第3話 智香と女子会


智香と女子会


翌週も智香は来た。同じ時間帯で閉店すこし前。

「アイスのカフェオレ。エキストララージでね。」

先週と同じ場所に座る。今日は窓の外を見るで無く、携帯を操作しながらカフェオレを飲んでいる。

結花、智香が気になる。作業中も事有る毎に見る。龍彦、【智香に話でもあるのか、、、】

閉店時間となった。龍彦が「掃除は明日、俺がしておくよ。」と結花に告げた。明日の日曜日は店休日。

結花が智香の隣に座る。「あらっ、閉店時間?ゴメン、帰るね。」と智香。

「あの、智香さん。予定が無かったら私と飲みに行きませんか?この後、何か?」結花、押してみる。

「何もないわよ。……そうね、行こうかっ。居酒屋で良い?創作料理の”田吾作”で。」ちょっと考えた後、パッと明るい顔になりそう告げた。

「はい。お願いします。……話も少し、聞いてください、、、」

「了解っ!。何でも聞くわよっ!任せなさい、このともちんにっ!」智香、胸を張り笑って言った。


創作料理の”田吾作” 個室を借りる。

生ビール、酎ハイとお造り、唐揚げ、揚げ出し豆腐やお奨めの山芋のとん平焼きなどなど、、、

結花、智香から匂う香りが、先週と違うボディソープの物だと感じた。香水ではなさそうな。

世間話とかして、ひとしきり飲んで食べた後、智香が切り出す。

「話って龍彦の事?上手く行ってないの?」

「いえ、違うんです、、、上手く行くも何も、何にもありませんから、、、

 でも、智香さんと龍彦さんがくっつくならそれも有りかなって。それならこれからも一緒にお店、出来そうかなって思い始めて。」

「えっ!私と龍彦が!、、、無い無いっ!くっつかないって。……そりゃ、高校の時は付き合っていたけどさ、もう無いわよ。」

「すっごいいい雰囲気ですよ。傍から見てて、、、夫婦ってこんな感じかなって思えるし。」

「でも、結花ちゃん、龍彦と私の絡みって先週と今日ぐらいじゃないの?見てたの、、、」

「そうですけど、、、何か、そう感じちゃって、、、」

「う~ん、、、それってきっと、離婚した夫婦が別れた後の方が仲が良いって奴じゃない?」

「やっぱり付き合ってたんですか~……でっ、二人が別れた理由って何だったんですか?」

「それ聞く?……結花ちゃん、、、あなた。理由はあなた。」

「えっ!、、、、、、あたし?、、、」

「うん、あなたが学校辞めた後、新宿で酷い目にあったんでしょ?龍彦から聞いたわ。」

「……あ、はい。」

「でね、龍彦が言ったのね、、、『俺、あいつの居場所、作ってやりてぇ。、、、器用じゃねぇから、お前の事もって、、、両方出来ねぇって。』」

「……」

「っで、『判った。そうしな。龍彦は不器用だから、二股かける事出来ないだろうし、私は良い男、見つけるから』って。」

結花、涙が零れてきた。下を向くと膝の上に涙が滴り落ちる。「……ごめんなさい、、、私のせいだった、、、」

「結花ちゃんが謝る事無いよ。そういう時期だったんだよ。倦怠期ってね。3年も付き合ってればそうなるって、、、

 だからさ、私の事はもう考えなくて良いから、結花ちゃん自身で龍彦の事、考えてあげて。」

「あたし自身で?、、、」涙を拭い、顔を上げる。

「そう、好きなんでしょ?、龍彦の事。龍彦も結花ちゃんの事、好きだよ。良くわかる。」

「……はい、好きです。龍彦さんの事、、、でも、、、でも、、、踏み出せません。」

「なんで?何か理由はあるの?」

「はい、有ります。……二つ、、、」

「聞いても良い?」

「一つ目は、きっとまたやって来る男の事。二度も襲ってきた男、、、一度目は、龍彦さんと智香さんに助けて貰って、、、

 二度目は、、、、、、、。きっとまたやって来ます。刑務所から出てきたら、きっとやって来ます。

 その時、もう人の助けは借りられない、、、あたし自身でケリをつける。そう決めています。

 龍彦さんがいたら、龍彦さんの命も危なくなります。……でも、お店はやりたい、その日が来るまで、続けていたい、、、

 あたし一人で始末をつけます。だから、、、龍彦さんとは深くはなれないんです。」

酔いのせいもある。信頼できそうな智香が聞き手のせいもある。結花は話した。

「……」智香、想像を超えた内容に、絶句。

「二つ目は、あたしの心の問題です。長い間、身体を売ってきました、、、お金を稼ぐ為に、、、最初、嫌で嫌で堪りませんでした。

 身体を触られても、顔が近づいても、拒絶しました。身体中が震えて止まりませんでした。

 そんなんじゃ、仕事になりません、、、仲介の人も怒ります。殴られたりしました、、、でも、やらないとお金が返せません、、、

 お金下さいって言って受け取ると拒絶が無くなりました、、、震えてきませんでした、、、後で貰えると判っていたら、大丈夫でした、、、

 なんか、根っからの売春婦みたいですね、、、あたしって、、、ハハ」結花、笑わない笑い声。

「段々と余裕が出来て、ホストクラブへ行った時なんか、酔っ払っちゃって、ホストに口説かれて、そんな雰囲気になった時なんか

 お金貰えないじゃないですか、、、そうしたら、、、拒絶して、震えて、怒られて、殴られて、、、

 100円でも、千円でも良いからあたしに下さいって、100円貰ったら、拒絶しませんでした。震えませんでした。

 そんな女になっちゃったんです、、、あたし、、、だから、龍彦さんからはお金、貰えません、、、貰っちゃったら、出来るかもしれないけど、、、

 龍彦さんとはもう、一緒にお店出来なくなります、、、こんな女とは、、、、駄目です、、、あたしは、駄目です。」


智香、気が付けば大粒の涙を流している。拭おうともせず、アイシャドウが流れ、ファンデーションも流れ、唇もルージュは流れ、、、

「結花ちゃん、、、ゥグっ、私に何ができる?、、、何して欲しい?、、、ゥグっ、、、何かある?」泣きながら智香。

「無いです。無いです。聞いて貰えただけで、良いです。……覚悟を聞いて欲しかったんです、誰かに、、、

 ごめんなさい、、、変な重い話しちゃって、、、でも、一つ目が出来たら、二つ目の心配はもう必要ないですよね、、、」結花、悲しく笑う。

「ウワ~ン、、、ゥグっウワ~ン、、、」暫くは智香の嗚咽が続いた。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい、、、智香さん、、、、」結花、智香の手を握る。


結花の拒絶のもう一つの理由は小学校時代にあった。(その話は、いずれ、、、)





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