デコレーションケーキの日


 秋乃は立哉を笑わせたい 第15笑


 =気になるあの子と、

  気になる後輩の事を知ろう!=



 ~ 七月十二日(月)

  デコレーションケーキの日 ~

 ※先義後利せんぎこうり

  利益より、道義を優先すること。




「にょーーーーーっ!! ここん棚、意味分かんねえたっけー! バリ仮面!!」

「通訳」

「値段はそこそこするのに、貰ってもめちゃ困るって意味だね」


 ああ、バリ仮面って。

 バリ島土産のアレね。


 お前の言葉。

 一般人には伝わらねえけど。

 店の中でその発言はねえし。


 そもそも。

 バリ島の皆様にそんな失礼なこと言っちゃダメ。


 でも、今日は叱るわけにもいかん。


 なぜなら。


「にゅ!」

「千円以内って難しかったけど……。これとか、どう?」

「にょーーーー!! ありがとー!! すげえ嬉しいよほんと欲しかったもんばっかだしさすが心の海苔佃煮!!」

「あ、今のは、ご飯の友だから心の友ってことで……」

「通訳ご苦労」


 今日の主役。

 にょ、改め。


 お誕生日様。


 このお方に。

 逆らえる者などどこにもいないのだ。



 ――本日の、我が同好会の活動は。

 お誕生日様へのプレゼント購入。


 洋服、文具、雑貨、家電なんかのお店が詰まった。

 ちょっと都会のショッピングセンターまでやって来た。


 俺の前を騒ぎながら歩く三人組。


 落ち着いてる通訳担当が、二岡丹弥にや

 にゅしか言わねえ小動物が錦小路 ゆあ。


 そして、お誕生日様なる。

 新田珠里しゅり


 友達同士なら気にしないが。

 これでも部活だ。


 学校帰りの寄り道を咎められると。

 後で引率として叱られる。


 だから、活動許可もちゃんととってみたけども。


「この活動許可書、にょの背中に貼っていいか?」

「ダメに決まってるーー!! なんでお誕生日にそんな恥ずかしい目に遭わなきゃいけないの!?」

「許可取ってても、世間の目が痛いから」

「ぼくに痛い目が集中するじゃん!!」

「大丈夫。そんな痛さ、お前ならメじゃねえだろ」

「なんで?」

「だって、学校中の皆から痛い目で見られてるから痛い痛い痛い痛い」


 背中を殴るなこら。

 結果、痛い目で見られてることに気付け。


 でも、ほんと許可書の意味ねえな。

 引率としちゃ、胃がいてえ。


 ひとの気も知らねえで。

 お前らは楽しそうにしてるけど。


 後輩を連れて歩くんだ。

 いろいろ気にするぜ。


「そんで? ひでえこと言う先輩は、なにくれるんですか?」

「それな。思いつかねえんだけど……、たとえば去年は何貰った?」

「……聞きます?」

「なんだその横棒だけで描いた顔。地雷だったか?」

「去年は、パパから猫耳カチューシャ貰いました」


 うわ。

 これが世に言うパパプレか。


 中三の子に何買ってんだ。


「もっと大人っぽいものがいいです!!」

「まあな」

「でもそれ以上に納得いかねえのが……」

「いかねえのが?」

「…………ぼく、犬派」

「それ納得いかねえポイントに加算すんな」

「でも犬派」


 そう言いながら。

 むすっとするにょ。


 拗音ようおんトリオのうち。

 一番意味分からねえのは、もちろんにゅなんだが。


 こいつも時々。

 わけわからん。


「でも、ママはちゃんと分かっててですね!」

「おおびっくりした。どうした急に嬉しそうにして」

「もう高校生は大人だから、ずっと我慢してたプレゼントくれるんです今年!」

「おお、さすがママプレ。でも大人になったら貰えるプレゼントって、なんだ?」

「デコレーションケーキ! ホール食い!」

「それ子供の夢っ!!!」


 絶対途中で、やーめたするヤツ!

 残りを処分するパパの気持ち考えたら涙出るわ!


 誕プレで納得いかねえと言われ。

 しかも後先考えねえ娘のせいで泣きを見るパパ。


 俺は、全世界のパパの代弁者として。

 にょに、拳骨を落としてやろうとしたんだが……。


「か、買って来た……!」

「やた! 舞浜先輩、ありがとう! だいすきー!!」


 満面の笑顔で。

 俺たちの元にかけて来たこいつは。


 舞浜まいはま秋乃あきの


 三人組のこと、好き過ぎるせいで。

 逆に気持ち悪いと言われる不憫なお前も。


 今日は面目躍如といったところ…………?



 いや、まて。

 お前それ。



 猫耳カチューシャて。



「うはははははははははははは!!! パパプレっ!!!」

「え?」

「うええ…………」


 にょの反応に。

 オロオロとし始めた秋乃が。


 今にも泣きそうな顔で。

 こっちを見つめて来たから。


 よく分かるように。

 俺は、説明してやった。


「……にょは、犬派だ」



 ~´∀`~´∀`~´∀`~



 秋乃が、丹弥とにゅを伴って。

 別の品を探しに行く間に。


 残された俺は、ちょっとしたチートを使う。


「よし、じゃあお前の欲しいもの、どれだ?」

「それじゃサプライズ感0点ですよ、先輩」

「外さない感百点でカバー」

「平均五十点じゃ赤点なんですけど」


 ステーショナリーコーナーで。

 ボールペンの書き味を試してたにょが苦笑い。


 そして売り物のペンをあご先に当てながら。

 しばらく考えた後。


「あ! ぼく、ワイヤレスイヤホン欲しいんですよ!!」

「……レギュレーション」

「へ?」

「千円じゃ買えねえだろ」

「そうなんですか? ぼく、余った分でお弁当箱も欲しかったんですけど……、こんなの」


 余るも何も、四千円ぐらいする品を欲しがった挙句。

 こいつが見せてきた携帯の画面。


「これこれ! 可愛くて、このお弁当箱!」

「いやん二千円」

「……へ?」

「『に』は、『いち』より上でしょがな!」

「だって欲しいものって……」

「課金上限を守って正しく欲しがりましょう!」


 お前、絶対携帯ゲームすんなよ?

 沼るタイプだから。


 金銭感覚しっちゃかめっちゃか。

 そんなにょが、急に指を差す。


「そんじゃあれ! あのぬいぐるみデカ可愛い!!」

「さんぜんえーん!!!」

「なんですさっきから。大声上げてみっともない」

「じゃあボリューム絞ってやる! 左まわしだな!?」

「ひだだだだだだ! ほっぺたはどっじにひねっでもボリュームアップ!!」

「千円以内だろが!」

「じゃあ、足りない分は借用書書きますから!」


 ああもう、そこまでしなくてもいい。

 仕方が無いから出してやる。


 俺が、溜息をつきながら。

 財布の中身を確認していると。


 にょは、試し書き用の紙を一枚破って。

 ペンケースをカバンから取り出した。


「ちょっと待っててください! すぐ書くんで!」

「いいよ書かなくて……、ん? お前のペンケース、ボロボロだな」

「小学校の頃から使ってますからね! でもこいつ頑丈で、まだ三年は行けますよ!!」


 いやいや。

 そりゃ無理だ。


 ところどころ穴開いてるし。

 今にもファスナーんとこ破れそうだし。


「無理だろ」

「無理くないです!! 試しに思いっきり引っ張ってみましょうか?」

「いややめろ! そんなことしたら……!」



 べりぃっ!!!



「あ」

「あ」


 俺は、間髪入れずに止めたんだ。

 今のはお前が悪い。


 でも、それじゃかわいそうだから。


「……書きます? 借用書」

「いや、いらねえ」


 俺は、千五百円の。

 ペンケースを買ってやった。

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