第4話 智香と男たち


智香と男たち


翌々週、いつもの閉店前、智香が来た。

「アイスのカフェオレ。エキストララージでね。」と告げた智香の目が赤い。さっきまで泣いていた目の様子。

「この前は有難うございました。すみません、重たい話しちゃって、、、ごめんなさい。」

「うん、いいの、いいの。……今度はさぁ、私の愚痴、聞いてくれる?今度でも良いし、何だったら今日でも、、、」

「良いですよ。ここは4時までですから、夕方から夜はいつも余裕ありますから、、、今日、行きましょうか?”田吾作”」

「うん、行こっ。頼んだね。」力無い笑いを結花へ向けた智香。


創作料理の”田吾作” 個室を借りる。

生ビール、酎ハイとお造り、唐揚げ、塩だれキャベツ、うにホウレンなどなど、、、創作料理屋なのに定番料理のみ。

結花、智香から匂う香りが最初の来店時の高級ボディソープだとわかった。

世間話は辛そうと思い、結花はいきなり切り出した。

「今日、どなたかと会ってたんですか?」

「……うん。……不倫相手。……会社の上司、、、喧嘩した、、、でも、いたしちゃった、、、別れを切り出されちゃった、、、

 やっちゃってから言うんだよ~、、、酷くない?、、、本当に男ってさぁ~都合いいんだから、、、」と言って酎ハイレモンを飲む。

「……喧嘩の理由、聞いて良いですか?」

「うん、、、私の浮気って言うか、、、、部下の男の子との密会、、、見られてた、、、タイミング悪すぎ~!

 でもさ、、、浮気だっ。とか不倫相手に言える~?、あったま来ちゃうよねぇ~、お互い様かも知んないけどさ~」

「……」

「実はね~、ちょっと前までさ~、結婚しても良いかな~なんて人も他にさ、居たのよ。……でもね、仕事が忙しくて、、、不倫もしてて、、、

 なかなか会えなくて、たまに会えば、食事とかお酒とか、おしゃべりとか将来の事とか話すの面倒臭くなっちゃってさ~

 直ぐにホテルとか行っちゃてたのね、、、向こうも直ぐに誘って来て、公園の隅で立ったまま、いたした事も有っちゃたりして、、、

 それがちょっと不安になって来て、、、いずれは結婚してくれるのかな?って思って、いたした後、聞いたのよ、、、そしたらさっ、、、」

智香の頬に涙が伝い始める。

「『ゴメン、セフレだと思ってた。だから、、、結婚はしない。だって将来の事とか何も話してないし、、、、休日とかゆる~く一緒に居たいって言ったら、

 今日は仕事とか、人に会うとか、いつも断って来たから、、、セフレ関係がちょうど良いのかな~って思ってた。』……って、、、」

智香、鞄からティッシュを取出し、鼻をかむ。

「ゴメン、、、私ったらさっ、そん時、『そうだよね、そういう関係だよね。』って、誤魔化したの、、、自分と相手、両方に、、、」

「……」テーブルの上で肘を着き、両手を組む智香の手を結花が握る。

「それからって、、、自分自身に腹立たしいのに、人に当っちゃってさ、、、部下の男の子へ仕事の無茶振りしたり、出来たものを重箱の隅を突っつくように

 ダメ出ししたり、飲みに連れ回したり、、、そしたらその子ったら『ありがとうございます。目を掛けてくれて』って、、、。

 私、恥ずかしいやら、情けないやら、その子の前でワンワン泣いちゃって、、、

 『ゴメン。そうじゃないの!。他の人にフラれた腹いせに、辛く当たっただけなの!』って、、、。

 その子、『いいんです。理由なんて。鈴木さんに認めて貰えれば、それで良いんです。』って可愛い事、言うのよ~。

 放っておけなくなっちゃって、、、その子と遊ぶ様になったの。仕事場では相変わらず、ビシビシしてたけどね。

 今度は、失敗しない様に思って、休日は出来るだけ一緒にいる様にしたわ。お出掛けもして、、、食事もして、、、ホテルにも行って、、、

 そんなとこを、不倫相手に見られて、、、今日、別れた、、、。」酎ハイを一気に飲み干す。タブレットでお代わりを注文する。

「……その若い男の人だけになったんですね。……続けて行けそうですか?」

「……判んない、、、元不倫相手のいる職場で、好きかどうかまだ分からない若い子と一緒に仕事出来るか、、、続けられるか、判んない。」

「男の子の事、好きかどうか判らない、、、ですか、、、」

「うん、、、、多分、申し訳なさがあるし、若いから元気もあるし、、、でも、この人じゃ無きゃってのが無いのよ。出てこないのよ。」

「上司の方は?、、、この人じゃ無きゃと言うのは有ったんですか?」

「無かった、、、と思う。……上司に認められれば、やりたい事出来るかもって、打算があったんだと思う、、、

 枕営業だよね。これって、、、。結局、この人じゃ無きゃって思ってた人は、セフレだけだったって話よね、、、ハハハ、

 バカよね~、私って、、、つくづく思うのよ、、、何して来たんだか、、、」

智香、涙は止まっていた。何かを吐き出してスッキリしたのか、晴れやかな顔になっている。

「……やり直したら、どうですか?……こんな私が言うのもアレですけど、、、」

「やり直す?何を?、、、」

「お仕事とか、彼氏とか、恋人とか、ぜん~んぶっ!。あたしみたいにっ!。……すみません。無責任な事、言っちゃいました。忘れてください。」

「……そうねぇ~、、、そうしよっかな、、、気持ち、軽くしないとダメよねっ!荷物、降ろさなくっちゃ、、、引き摺ったらだめよねっ!

 うん、そうするっ!、そうしてみるっ!……ありがとう。結花ちゃん。やっぱ、あなたの言葉は、重みが違うわ、、うんうん。」

「いえ、駄目ですよ。あたしの言う事なんか聞いちゃ、、、失敗例ですから、、、忘れてくださいっ!。お願いします。」

「もう遅いわよ。決めちゃったから。……なんか、すっきりしたわ、、、。結花ちゃん、ありがとう。」

「え~、、駄目ですよぉ~。あたし、責任持てないし~、、、困っちゃったな~」

「責任なんて取ってなんて言わないわよ。私自身の事だから、私自身で決めるの、、、心配しないで。」

「でも、無責任な事、あたし言っちゃってるし、、、責任無いって言って貰っても、、、」

「良いの!、結花ちゃんが責任持つのは、、、龍彦の事だけで充分!」

「……龍彦さんの事?、、、そうですよね。居場所、作って貰ったんですもんね、、、でも、何に責任を持てば、、、」

「傍に居なさい。ず~と、傍に居なさい。……抱いて欲しいと思ったら、頼んでみて、、、抱いてって、、、

 思ったんだけどさ、結花ちゃんは今まで好きになった人、何人くらい?」

「……いないかも、、、龍彦さんだけかも、、、」

「やっぱり、、、拒絶の理由、龍彦さんしか好きになってないのが原因かもよ。分かんないけどね、、、」

「……そうかもしれませんね、、、」理由は他にもある。と思う結花。

「もう一つの事も、龍彦に頼りなさい。二人でならどうにかなるんじゃない?」

「……はい、、、」でも、、、龍彦さんには生きててほしい。死ぬんだったらあたしだけで良い。

と思う結花。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る