第八幕
第八幕
無謀にも単身単独での突撃を敢行せんとする始末屋の接近を察知し、国家社会主義ドイツ労働者党、いわゆるナチ党の思想信条を継承する『アーリアン・ドーン』の南極総本部の広大にして広範な敷地内に、明滅する赤色灯の輝きと共に耳障りなサイレンの音が鳴り響いた。
「総員、銃とヘルメットを手に取り、速やかに第一種警戒態勢を維持せよ! 発砲は任意とする!」
「敵は一人だ! 恐れる事は無い!」
「配置に着いた者から、順次攻撃せよ! 決して油断するな!」
手に手に
「来たぞ!」
そう言って身構える軍服姿の構成員達の視線の先で、南極大陸の極点の真上に位置する要塞の周囲をぐるりと取り囲むフェンスの継ぎ目の正面ゲート前に、左右一振りずつの手斧を携えた始末屋がおもむろに姿を現した。そして彼女は逃げも隠れもせぬまま一切怯む事無く前進し続け、そのまま悠々とした足取りでもって、まるで欧州の有名クラブチームのフットボールスタジアムにも似た巨大な建造物である要塞に真正面から乗り込まんと試みる。
「ふん!」
気合一閃、そう言った掛け声と共に、始末屋は要塞の正面ゲートの鉄扉を力任せに蹴り開けた。
「撃て!」
すると要塞の手前のゲートの前で待ち構えていた構成員達の内の指揮官らしき一人がそう言って命じると、彼の部下らしき別の構成員達が肩に担いだRPG-7の引き金を一斉に引き絞り、射出されたそれらの炸薬弾頭がロケットモーターを推進力としながら始末屋目掛けて飛び来たる。
「遅い!」
しかしながらそう言い放った始末屋は、こちらへと群れをなすような格好でもって飛び来たるRPG-7の炸薬弾頭の数々を、その手に携えた手斧の一撃によって次々に信管ごと叩き割ってみせた。そして推進力こそ維持しながらも、信管を失った炸薬弾頭は目標をも見失い、決して爆発する事無くふらふらと宙を舞いながらどこか明後日の方角へと飛び去って行ってしまう。
「糞! 化け物め!」
「撃て! 撃ちまくれ!」
RPG-7による攻撃を無力化された『アーリアン・ドーン』の構成員達は口々にそう言って、要塞の正面ゲートを潜った始末屋に照準を合わせながら、手にした
「死ね」
事も無げにそう言って死刑宣告にも等しい言葉を口にした始末屋は、丹念に研ぎ上げられた鋭利な切っ先が雲の切れ目から差し込む月光を反射してぎらりと輝く左右一振りずつの手斧を振るいながら、インド・アーリア人の血を引く浅黒い肌の構成員達に躊躇無く襲い掛かる。
「ぎゃあっ!」
日本の伝統武道の一つである剣道で言うところの大上段の構えから振るわれた始末屋の右の手斧が、彼女から見て最も近い位置に立っていた『アーリアン・ドーン』の構成員の頭部をケブラー製のヘルメットごと叩き割り、まるで薪ストーブにくべる薪の様に真っ二つになった構成員は真っ赤な鮮血と薄灰色の脳漿を撒き散らかしながら断末魔の叫びと共に絶命した。
「ふん!」
そして今度は返す刀の要領でもって左の手斧を振るい、間髪を容れる事無く、始末屋は二人目の構成員に襲い掛かる。
「ひいっ!」
常人離れした膂力を誇る彼女の手斧の一撃は二人目の構成員の防寒仕様の軍服に包まれた胴体を上下真っ二つに両断し、ぱっくりと口を開けたその構成員の腹腔から
「糞! 真正面から遣り合うな! 一旦距離を取って態勢を立て直し、斧の間合いから退避しろ!」
「囲め! 距離を取りながら全員で囲むんだ!」
浮き足立った構成員達は慌てふためきながらそう言って、始末屋から距離を取るべく
「おい、逃げるな! 敵はたった一人だぞ! 逃げずに戦え!」
するとそう言った指揮官らしき構成員の言葉通り、始末屋の猛攻の余りの凄まじさに怖気付いた数人の構成員達が持ち場を離れ、こちらに背中を見せながら我先に逃走を開始した。こんな雪と氷に覆われた南極大陸の中心に逃げ場など無いのに、なんとも愚かな事である。
「ふん!」
しかしながら冷静沈着を旨とする始末屋は、修羅場からの遁走を計る彼らをみすみす見逃したりはしない。彼女は駱駝色のトレンチコートの懐から取り出した新たな手斧を次々に投擲すると、闇夜を切り裂くように飛び来たったそれらの手斧を無防備な背中や後頭部にまともに喰らってしまった構成員達は、口々に断末魔の叫びを漏らしながらばたばたと続けざまに絶命するばかりだ。
「駄目だ、こいつに銃は効かない! おい、火炎放射器だ! 火炎放射器でもって焼き払え!」
敵味方入り乱れる混戦、もしくは乱戦の様相を呈する要塞の手前のエントランスにおいて指揮官がそう言えば、背中に燃料タンクを背負って火炎放射器を手にした新たな構成員が姿を現す。
「やれ! 焼き払え!」
改めて指揮官がそう言って命じると、彼の傍らへと駆け寄って来た燃料タンクを背負った構成員は、始末屋に照準を合わせたまま火炎放射器の引き金を引き絞った。するとゲル化ガソリンを主成分とした燃料がごうごうと燃え上がりながら噴き出し、まさに千切っては投げ千切っては投げとでも表現すべき勢いでもって並み居る構成員達を屠り続ける始末屋をその高熱によって焼き尽くさんと迫り来る。
「!」
しかしながら如何に火炎放射器が驚異であったとしても、それで怯むような始末屋ではない。彼女は素早く身を翻し、こちらへと放射される炎の帯を紙一重のタイミングでもって回避してみれば、逆に彼女の周囲に立っていた『アーリアン・ドーン』の構成員達が味方と同士討ちになるような格好でもって業火に包まれた。そして文字通りの意味でもってその身を焼き焦がしながら、ゲル化ガソリンが燃焼する際の高熱と酸素の欠乏によって悶え苦しむ構成員達を他所に、始末屋は火炎放射器を手にした構成員目掛けて手斧を投擲する。
「ぎゃあっ!」
すると投擲された手斧は狙いを違えず、火炎放射器を手にした構成員が背負った燃料タンクに的確に命中し、漏れ出たゲル化ガソリンに火炎放射器の炎が引火してタンクが爆発した。そしてタンクを背負っていた構成員は言うに及ばず、その傍らに立っていた指揮官や他の構成員達もまた業火に包まれ、防寒仕様の軍服に火が着いた彼らは右往左往しながら逃げ惑う。
「助けてくれ!」
「嫌だ、未だ死にたくない!」
戦意喪失した構成員達は口々に悲鳴を漏らしながら助けを求めて逃げ惑うが、裏稼業のならず者であると同時に冷静沈着を旨とする始末屋は、決して追撃の手を緩めない。近場に居る敵は手斧の一撃によってその身体をヘルメットやボディアーマーごと真っ二つに叩き割り、遠方に居る敵には手斧を投擲し、これらの息の根を確実に止めて行く。そして戦闘開始からものの十分足らずで、凄惨を極めたその戦いの第一ラウンドの幕は下ろされたかと思えば、まさに死屍累々とでも表現すべき数多の死体が転がる要塞のエントランスはさながら地獄そのものであった。
「これで終いか」
やがてエントランスで待ち構えていた『アーリアン・ドーン』の構成員達を鏖殺の憂き目に遭わせ終えた始末屋は独り言つようにそう言って、ようやく手斧を振るう手を止めると、ぐるりと
「ふん!」
始末屋は壁沿いの鉄扉の前までずかずかと確かな足取りでもって歩み寄ると、黒光りする革靴を履いた足を上げ、その鉄扉を力任せに蹴り開けた。すると鉄扉の向こうには広範にして浩蕩な空間が広がり、そこには遠くロシアの地で彼女と邂逅したMi28攻撃ヘリコプターやMi26輸送ヘリコプター、それに名前も知らないような様々な国の様々な航空機や車輛が見渡す限りずらりと勢揃いしている。どうやらその規模や様相から推測するに、ここは彼女が足を踏み入れた『アーリアン・ドーン』の本拠地たるこの要塞の格納庫の一つらしい。
「待っていたよ、始末屋」
すると始末屋が広範な格納庫の中ほどまで足を踏み入れたところで、まるで罠に掛かった彼女を出迎えるような格好でもって、そこに待ち構えていた一人の小柄な人影が満を持してそう言った。
「なんだ、誰かと思えば、また貴様か」
果たしてそう言った始末屋の視線の先に立つ小柄な人影は、フリルとレースによる装飾が施された衣装を身に纏い、ピンク色の頭髪を大きなリボンでもって二つ結いにした可愛らしい少女、つまり『撲殺系魔法少女』の名を
「ああ、そうだよ、また僕だよ。少しは驚いてくれたかな? なにせキミとの再戦を果たすために、わざわざこんな地球の南の端っこの南極くんだりまで足を運んでやったんだからね」
まるで人食い鮫として知られるホオジロザメのそれの様な真っ白なギザ歯を剥き出しながらほくそ笑みつつも、左右の光彩の色が異なるオッドアイの瞳でもって始末屋を睨み据えるみるきぃ★ルフィーナの幼さを残す顔には手斧の一撃を喰らってしまった際の深々とした裂傷が刻まれ、医療用の縫合糸でもって縫い留められたその傷痕は見るからに痛々しげである。
「何? 再戦だと? ウラジーミル中央刑務所に雇われていた筈の貴様とあたしが戦う理由が、どこにある?」
「僕とキミが戦う理由が、どこにあるのかだって? そんな汚らわしい手斧なんかで僕の可愛い顔を疵物にしてくれたくせに、よくもまあ、そんな減らず口が叩けたもんだね。それにウラジーミル中央刑務所に雇われていたと言うのは、もはや何の意味も為さない古い情報だ。今の僕の雇い主はアドルフ・ブラフマン、つまり『アーリアン・ドーン』の最高指導者だよ」
みるきぃ★ルフィーナはそう言ってほくそ笑みながら、まるで彼女が味わった痛みと屈辱を思い出させるかのような格好でもって、自らの顔に刻まれた傷痕を指先でそっと撫で擦った。
「成程、さては貴様、よりにもよって『アーリアン・ドーン』なんぞに鞍替えしたと言う訳か」
「ああ、そうさ、まさにその通りだよ。まあ、別に鞍替えする相手は『アーリアン・ドーン』でも何でも良かったんだけどね。要は僕のこの顔の傷の仇が討てれば、それだけで充分なのさ」
そう言ったみるきぃ★ルフィーナがその手に握るマジカルステッキを始末屋目掛けて構え直せば、その先端に装着されたハート型の打突部が、始末屋の息の根を止めんと怪しく輝く。
「その顔の傷の弔い合戦のつもりなら、その勝負、受けて立ってやる」
始末屋もまたそう言って左右一振りずつの手斧を構え直すと、獲物であるみるきぃ★ルフィーナを自らの間合いに捉えるべく格納庫の床を蹴って駆け出し、彼女との距離を一気に詰めようと試みた。
「そうはさせないよ!
そう言ったみるきぃ★ルフィーナが手にしたマジカルステッキを素早く振るって迎え撃てば、その先端のハート型の打突部が分離し、一本の鎖でもって柄と繋がったそれが始末屋目掛けて飛び来たる。
「!」
すると始末屋は格納庫の床を蹴りつつも、唸りを上げながらこちらへと飛び来たるマジカルステッキのハート型の打突部を、手にした手斧の斧腹でもって咄嗟に受け止めてみせた。しかしながら、やはりそのファンシーでキュートな見た目からは想像もつかないほどの衝撃の重さと鋭さに、不覚にも獲物との距離を詰めようと試みた彼女の足が止まってしまう。
「どうだい、僕の
そう言ったみるきぃ★ルフィーナが繰り返しマジカルステッキを振るい続ければ、その打突部が何度も何度も始末屋目掛けて飛び来たり、防戦一方となった彼女はその場から動く事が出来ない。
「くっ!」
図らずも苦境に立たされる格好になってしまった始末屋は、みるきぃ★ルフィーナの連続攻撃の一瞬の隙を突いて横方向に跳躍すると、手近な軍用ヘリコプターの陰にその身を隠した。このまま格納庫に居並ぶ航空機を盾にしながら一歩一歩着実に前進し、やがてみるきぃ★ルフィーナに接近した上で、彼女の必殺の得物である手斧の間合いに捉えようと言う魂胆である。
「おやおや、一体どこに逃げるつもりなんだい、始末屋? この僕の
やはり人食い鮫として知られるホオジロザメのそれの様な真っ白なギザ歯を剥き出しながらほくそ笑みつつも、そう言ったみるきぃ★ルフィーナは、手元のマジカルステッキの柄に設けられたハート型のスイッチを押した。すると一本の鎖でもって柄と繋がった、宙を舞うそのハート型の打突部に無数の鋼鉄製の棘が生えると同時に、ハートの中心部を軸としながら高速回転し始める。
「さあ、これが『撲殺系魔法少女』の名を
まるで勝利を確信したかのような表情と口調でもってそう言ったみるきぃ★ルフィーナがマジカルステッキを振るえば、そのハート型の打突部が、始末屋が身を隠した軍用ヘリコプターの機体に直撃した。そして高速回転する棘が生えた打突部が頑丈な鋼鉄製の軍用ヘリコプターの装甲をがりがりと削り落とし始めると、削り落とされた鋼鉄の破片が赤熱しながら宙を舞い、周囲一帯に猛烈な勢いでもって大量の火花が舞い散り始める。その火花が舞い散る様子は、さながら夜空を彩る宇宙塵や星間ガスなどから成る天体、まさに
「ほらほら、始末屋ってばいつまでもそんな所で逃げ隠れしてないで、僕と一緒に遊んでおくれよ!」
そう言って始末屋を挑発するみるきぃ★ルフィーナが手にしたマジカルステッキを振るう度に、軍用ヘリコプターの装甲は見る間に削り落とされ、その陰に身を隠した始末屋の姿が露になる。
「くっ!」
身を隠していた軍用ヘリコプターがみるきぃ★ルフィーナの
「無駄だよ! 僕の
やはり勝利を確信したかのような表情と口調でもってそう言って、その顔に刻まれた裂傷の縫合痕も痛々しいみるきぃ★ルフィーナは、新たな目標目掛けてマジカルステッキを振るう。
「喰らえ、
するとそう言ってマジカルステッキを振るうみるきぃ★ルフィーナに照準を合わせながら、始末屋は「ふん!」と言う掛け声と共に、左右一振りずつの手斧を続けざまに投擲した。
「無駄だよ! 僕に飛び道具は通用しない!」
みるきぃ★ルフィーナはそう言いながら、マジカルステッキのハート型の打突部でもってこちらへと飛び来たる二振りの手斧を叩き落とすが、その間隙を突いて始末屋は反撃に打って出る。彼女は手近に停めてあったMi28攻撃ヘリコプターのコクピットに素早く乗り込むと、シリンダーに挿しっ放しになっていたイグニッションキーを回してエンジンを始動し、回転翼直径が17mに達する五枚羽のローターを回転させ始めた。そしてメインローターとテイルローターを回転させたままコクピットから退出したかと思えば、そのMi28攻撃ヘリコプターの機体の下へと手を差し込み、それをみるきぃ★ルフィーナ目掛けて投擲せんと試みる。
「何をやってるんだい、始末屋? まさかそのヘリコプターを持ち上げて、僕にぶつけるつもりなのかな?」
突然の始末屋の奇行を眼にしたみるきぃ★ルフィーナがそう言って嘲笑するのも、至極当然の帰結であった。一切の武装を搭載していない空虚重量だけでも実に8000㎏にも達するMi28攻撃ヘリコプターの機体を持ち上げて投擲しようなどと言うのは、常識的に考えれば、まさに狂気の沙汰と言う他無い。
「ふん!」
しかしながら、その常識外れの狂気の沙汰、つまり非現実的な出来事を実現してしまうのが始末屋である。常人離れした膂力を誇る彼女はその全身の筋肉を総動員して渾身の力を振り絞り、さすがに完全に持ち上げ切るまでには至らなかったものの、ローターを回転させるMi28攻撃ヘリコプターの機体をみるきぃ★ルフィーナ目掛けて転がす事に成功したのだった。
「馬鹿な!」
形勢を逆転されたみるきぃ★ルフィーナはそう言って驚愕の声を上げながら我が眼を疑うが、その間にもこちらに向けて転がされたMi28攻撃ヘリコプターは五枚羽のローターを高速回転させながら彼女の眼前へと迫り来るばかりで、このままではそのローターの回転に巻き込まれるか空虚重量が8000㎏に達する機体に押し潰されてしまうのは想像に難くない。
「糞!
するとみるきぃ★ルフィーナはそう言いながらマジカルステッキを振るい、その柄と一本の鎖でもって繋がったハート型の打突部でもって、迫り来るMi28攻撃ヘリコプターの機体を破壊せんと試みる。
「ああっ!」
しかしながらMi28攻撃ヘリコプターのローターに触れた途端、マジカルステッキのハート型の打突部がその回転に巻き込まれ、柄と繋がった鎖もろともみるきぃ★ルフィーナの手を離れてローターの基部に絡め取られてしまった。そして必殺の得物であるマジカルステッキを失った彼女の身体もまた回転に巻き込まれる、もしくは鋼鉄の塊に押し潰される寸前で、転がされた際の勢いを失ったMi28攻撃ヘリコプターとそのローターは動きを止める。
「ひぃっ!」
まさに紙一重と言うべきか間一髪とでも言うべきか、あとほんの数㎝でもMi28攻撃ヘリコプターに近い位置に立っていたとしたら死んでいたかもしれないと言うぎりぎりのところで九死に一生を得たみるきぃ★ルフィーナは、思わずそう言って恐怖と恐慌の声を漏らした。
「助かった……」
そう言ってホッと安堵の溜息を漏らしながら胸を撫で下ろしたみるきぃ★ルフィーナが穿いている、フリルとレースによる装飾が施された衣装の下のショーツに失禁による黄色い染みがじわりと広がるが、それはこの際大した問題ではない。今この瞬間、何よりも問題とされるべきなのは、左右一振りずつの手斧を携えた始末屋がどこに居るかと言う点である。
「助かった? それはどうかな?」
不意に背後からそう言って問い掛けられたみるきぃ★ルフィーナは、ぞっと背筋に悪寒を走らせると同時に、全身にどっと冷たい脂汗を掻きながら素早く振り返った。するとそこには駱駝色のトレンチコートに身を包んだ褐色の肌の大女、つまり裏稼業のならず者として知られる始末屋が逃げ道を塞ぐような格好でもって立ちはだかっており、大上段に構えられた彼女の手斧の切っ先はみるきぃ★ルフィーナの顔面のど真ん中に照準を合わせている。
「死ね」
みるきぃ★ルフィーナがMi28攻撃ヘリコプターに気を取られている隙に彼女を間合いに捉えた始末屋は、やはりぶっきらぼうな表情と口調でもってそう言いながら手斧を振り下ろした。
「ぎゃあっ!」
アーカンサス砥石によって丹念に、まるで剃刀の刃の様に鋭利に研ぎ上げられた手斧の切っ先が縫合痕も痛々しいみるきぃ★ルフィーナの顔面目掛けて振り下ろされたかと思えば、そう言って断末魔の叫び声をその喉から漏らした彼女の頭部がものの見事に真っ二つに叩き割られて死に果てる。
「またぞろ傷口を縫い合わせた上で、まるで何事も無かったかのように復活して来てから襲われては堪らんからな。今回は念には念を入れて、しっかりと完膚無きまでに殺しておこう」
そう言った始末屋は頭部が真っ二つになって絶命しているみるきぃ★ルフィーナのその頭部を何度も何度も念入りに、更に頭部だけでなく胸部や腹部に至るまで、まさに執拗な滅多刺しの要領でもって手斧で切り刻みまくった。硬く冷たい『アーリアン・ドーン』の南極総本部の格納庫のコンクリート敷きの床に、
「よし、これでいいか」
やがてみるきぃ★ルフィーナの少女らしい幼さを残す身体を見るも無残なばらばら死体へと変貌させ終えた始末屋はそう言うと、手斧にこびり付いた真っ赤な鮮血を切り払いながら、周囲を改めて見渡した。すると格納庫の奥の壁沿いに、この要塞の中心部へと続く新たな鉄扉を発見したので、そちらの方角を目指す彼女はその鉄扉に歩み寄らざるを得ない。
「ふん!」
そして力任せに鉄扉を蹴り開けてみれば、次の瞬間、始末屋目掛けて射出された銃弾の雨霰が彼女に襲い掛かる。どうやら鉄扉の向こうに、この『アーリアン・ドーン』の南極総本部を警護する構成員達の第二陣が待ち構えていたらしく、そんな彼らが持つ種々雑多な銃火器が一斉に火を噴いたのだ。
「撃て! 撃ちまくれ!」
ここでもまた指揮官らしき『アーリアン・ドーン』の構成員がそう言って命じると、彼の部下らしき数多の構成員達が手に手に
「無駄だ、雑兵め」
しかしながらそう言った始末屋はやはり飛び来たる銃弾を手斧の斧腹でもって弾き返すか、駱駝色のトレンチコートの裾を
「そんなに死に急ぎたいのか、この身の程知らずどもが」
そう言った始末屋はコンクリート敷きの床を蹴って跳躍し、その常人離れした膂力を発揮しながら、手斧の切っ先でもって『アーリアン・ドーン』の構成員達を次々と切り刻み始めた。要塞の中心部と格納庫とを繋ぐ廊下が、再び血と臓物と脳漿によって彩られ始める。
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