあっきー!!」
「こら! 道草すんな!」
どういう訳やら、いつもの空き地に人だかりができてるが。
そこから手を振る料理部と手芸部の部長さん。
隣に立つのは先日のよっぴーあっきー。
事情を察するに。
朱里のプレゼントの話をしていたんだろうけど……。
「あいつ、今日バックレたらどうなるか分かってんのか!? 罰として、三回だけにょに格下げだ!」
「そ、それ、格付けだったの?」
さて、こんな時。
誰を迎えに出すべきか。
丹弥だと押しが弱いし。
にゅだと、敵に寝返るだけ。
秋乃は三人娘だれが相手でも甘いし……。
「ええい! 各個撃破されるは戦術において愚策! 全軍で連れ戻すぞ!」
こうして残ったメンバーは。
俺の号令につき従って。
十秒後には。
ミイラ分隊が誕生していた。
~´∀`~´∀`~´∀`~
「先輩! これ、夢のようなイベント!!」
「まったくだな」
料理部と手芸部のコラボ企画。
広場に立てられたテントの下で。
近所の子供たちを興奮させていたのは。
ぬいぐるみたちのお茶会だった。
「かわいー!」
「ママ! くまさんが紅茶!」
「僕もケーキー!」
綺麗に飾り付けられたテーブルセットに。
カラフルな洋菓子が乗ったケーキスタンド。
それを取り囲むのは、着飾ったクマにウサギに。
あらゆる動物たちのぬいぐるみ。
「はーい! こっちに並んで、手を消毒しましょう! 動物たちと、お茶会が出来ますよー!」
「お母様方も御一緒にどうぞ!」
「ほら、ケンカしない。順番に並ぼうね?」
料理部と手芸部のメンバーも。
この暑い中、メイド服に身を包んで。
優しい笑顔でお客様をおもてなししていた。
「凄いわね、全部手作り?」
「はい! ケーキもぬいぐるみも!」
「いつも楽しみにしてるのよ、これ」
「ありがとうございます。どうぞゆっくり楽しんでくださいませ」
席に着いた子供たちが。
メイドさんからケーキやクッキー、紅茶や牛乳を配られて。
嬉しそうにはしゃいでいると。
「ぼくも後ろに並ばなきゃ!」
「やめんか、にょ。邪魔になるだろ」
「うむむ……、でも……」
「まあいいじゃねえか。見てるだけでも、嬉しくなってくるだろ?」
「おお、先輩のくせにいいこと言いますね!」
「そうだな。なんでか分かるか?」
「さあ?」
「先輩だからだ」
そんな軽口で、こいつをなだめていると。
この暑いのに、動物の着ぐるみ姿になった二人が。
紙芝居のような物を抱えて現れた。
「ここで、みんなに問題です!」
「ジャジャン!」
「みんなが食べてるクッキーは、なにからできてるかな~?」
「箱!」
「冷蔵庫!」
「なるほどー。じゃあ、今日はお姉さんが教えてあげちゃうねー! まずは、小麦のお話しです!」
そして始まる食べ物についての説明紙芝居。
何度か来ている子供が、これ知ってると騒ぐ中。
沢山の子供たちが、興味を持ってお姉さんのお話を聞いていた。
「やべえ……。うちの部も、こういうのやりたいですね!」
「気持ちは分かるが難しいだろ。部活探検の魅力を教える気か?」
「そういうこっちゃなくて! 食育! 大事です!」
「食べて、育つ。……にょ、ちゃんと食ってるか?」
「小さくて悪かったですね!」
ちょっとからかっただけなのに、ぽかすか殴る蹴る。
こいつを止めろよその他三人。
笑って見てるんじゃねえ。
結構体重乗ってるんだって、こいつの殴る蹴る。
「おいおい、親切ちゃんを怒らせるとは」
「どういうつもりだい、保坂?」
そして、さらに敵が増えるとか。
なんたるムリゲー。
「両部長さんも笑ってないで止めてくださいよ」
「いや、加勢こそすれ止めやしないさ」
「ひでえ。……こら、もうやめねえか、にょ」
「気持ちは分かるが、新田! もう勘弁してやれ!」
「そいつよりもっといいもんプレゼントしてやるから」
そんな部長さん二人が手にしていたものは。
弁当箱とぬいぐるみ。
よっぴーちゃん、あっきーちゃんに見守られながら。
それらがこいつに手渡された。
「にょーーー!! いいの!? 貰っちゃっていいの!?」
「ああ、素敵な気持ちにさせてくれたお礼だよ。なかなかできることじゃない」
「情けは人のためならずということだな」
「いやったーーーー!! 先輩、見てください! 帰ってきました!」
大はしゃぎしてやがるが。
さっきまでの暴力を俺は忘れてねえぞ?
反撃してやるぜ!
「こいつにあげても、きりないですよ? どうせまた人にあげちまう」
「そんなことしないですよ、ぼく!!」
「どの口が言う! それにお礼が先だろ、にょ」
「あ! そうでした!!」
御礼ならいいよと。
こちらが言いたいぐらいだと。
改めて、あっきーちゃんよっぴーちゃん。
裁縫部の部長と料理部の部長。
そして、にょがありがとうの無限ループを始めたが。
俺が、意地悪なこと言ったせいだろうか。
にょの元気が、少しない。
「…………立哉君」
「お、おお」
うわ。
いやなところで発動すんな。
悲しんでる人センサーを。
この状況を、一番知られたくない相手。
秋乃が静かなトーンで語り掛けて来た。
「今のは、よくない」
「う……」
「ルール違反」
分かってる。
分かってるから、指摘されるのがものすごく嫌だ。
素直になりたいのに。
素直に反省の言葉を出しづらい。
ならば、下手な言いわけをしたものか。
怒ってみるか。
どう対処しようか悩んでいたら。
「……にょって呼ぶの、四回目」
「うはははははははははははは!!!」
そっちかよ!!!
ああもう、ほっとして大笑いだ。
でも、お前の気持ちはちゃんと伝わった。
直接言葉で言わずにいてくれてありがとう。
すぐ誰かにあげちまうなんて。
そんな言い方なかったな。
俺は心から反省して。
朱里に謝ろうと振り返ると。
親子が二組、こいつのそばを通り過ぎただけで。
ぬいぐるみと弁当箱が。
イヤホンとペンケースに化けていた。
「うはははははははははははは!!! いーっひひひひひひひひひひひひ!!!」
「ま、まけた……。しゅりちゃん、面白過ぎる……」
「はははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
秋乃の前に。
小さなライバルが生まれた瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます