二話 ローザとフランツ
フランツと出会ったのは、私がアクアミューレに来て1ヶ月ほど経った頃だった。
私は広場の隅で「青空相談所」という何でも屋をして、生計を立てていた。治癒能力のおかげで何とか稼げていたが、常に不安が付き纏っていた。
ある朝、いつものように青空相談所を開こうとした時、私のスペースに人が座り込んでいた。
「おはようございます。あの……何かお困りでしょうか」
恐る恐る話しかけると、座っていた男は弱々しく顔を上げた。
「僕はもうすぐ死ぬんです。あなた、何でも屋ならどうにかしてくれますか?……なんて。すみません、忘れてください」
自嘲気味に呟いたその男は、その場を立ち去ろうとした。その様子を見て、私はなぜか彼を助けたくなった。
「お任せください。私は何でも屋ですよ!」
そう言って治癒をしたが、簡単ではなかった。私に鋭い痛みが流れ込んできて、身体が焼けるようだった。
治癒能力を使うと、相手を癒す代わりに痛みを受けるのだが、今回の痛みはいつもと段違いだった。治癒が終わると、私の右肩に火傷のような跡が残っていた。
「なんて事だ……お嬢さん、大丈夫ですか?」
私の様子に慌てて駆け寄ってきた彼の顔色は、すっかり良くなっていた。
「これでもう大丈夫。あなたはまだ死なないですよ」
その後、私は気絶したようだった。気がつくと彼の家のベッドにいた。
それがフランツ・リーデルとの出会いだった。
まさかその後、結婚するなんて思わなかったけれど。私はとても幸せ者だ。
――――――――――
「ローザ、なにをしているのですか?」
自室で手紙を書いていると、フランツが様子を見に来た。
「ちょっと家族に手紙を書いていましたの。結婚の報告もありますし」
「君の家族か……また何かひどい事をされているのではないでしょうね?」
フランツは私が家を追い出されたと知った時から、ずっと気にかけてくれている。私の家族が何かしてくるのではないかと警戒しているのだ。
「大丈夫ですよ、私はこんなに幸せですって自慢したいんです。心配なさらないで」
「そうかい?茶葉独占販売の件もあるし、向こうは恨んでいるだろう。何か言ってきたらすぐに知らせてくださいね」
そう言ってフランツは私の頬に口づけをした。顔が熱くなるのを感じる。何回されても慣れないわ……
そんな私の様子をみて満足そうに笑うフランツは、とても美しかった。初めて出会った時は生気を失った顔をしていたのに、今ではこんな風に笑ってくれる。それがとても嬉しかった。
私が書いた手紙を覗き込んでいたフランツは、面白い事を思いついたように筆をとり、手紙に何かを書き足した。
「ローザと結婚できる事を光栄に思います。この幸福を直接見せられなくて、非常に残念です。 フランツ」
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