第3話「始まりⅢ」
絶対絶命。
と、覚悟を決めていると、目の前で刃物が落ちる音がした。
恐る恐る、目を開けてみると、
そこには、サバイバルナイフより刃先が
長いような形をした刃物が
2本ほど落ちていた。
それともう1つ。
目の前には女の人が背中を
俺に向けて腕を組み、立っていた。
そして女の人は少し甲高い声で『ヤツ』
を何の恐れもなしにこう罵倒した、
「弱い者イジメするだなんて、いい"大人"して惨めね!!」
と。
その声は耳へと痛みをかき分けて
鼓膜を揺さぶる。
どこが大人なんだ?
こんな気持ち悪いドロドロがか?
何を考えているんだ?
困惑をしていると、
急に女の人は俺に向かって、
「危ないからちょっと下がってなさい」
と、上から目線で命令してきた。
随分と威勢がいい事か。
しかし、今はこの人に任せるしか
方法はなさそうだ。
その女の人は、
地面に無防備に落とされた刃物を
足で弾いて手に取り、
矛先をピッと音を立てて『ヤツ』に向ける。
相も変わらず『ヤツ』は激昂したまま、
ジリジリとこちら側ににじりよってくる。
『ヤツ』のドロドロが瓦礫の音を
鳴らした瞬間、女の人は手に
持っていた刃物を『ヤツ』に投げ刺した。
続けて、
ピュンッ!!!
一瞬、頬の横を何かが通った、
と思い、背後を見ると、
無数の刃物が空から飛んできて、
『ヤツ』に向かって刺さる。
その拍子に『ヤツ』は、
ッァアアアグガァッアアァアァ!!
今まで聞いたことの無い悲鳴?をあげる。
しかし、『ヤツ』の身体を見る。
刺し傷がなく、飛んでいく刃物達は吸い込まれていった。
でも、この時やっと察した。
この人は、戦っているんだと。
しかし気付いたことに、
女の人は、目の前から姿を消していた。
どこだどこだと目で探る。
居た、と思って見つかったのは男の人。
その男は、ノコノコと後ろから
やってきてボソボソと言う。
「あぁーもう、どうしてこうも先走っちゃうの?どう見てもこのドロドロにナイフが刺さるわけないじゃん」
男の人はそのまま『ヤツ』の
目の前まで行き、右腕を差し出し、
沈めだした。
それと同時にドロドロは男の人を
侵食し始める。
俺はその人がやっていることは
明らかにやってはいけないことだと
勝手に解釈し、声をかけようとする。
しかし、かけようにもどう言えば
良いのか分からない。
結局、尻もちをついたまま
その状況を見るしか無かった。
男の人はふぅーと息を吐き、小声で、
「...パン。」
と呟き、腕に力を込めたようだ。
そしてドロドロを裂くように
真横に腕を振り払い、
よくある戦隊もののワンシーン
のように格好つけて『ヤツ』を
背に向け、去っていった。
途端、パッと目の前の景色に日が
差し込み、良く教室から見える建物の
並びが映し出される。
『ヤツ』がいなくなった。
いや、倒してくれたんだろうか。
どこを見渡してもあの脳裏に
残る醜い姿がない。
その瞬間、弾け飛んだであろう
ドロドロが雨のように降ってきた。
さっき吸い込まれた数多の刃物
も金属らしい音を立てて落ちる。
そんな中もっと目立ったものが、
人型を模した人ではない幼児
くらいの大きさの生物。
そいつはその小さな身体の
お腹を縦にぱっくりと割って
大きな口を開ける、そして鳴いた。
ピァアアアァァァーーーーッ!!
さっきとは打って変わって甲高い声。
気持ちわりぃ。
更に醜くなった『ヤツ』を見ていると、
「手柄もーーらっい!!」
さっきの女の人の声が。
しかも上から段々近づくように聞こえた。
本当に上から来やがった。
女の人は長い剣をその気持ちわりぃ
生物に向け、そのまま落下の勢いで
突き刺した。
見事、ど真ん中に刺さった。
それに生物は、
ピャッ
と声を出し、その後直ぐに
短い四肢がへにゃっと垂れた。
刺し傷からはその大きさに比に
ならないほどの量の血がトロォっと
ボロボロになった地面を徐々に覆っていく。
そしてその血は粉末状になり、
殆ど跡形も無くなるほど風に
吹かれて散っていった。
同時に血を出し切った生物も
萎え崩れて、血と一緒に
さっきのドロドロも共に消散した。
全てが一瞬の出来事過ぎた。
「どうか、成仏してください。」
女の人は刃物を地面に刺した
ままにし、合掌して言った。
成仏?この人は優しい人なんだな。
なんて思ってると、女の人は
「あれ、まだここに居たんだ。」
と、俺に話しかけてきた。
俺はさっきのまんまの体勢で刻々と頷く。
「あぁーあ、これじゃあそろそろ表に情報流出されても可笑しくないなー」
その人が独り言のように
ブツブツ言うと、また俺に急に、
「この事、通報とかしないでね?」
と。
俺はなんと返せば良いのか
分からず、唖然としたまま、
また頷いてしまう。
女の人は、男の人の後を
追いかけるように小走りで
去っていった。
そして、去っていったのを
見送った後、目の前を見ると、
地面に刺さっていた刃物も
落ちていた無数の刃物も
ちりじりになって跡形もなくなっていた。
ここまでが俺が目の当たりにした
怒涛の逆転劇だった。
━━━事後にて━━━
「お怪我をした方は居ませんかー?」
と、救急隊員らの声があたり中に聞こえる。
学校の近くに、数台の救急車と
自衛隊員に警察官。
これだけ居るんだからこの事件の
規模も周知のことだろう。
2018年3月5日、午後1時34分
宮城県にて1件の大規模な
化け物による事件発生。
その化け物は何者かによって討伐された。
被害者は数名、
いずれも軽傷で済んだ模様。
こんな知らせが宮城県全域に広がる。
そんな騒動の中、俺は何を
していたのかと言うと、
「危なかったんだぞ!なに呑気に現場に居座っちゃって!!」
云々...と、警察様からその場で
説教をくらっていた。
これがまたおじさんだったもの
だから話が長いわ長いわ、
立っているのも脚が痺れるし、
話も飽きてきてしまった。
すいません、ごめんなさい
って謝ることなく説教は終わったが、
流石に無礼過ぎたなって思った。
それから事情聴取されたり
ニュースの撮影班に
捕まったりして1時間が経ち、
ようやく現場は落ち着いてきた。
そして待機命令から帰宅許可を貰い、
やっと帰れるように。
俺は現場を後にして、
被害の出たボコボコに乱れる
道路のど真ん中を通って帰った。
その時、ふと考えてしまった。
戦っていた人達は一体誰だったのか。
あの化け物は結局なんなのか。
あの化け物が暴れる理由はなんなのか。
俺が見る悪夢のようなものはなんなのか。
考えれば考えるほど、疑問が溢れて、
モヤモヤして嫌になってくる。
なにかが引っかかるような
引っかからないような違和感。
「...あっ」
もういつもの帰り道。
あっという間の2時間。
と、思い電車の駅を前にすると、
一気に肩に入った変な力とモヤモヤが
いつの間にか抜けて消えていた。
同時に一気に精神的な疲れがやって来た。
「さ、帰るか」
今日は疲れた、帰ってすぐに寝よっと。
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