遊園地

とろろ

遊園地

目が覚めたら遊園地に立っていた。

誰もいないのに、アトラクションは動くことを楽しむようにゆらゆら揺れる。

静寂の中、聞くと踊りたくような曲が園内に響きわたった。僕にはここが不思議と居心地良くて、良くて。

そう感傷に浸っていると、誰もいないと思っていた園内の奥からピエロがこちらへ歩いてきた。

笑わないピエロ。魅力的な赤い鼻はもげていた。お面の向こうは虚無の世界。ピエロはお辞儀をするとポン、と音をたてて散った。赤い花弁が宙を舞う。



アナウンスが流れた。

「本日はご来園頂き誠にありがとうございます。午前2時からニコニコ広場で『イルカのしょー』を開催します。皆様、是非ご覧ください。」

イルカを見たくて、僕は行ってみた。

会場に行くと、どこに隠れていたのだろうと思うほどたくさんの客がいた。

みんな僕だ。小さい僕、大人の僕、老いぼれた僕、僕僕僕僕僕。

僕と僕が席のことで揉めていると、プールから赤いイルカが飛び出して2人を食べた。花弁が舞う。

『イルカのしょー』は予想よりも面白く、最後は係員の僕がご褒美の餌としてイルカに喰われていた。

見終わった瞬間、またポン、とステージも客の僕もイルカも消えていた。残ったのは大量の花弁。



園内にポツンと公衆電話が設置されていた。電話が誰かと話したそうに鳴り響く。

しかし僕は猫とお茶会をしていた。彼女は口が沢山あるからいっぱい飲む。その姿がとても下品でまた、美しかった。

猫は言う。夢から覚めよと。涙を流して笑っていた。もしこれが夢なら一生覚めたくない。そう言うと猫は少し割れた『てぃーかっぷ』を僕に差し出した。

しかし『てぃーかっぷ』は猫と共に赤く舞った。

少し罪悪感を覚えた僕は、花弁を踏み潰し、また園内を回り始めた。



目に留まったのは『みらーはうす』。中に入ると無数の鏡。でも僕は映っていない。僕はこの世界にいないんだろうか。

気が付くと鏡を全て割っていた。拳から血が流れる。ふと、虚しくなった僕は詩を口ずさみながら『みらーはうす』を出た。

背後からポンと音が聞こえるが、振り返らない。

目の前を虫が通り過ぎる。鼠ほどの大きさをした虫は、僕にそっくりな顔をしていた。

捕まえ、翅を千切り、踏みつぶす。グチュ、と音がして花が散った。

生きたかっただろう。可哀想に。



歩いていると無性に喉が渇いた。飴を舐めたい、白い飴。

しばらくもがき苦しむ。ポトっとポケットから飴が落ちた。必死に飴を掴み、袋ごと飲み込む。口の中で優しい味が広がり、喉の渇きは収まった。



遊園地の最後のアトラクション『めりーごらんど』。

回っているのは犬みたいな車みたいなメガネみたいなものだった。乗ると予想とは裏腹にグニュッと柔らかく、しかし冷たかった。

グルグルと回る。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。すると突然右手に痺れを感じた。手が動かない。痺れた手を見つめていると、今度は左足が痺れてきた。びりびりびりびりびりびりびりびりびり。

段々静かだった遊園地が、うるさくなってくる。歓声、拍手、クラッカーの音。パーティでもしているのだろうか。

そう思った瞬間、僕は射的の景品になっていた。誰かがこちらに銃を向けている。歓声が大きくなる。死にたくない、死にたくない。赤ん坊のように動く方の手足をばたつかせ、他の景品を落とすが銃はこちらを向いている。歓声がどんどん大き くなり、頭が割れそうになる。

ポンと僕の頭から花弁が飛び散った。


体を仰け反らせて男は倒れた。



『今日未明、新宿で無差別殺人事件が発生しました。警官を含む二名が死亡、重軽傷者が六名出ました。容疑者は通報を受けた警官に射殺されました。容疑者の身元の確認は進んでいませんが、重度の麻薬依存の疑いがあると思われます。』



顔が刻まれて死んでいる男性。引き潰さた数人の小学生。穴だらけの夫人…

幾つにも重なる車の窓は全て割られていた。車内は絵の具で染めたかのように赤い。

少女は走って逃げようとした、が運悪く男と目が合う。

叫ぶ暇もなく捕まった少女は、抵抗も虚しく細い手足を折られ、胸にナイフを刺された。少女は虫のように少し痙攣し、絶命した。

死体を見て男は可哀想に、と呟き、再び歩き出した。

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遊園地 とろろ @sumeisunaduti

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