第3話 紗智 読み切り
「ねえ、功治は女嫌いだっていう噂は本当なの?」
「なんで、そんな噂ができたのかな。俺は別に女嫌いじゃないよ。むしろ好きだよ。ただつきあったりするのには、抵抗があるってだけだよ。」
「何、言ってるの?意味が通らないじゃない。嫌いじゃないのに付き合うのは嫌ってどういうこと。」
深夜喫茶の窓の外は、雨がポツリポツリと降っている。昨日の天気予報では晴れだったが、梅雨の入りかけで天気予報を信じ込んでる人は、ほとんどいない。折りたたみ傘を差しているスーツ姿の人もいる。
飲み会の帰りに紗智と二人だけでなんとなく珈琲を飲んでいる。
紗智は話しながらシナモンスティックをかじっている。大学に入学して紗智を見たときは、美人だと思った。男のほとんどはそう思ったらしく、紗智はたくさんの男子から、映画やら食事やらの誘いを受けた。
でも、しばらくすると誰も紗智を誘わなくなった。紗智はデートに行っても食事なら料理を食べることだけに集中し、映画に行ったならば、完全に物語の中にのめりこんで一人勝手に泣いている。横に座っている男のことなどすっかり忘れてしまう。
それと猫をかぶっている間は良かったのだが、みんながお互いに慣れてくると紗智はまるで男のような人間だと男子が皆、気付いたからだった。
でも、僕は紗智の飾らない笑い顔が好きだった。
「ずっと好きな人が、誰か、いてるとか?」
「いや、そんなことないよ。」
「じゃあ、どういうこと。トラウマでもあるの。付き合ってた彼女から理由もわからないまま無視されたとか?」
「いや、トラウマっていうほどひどい話じゃない。ただ、女の子の考えていることが分からないんだ。」
さ「もしよかったら、聞かしてよ。何か助言できるかもしれないわよ。」
紗智はシナモンスティックを指先で回している。
「紗智が。助言?なんだか当てにならないな。」
紗智の目がいたずらぽっく笑っている。
「まあ、いいよ。話すよ。」
「高校生の時、一回だけクラスメートの女の子と付き合ったんだ。二人ともそんなこと初めてだったけど、不器用ながらもお互いに距離を縮めていったんだ。それで・・・。」
「なんか面白そうね。それで。」
紗智は興味深そうに聞いてくた。でも、どこか不満そうに口を少しとがらしている。
「いや、それで、二学期の中間のテスト休みの日に朝八時に彼女から電話がかかってきたんだ。風邪を引いたから見舞いに来てくれって。電話口での彼女の言い方も引っかかったんだ。風邪だと聞けば何も言われなくても見舞いに行くよ。でも、彼女は今すぐ見舞いに来てくれって、ほとんど命令口調だったんだ。もし来なかったら、これから二度と口をきかないって感じの勢いだったんだ。」
砂智は小さく「ふうん。」と言った。
それがどうしたのと言う感じだった。紗智はそのまま「それで。」と続きをうながした。「まあ、彼女の家に行ったんだ。呼び鈴を押すと彼女の母親が出てきたんだけど、彼女が別に病気じゃないような事を言うんだ。なんだかおかしいなと思いながら彼女の部屋に通されたんだけど、確かにベッドには寝てるんだけど彼女は別に風邪を引いている様子はなかったんだ。でも、一応、どう元気って言って、病気の様子を聞こうとしたんだ。そしたらいきなりプリンを買ってきて言い出すんだ。あっけにとられているとプリンを食べたいから今すぐプリンを買ってきてって言い張るんだ。」
紗智の目がさらにいたずらっぽくなった。
「不満ながらも、近くのコンビニに走って、プリンを買ってきて彼女に渡したんだ。そしたら彼女は、礼も言わずにプリンを一口だけ食べて、スプーンでプリンをぐちゃぐちゃにつぶすんだ。もういらないから食べてって、ぐちゃぐちゃになったプリンを突き出してくるんだ。しようがないから食べようとしたら、私が食べたいのはコンビニで売ってるプリンじゃなくてケーキ屋で売ってるプリンなのって言い出すんだ。そしてまた今すぐ買ってきてって引き下がらないんだ。すごい腹が立ったんだけどしぶしぶプリンの売っているケーキ屋を三軒目で見つけて買って行ったんだ。そしたらまた一口だけ食べて、ぐちゃぐちゃにするんだ。頭にきたら何怒ってんのよって言われてそのまま彼女は、もう帰って、て言い出すんだ。」
紗智は少しあきれたような顔で
「で、帰ったの?」
と言った。
「訳わからないまま帰ったよ。何日か彼女が怒った理由を考えたんだけど、結局分からなくて、彼女は別れがってあんな事をしたんだろうと思って、別れようってことを彼女に伝えたんだ。そしたら彼女は目を真っ赤にしてうんって言ったんだ。だけど数日して彼女の友達から何で彼女をふったのよってつめよられたんだ。彼女はあんなにいい子なのにって、訳の分からないまま謝らされて。」
「そうなんだ。」
紗智は本当にあきれ返った顔をした。
「功治はその頃より成長してる?」
「そら、あの頃よりは成長したと思ってるよ。」
紗智はすごくいたずらっぽい顔になって言った。
「プリン買ってきてくれない。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます