第9話 みわちゃん


  みわちゃん


ハートフル・カフェ・万象 略して ハ・カ・バ 土曜日の午後、若い女の子が二人来店した。

ノンカロリーコーラを頼んだ。国道沿いのカウンターに並んで座る。

最初は話が弾んでいた様だ。途中から沈黙の時間が入る。ボーっと外を眺めたり、携帯画面を見たり。

「あの~、新作なんですけど試飲、お願い出来ますか?」結花が二人に話しかける。

トレーには、作ったばかりの”桃のスワークル”が二つ。桃のピューレと氷をミキサーに掛け、仕上げに炭酸水を注ぎ、軽くかき混ぜる。

「飲んだ後の感想をお願いします。」と言って、二人の目の前に出す。

「えっ、コレなんですか?」「”桃のスワークル”です。夏の季節商品にどうかなって、作ってみました。」

二人は、カップに差してある少し太めのストローで飲んでみる。

「あっ、、、美味しい!。果肉が残ってるっ!」「うん、美味しいねっ。炭酸も入ってて、すっごいさわやかっ!」

「アイスクリームとか、ホイップクリームとか乗っけても良いかなって思ってます。トッピングで、、、」結花が付け足す。

「無い方が好きっ!」「そうそう!」気に入って貰えた様だ。

「有難うございます。もうちょっとバランスを考えてみたいので、販売はもう少しお待ちください。」二人から離れ、結花が戻る。

二人は顔を見合わせ、笑い合う。


閉店後、帰路につく結花。

スーパーへ立ち寄った後、公園で二人を見かけた。少しずつ暗くなってきていた。

一人が泣いていて、もう一人が背中をさすっていた。気になった。近づいてみた。

「……こんにちは。さっきはありがとうね、、、」

「あっ、、、さっきはありがとうでした、、、美味しかったです。」背中をさすっていた方が結花の方を見て言った。

泣いていた方は、目をこすりながら何も無かった様に繕う仕草をした。

「……ごめんなさいね、、、気になったもんだから、、、泣いてたの?」

「……」二人は顔を見合わせ、困ったような顔をした。

「何か、出来る事があれば、、、」

泣いていた方が結花をじっと見た。

「……なんでもないんです、、、何でも、、」見ているうちに涙が目に浮かんできた。

「何でもないって事は無さそうね、、、お父さんやお母さんに言えない事?」

「……」二人は黙ったまま。

「お店のオーナーやお寺の御院ごいん様とかなら、もっと力になって貰えるかもよ。……私は聞いてあげるぐらいしか出来ないけど、、、」

「……」背中をさすっていた方が結花をじっと見ている。

その子は、泣いている方へ顔を向けると「話してみる?」と小さな声で言った。

泣いている子が小さく頷き、話し始めた。

「あのね、、、、ラインのグループから写真を送れって言われてて、、、下半身の写真、、、」

「えっ、、、、あなたの?、、、写真を?、、、」結花、ネットニュースで以前見た事のある様なイジメなのかな?と感じた。

「うん、、、送らないと、万引きばらすぞって、、、していないのに、レッスンバッグから出てきて、、、その時の写真、、、」

携帯のラインを見せて貰った。あるグループのトークの中に写真が有った。

レッスンバッグから、透明な袋に入ったペンダントを誰かが持ち上げている写真。

「いくら万引きなんかしてないって言っても、証拠があるからって、、、」

結花、しばし思案。携帯を取り出す。

「今から、オーナーへ電話しても良い?、、、大丈夫、信頼できる人よ。……何せ、命がけであたしを守ってくれた人だから、、、」

結花が微笑んで二人に言うと、二人は顔を見合わせた後、結花に向けて頷いた。

結花、携帯画面をタップする。

「もしもし、、、龍彦さん?お願いがあるの、、、スーパー〇〇の前の公園に着て、、、」

『おっ、ようやく俺の誘いに応えてくれるのか?、、、そうか、そうか、、、うん、分かった。すぐ行く。』

「違います。別の件です。応えてません。じゃ、待ってます。」

『え~、、、違うのかぁ~、、、でもしゃ~ない。行くわ。待ってろ。すぐ行く、、、若いから、、、」

「何の事か判りませんが、待ってます。お願いします。」

携帯の電話を切り、「直ぐ来てくれるって。」二人に告げた。


暫くして、深緑の作務衣姿の龍彦がやって来る。

「お待たせ~。お、可愛い子達だね~、結花の知り合いか?」

「ううん、お店のお客さん。今日、モモのスワークル、試飲して貰ったの。」

「おお~、あれ、上手いだろぉっ!。甘くって、冷たくって、リキュール入れたらカクテルになるんじゃねぇ?」

「この子達は子供ですから、カクテルは飲みません。」

「……ハイ、すみません、、、でっ、何かな?お願いって、、、」

「この子達、イジメられてるらしく、、、やってもいない万引きをネタに写真を送れって言われてるらしいの、、、」

結花が代わりに答えた。二人はそろって頷いた。

「写真って?なんの?」

「下半身。」

「あらまぁ~。誰の?、、、その着たメール見せてくれる?」

泣いていた女の子は携帯の画面を操作し、トーク画面を龍彦に見せた。

「……ふ~ん、、、警察へ届けて欲しく無かったら、下半身の写真を送れってか、、、誰のとは書いてねえな~。

 で、万引きってホントにしてないのね?、、、お父さんやお母さんには?、、、話していない。そう、、、」

泣いていた女の子の首の動きを理解し、龍彦、腕を組みしばし思案。おもむろに、、、

「お父さんとお母さんに話して、それからお父さんに一肌脱いでもらおう。」

「えっ、、、お父さんに話すんですか?、、、」困った顔の女の子。

「大丈夫だよ。万引きはしていないと言う無実の証明する為にも、保護者が必要でね、、、みんな一緒にそのお店に行こう。きっと防犯カメラがあると思うよ。」

「あっ、鞄に入れられたところが映ってれば、、、」結花が声を上げた。

「うん、映ってなくても親が来て謝れば騒がないと思うよ、お店もね。、、、お父さんとお母さんに連絡取れる?」

龍彦の言葉に促され、女の子は携帯で父親と母親に連絡を取った。

「6時半頃には駅に来れるそうです、、、」

「じゃ、6時半に駅で待ち合わせてお店に行こう。お店って何処?」

「駅横の商店街の中のファンシーショップ”ファンタジア”です。」

「ところで君の名前は?」

「栗栖美羽(くりすみわ)です。」泣いていた女の子が答える。

「私は三田園咲月(みたぞのさつき)。」友達であろうもう一人の子が答えた。

「みわちゃんとさつきちゃんね。私は結花。ユカって呼んで。」

「俺は、流泉龍彦(りゅうぜんたつひこ)。」

「有難うございます。ユカさんと龍彦さん、、、二人は夫婦ですか?」美和ちゃんが結花と龍彦を交互に見ながら聞いてきた。

「いずれ、そうなります。」「違います。」同時に返事。困った女の子二人。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る